生命にあふれる海洋環境を目指して。MSC認証を日本に広める(後編)

生命にあふれる海洋環境を目指して。MSC認証を日本に広める(後編)

MSC「海のエコラベル」は「水産資源と環境に配慮し適切に管理された、持続可能な漁業で獲られた天然の水産物の証」です。

日本での認知度はまだまだですが、最近では、MSC「海のエコラベル」付きの水産物を店頭で見かける機会が増えてきました。その背景には関係者の粘り強い努力があり、現在も進行中です。

MSC認証の日本での普及活動を続けてきたMSCジャパン プログラム・ディレクターの石井幸造さんは、現状をどうとらえ、課題にどう取り組んでいくのか、そのたゆまぬ努力の原動力を伺いました。(前編を読む)

 

東京オリパラとサステナブル・シーフード

―― サステナブル・シーフード普及の機運を高めた東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が、新型コロナウイルスの感染拡大で延期になった影響をどのようにとらえていますか。

東京オリパラを機に、MSC認証やサステナブル・シーフードを知ってもらうプロモーションに力を入れようとしていたのは事実です。それが延期になり、また、コロナ禍でオリパラに対する世間一般の見方に変化があったこともあり、そこで何か積極的なプロモートをすることはしませんでした。

ただ、そのオリパラの調達方針をどうするかという議論の中で持続可能な調達基準が求められ、水産物に関しても、MSC認証のものも含め、当然サステナブル・シーフードでなければならないということが、漁業者や企業には広く伝わったので、それなりに大きなインパクトがあったと思っています。

 

国内では951品目が MSC「海のエコラベル」付き製品として承認・登録されている。(2021年9月末時点)

 

MSC「海のエコラベル」は消費者に浸透するか

―― MSCが世界23カ国で実施した消費者意識調査によると、日本でのMSC「海のエコラベル」の認知度が2018年の12%から2020年には19%に大幅アップとなりました。石井さんは日本の消費者意識の変化をどう感じておられますか。

確かに、認知度を数字で見ると、欧米に比べてまだまだ低水準ですが、最近、個人のSNSでMSC認証を取り上げる人がかなり増えてきています。日々モニターして確認していますが、数年前まではなかったことです。認知度と言っても、今まではエコラベルを見たことがあっても意味がわからない人も多かっただろうと思いますが、これからはそのラベルの意味も知っている人の比率が上がっていくのではないでしょうか。

―― 一方で、日本の消費者は持続可能性への関心がまだまだ低くて、エコラベルがついているものだけを購入した方が良いというようなアプローチが市民権を得るのは難しいのではないかという意見も聞いたことがあります。エコラベルの普及を進めてきた側としては、どう考えておられますか。

我々は認証がない水産物を追い出そうなどと考えたことはありません。認証されたものを、まずは少しずつでも置いていただきたいというところです。もちろんすべての天然水産物をMSC認証のものにしていくということが究極の目標ではありますが。

持続可能性への関心については、小学生から大学生まで、最近はSDGsの教育にも力を入れているからか、若い人たちの関心はすごく高いですよ。そういう若い人たちが将来の購買層になり、物を買うときにはサステナビリティとかエシカルといったところが重要な要素になってくると思うんですよね。時間はかかるかもしれませんが、日本も変わっていくのではないかと思います。

 

裾野を広げるMSCアンバサダーの影響力

―― 2018年にココリコの田中直樹さんがMSCアンバサダーに就任されました。アンバサダーは何をするのでしょうか

MSC認証の水産物や加工品を扱っていただいている企業も、やはり、消費者の認知度が上がり、MSC「海のエコラベル」の付いた商品が選ばれることを望まれていると思います。そこにさらに貢献できるように我々としても消費者向けの活動に力を入れており、そのためにやっているのが、毎年6月8日の「世界海洋デー」に合わせたキャンペーンです。2020年と2021年はオンラインで実施しました。MSCアンバサダーとして、吉本興業所属のココリコ・田中さんにもご活躍いただいています。

