餌から考えるサステナビリティ。 魚に魚を食べさせる養殖からの脱却

餌から考えるサステナビリティ。 魚に魚を食べさせる養殖からの脱却

天然魚の減少に対する解決策として、世界的に養殖の需要が高まっている。すでに世界で生産される水産物の半分以上は養殖であり、その勢いは今後も延び続ける。では、養殖に使われる「餌」はサステナブルなのだろうか。

ノルウェーにグループ本社を構える外資系企業、スクレッティング社は、サステナビリティに配慮した、日本でほとんど唯一の養魚飼料メーカーだ。今回お話を伺ったのは、同社の主力製品のひとつである「ニューサステイン」の開発・販売を手がけた濱﨑祐太さん。

「サステナブル」という言葉が浸透する以前から、持続可能性に配慮した飼料づくりに取り組み続けてきたそのモチベーションの源とは。価格面による苦境をどのように乗り越えてきたのか。そして今後の養殖業界に必要なものとは。お話を伺いました。

欧米より遅れている日本のサステナビリティ

——スクレッティングの取り組みについて教えてください。

サステナブルな養魚飼料の製造と販売に取り組んでいます。

サステナブルな飼料をつくるために、まず大切なのは「魚粉」の使用率を抑えることです。魚粉とは読んで字の如く、乾燥した魚を粉末状に砕いたもので、従来の養魚飼料の主成分となってきました。

しかし、世界的な人口増加よって魚肉の需要が急増し、それによって水産資源がものすごい勢いで減少していくなか、「魚を魚の餌」にするというやり方に持続性がないことは火を見るよりも明らかです。魚粉に頼り切った飼料づくりは、どう考えても頭打ち。だからこそ私たちは2000年代から、魚粉の使用率を抑えた独自の養魚飼料の開発に取り組んできました。

注意していただきたいのは、私たちは「魚粉の使用率をゼロにしよう」と主張している訳ではないということです。それは技術的には可能ですが、サステナビリティの観点からもコストの観点からもそこまで低減させるメリットはありません。

例えば、Marine Trust認証*を満たしたペルーのカタクチイワシなど、水産資源としての持続性が保証されているものであれば、魚粉として使用することに大きな問題はないと考えています。人間が食用とする魚の骨や内臓、頭などの非可食部位を再利用するのも有効な一手です。実際に私たちも、こうした加工残さからつくった魚粉を積極的に活用していますが、それらの原料もサステナブルなものか確認するようにしています。

反対に避けるべきなのは、「違法・無報告・無規制」のIUU漁業由来の原料を使うこと。日本は先進国のなかではIUU漁業の占める割合が圧倒的に高いのですが、サステナブルの理念に反するIUU漁業由来の原料は使用しないようにしています。

もちろん魚粉だけではなく、植物性の原料についても気を配っています。熱帯雨林を伐採して育てられた大豆やパームを使っていたら、持続可能性があるとはとても言えませんからね。

しかし残念なことに、こうした配慮を実践しているメーカーは、国内では私たちだけと言って良い状況です。弊社が、他社に先駆けてサステナブルな飼料づくりに取り組めたのは、ヨーロッパに本社を構える外資系企業である点が大きく影響しています。ヨーロッパではサステナブルな飼料が、10年以上前からスタンダードなものになっており、その影響で日本でも早く展開することができました。この分野で日本は大きく出遅れていると言わざるを得ません。


スクレッティングで扱う様々な養魚飼料

脱魚粉化を進めなければ未来はない

——濱﨑さんご自身は昔からサステナブルというテーマに関心があったのですか?

それが全然そんなことはないんです。私は東京水産大学(現:東京海洋大学)の出身なのですが、志望理由は「海や魚が好きだから」というシンプルなものでした。福岡出身で、小さい頃から釣りが大好きだったから、どうせ勉強するなら海や魚のことがいいな、と。現職へとつながる魚類栄養学を専攻したのも、学内でも数少ない「魚を飼っている研究室だった」から。

きっかけはそんな程度でしたが、飼料の研究にはすぐに夢中になりました。餌の配合などを変えるだけで、魚の成長に如実に変化が表れることがとにかく面白かったんです。ぜひこれを一生の仕事にしたいと思い、飼料メーカーのなかでも水産に特化したスクレッティング社(旧:ヤマハニュートレコアクアテック)へと入社を決めました。

私が入社した2002年にはすでに、「脱魚粉化を進めなければ未来はない」というのが会社の方針として打ち出されていました。先ほども述べたように、ヨーロッパではそれが当たり前でしたしね。

ところが私や養殖現場に近い営業チームは、サステナビリティに配慮しなければならないことを、足かせのように感じてしまっていました。脱魚粉化を進めると、コストパフォーマンスが悪くなってしまうからです。魚に同程度のポジティブな影響を与える餌同士を比べた場合、低魚粉の餌は通常の餌よりも高額にならざるを得ません。サステナビリティに関心のないユーザーにとっては、「ただの割高の餌」になってしまう。それで他社製品に勝てるのか、という疑念がありました。

それでも「何としてでも低魚粉化を進めるんだ」という会社全体の情熱に流されるようにして、新たな低魚粉飼料の開発に着手します。その結果、従来は50%ほどだった魚粉の比率を40%にまで抑えることに成功しました。これに私自らが「サステイン」と命名して商品化。2007年には国内でも販売をスタートします。

ところがこれが大コケしてしまって。私が危惧していた通り、「低魚粉だから」という理由でサステインを選んでくれるユーザーはほとんどいなかったのです。

養魚飼料の原料

魚粉に頼るだけでは魚類栄養学の意味がない

——そこで諦めそうにはならなかったのでしょうか?