田中さんのおかげで、元々サステナブル・シーフードに関心を持っている購買層とはまた違った方々にもアプローチできたかなと思います。やはり、裾野を広げていくのはすごく重要です。

吉本興業はSDGsの普及にも貢献しておられ、国連広報センターと一緒にプロモーションビデオもつくられました。そこで、生き物が大好きな田中さんにお願いした次第です。MSCの活動についてご理解いただき、引き受けていただきました。最近はすごく勉強しておられ、専門的な質問もしてこられます。

メディアも、初めの頃はどうしてもお笑いにフォーカスが当たっていましたが、今年は芸能系メディアでもMSC認証や海のエコラベルをきっちり紹介していただきました。

 

2018年6月、MSCアンバサダーに就任したココリコの田中直樹さん(写真左)と。(写真提供:吉本興業ホールディングス株式会社)

 

MSC認証の普及を続ける原動力

――MSC認証のさらなる普及のために今後どんな取り組みを考えておられますか。

日本でMSC漁業認証を取得した漁業は12件、日本の漁業生産量の1割程度です。日本で販売されているエコラベル付きの商品は海外から来た魚介類でつくられたものが多く、MSC認証の商品を扱う小売企業やレストランからは、もっと国内の漁業でMSC認証を取るところを増やしてほしいと、いつも言われています。

MSCの漁業認証を取得するには、資源の状態や生態系への影響、漁業の管理について規格を満たす必要があり、かなりハードルが高いですが、認証取得に関心を持つ漁業者は増えてきています。本審査に入るまでの過程で、認証取得が見込めるレベルにしていただくほうがよいので、漁業改善プロジェクト(FIP)など、ほかの取り組みとも連携してやっていきたいですね。

MSC認証商品の販売はまだまだ特定の小売企業に限られています。大手の小売り数社でマーケットシェアの大半を占めているような欧米と違って、日本の場合、小売企業の数が非常に多いので、取り扱ってもらえる企業をもっと増やしていく必要があります。外食関係、特にまだ我々が十分にアプローチできていない寿司チェーンなどにも、これから働きかけていきたいと思います。

―― 石井さんがMSC認証の普及活動を続ける原動力はどこからくるのでしょうか。

そうですね……前職で10年ほどODA関係の仕事をしましたが、自分がやっていることがどう貢献しているのか、あまり直接的にはわからなかったんですよね。

 

2019年6月、IKEA Tokyo-Bayで開催されたキッズ向け「MSCクイズイベント」で熱く語る石井さん。©MSCジャパン

 

今の仕事では、自分が取り組んでいることが、サステナブル・シーフードや持続可能な漁業が増えて、普及していくことにつながっていると実感できます。そこでしょうかね。MSC認証がなかなか普及しなかったときは、どうしたらいいのかと悩むこともありましたが、今は、自分自身がしっかり取り組めば普及につながっていくということで頑張れているのかなと思います。定年はありませんが、年齢的にはもうそろそろです。信頼できるスタッフに支えてもらいながら、あと少し、頑張ろうと。

 

石井 幸造
1964年兵庫県生まれ。水産大学校を卒業後、食品会社等勤務を経て米国インディアナ大学にて環境政策・資源管理で公共政策学修士取得。1997年より財団法人国際開発センターにて主任研究員として開発途上国での地域振興や環境関連プロジェクトに従事。2007年5月のMSC日本事務所開設時よりプログラム・ディレクターとして日本におけるMSC認証やMSCエコラベル付き水産物の普及に努める。

 

取材・執筆:井内千穂
中小企業金融公庫(現・日本政策金融公庫)、英字新聞社ジャパンタイムズ勤務を経て、2016年よりフリーランス。2016年~2019年、法政大学「英字新聞制作企画」講師。主に文化と技術に関する記事を英語と日本語で執筆。

 

 

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