正直にいうと、かなり心は折れかけていました。ただ、魚粉の価格というのは漁獲量などに影響されて、一定の周期で高騰するものなんです。次は恐らく2010年頃に魚粉価格が上がるだろうということもわかっていました。そのタイミングであれば、低魚粉の飼料でも価格で勝負できるのではないか。そんな読みから、もう一度だけチャンスをもらうことができました。会社としても、低魚粉化は絶対に実現したいポリシーでしたからね。

この時期に、私自身の考えにも変化がありました。当時の私はどこかで「魚をしっかり成長させるには、魚粉を使わなければならない」と考えていたのだと思います。それを同じ大学出身の韓国人の先輩に、ぴしゃりと言い当てられてしまって。「濱﨑くん、それは魚類栄養学じゃないよ」と。「魚以外のものでも魚を育てられるように考えるのが魚類栄養学の役割でしょう。そのために努力するのが僕たちの仕事だよ」と。胸に突き刺さりましたね。自分の考えの単純さが、恥ずかしかった。あの日のことは今でもよく覚えています。

そうした経験を経てつくりだしたのが「ニューサステイン」です。サステインよりもさらなる低魚粉化を進め、魚粉含有率を30%まで抑え込みました。これは当時は異例の数値で、「そこまで減らして本当に魚が育つのか」と、業界でもかなりの話題となりました。それでも私には、今度はきっと売れるという確信があった。

蓋を開けてみると「ニューサステイン」は大ヒット。魚粉が高騰するだろうという予想が的中し、他社の製品を上回るコストパフォーマンスとなったのです。

ただこの結果も「ニューサステイン」が低魚粉だから評価された訳ではありません。評価されたのはあくまでもコストパフォーマンスです。ある会社の社長さんから「安くて品質がいい餌だから買うんだ」というような声をかけていだいて、そのこと自体は本当に嬉しかった一方で、同時に言い知れぬ恐怖も感じました。もし高魚粉の飼料が安くなれば、簡単に状況はひっくり返ってしまうということですからね。2011年の時点では、まだまだサステナブルであること自体にバリューを感じてくれる人はほとんどいなかったということですね。

ASC認証の取得にはサステナブルな飼料が不可欠

——日本市場でサステナビリティが評価されるようになったのは、いつ頃からなのでしょうか?

2012年ですね。IOCが「2016年のリオオリンピックではASC認証*などの基準を満たす水産物でなければ、選手に提供してはならない」と宣言したことで、一気に潮目が変わりました。2020年の東京オリンピック・パラリンピックでも同様以上の基準が設けられることは誰の目にも明らかで、正直にいって「これはビジネスチャンスだ」と思いましたね。

実際に日本でASC認証取得に取り組んでいる養殖会社の多くに弊社の飼料を導入して頂きました。こうした流れをうけて、「値段が変わらないならサステナブルのものを選ぼう」という意識が、日本でも徐々にではありますが、定着しつつあります。

最近ではASC認証取得のために、養殖漁業者のサポートもしています。ASC認証の最大の壁となっているのは、煩雑な事務手続きです。それさえ乗り越えてしまえば、実は日本の多くの生産者が認証取得に向けて大きく前進できます。

そこでASC認証の監査にも携わっている私たちのノウハウを生かせば、生産者のみなさんがもっとスムーズに認証を取得できるようになるのではないか、と。営業サポートの一環として無償でお手伝いをさせていただいています。

競争原理を生かして、よりよい飼料を

——日本の水産業をよりサステナブルなものにするために、今後どんなことが必要になるでしょうか?

まず私たち飼料メーカーが取り組むべきなのは、トレーサビリティーの基準を見直すことですね。現在、日本の法律では、加工地が原産地とイコールになってしまっています。つまり、外国で獲れた魚でも日本で魚粉に加工すれば、「日本産」ということになってしまう。これでは、本当の意味での産地を追いかけることができず、サステナビリティの観点から問題のある原材料も意図せず使ってしまいかねない。本当の意味でのトレーサビリティーとは何なのかを業界を挙げて見直すべきタイミングにさしかかっていると思います。

もう一点、これは他のメーカーさんへのお願いになってしまうのですが、サステナブルな飼料の開発・販売にもっと積極的に参入してほしい。現在、国内でサステナブルな飼料を供給できているのは、今だにほとんど私たちだけです。こうした独占状況は、適正だとは思えません。生産者のみなさんによりサステナブルで、よりコストパフォーマンスに優れた飼料を提供していくためには、やはり市場原理をしっかりと働かせていくべきです。30年後の養殖業界を守るためにも、「もっとみんなで一緒にやっていこう」という思いはありますね。

養殖産業全体の持続可能性という視点で考えると、産業構造の見直しも必要になってくるかもしれません。実は養殖というのは、非常にお金がかかる産業です。年間の餌代だけで、何千万円~何億円とかかるのですから。これではやはり、産業全体が疲弊してしまう。ヒト、モノ、カネを効率的に集約化する仕組みをつくり、品種改良などにも積極的に取り組んでいくことが、日本の養殖業のサステナビリティを高めるためには必要不可欠だと考えています。

 

濱﨑 祐太
スクレッティング株式会社 プロダクトマネージャー。
東京水産大学(現:東京海洋大学)にて魚類栄養学を学び、2002年に修士課程修了後ヤマハニュートレコアクアテック(現スクレッティング)に入社。養殖用飼料の営業、配合設計、研究開発を経て現在はプロダクトマネージャーとして商品戦略に携わる。2013年に行われた第3回ブリ・スギ類養殖管理検討会にてASC認証の存在を知り、それ以来ASCに対応した飼料の供給に情熱を燃やす。現在ではASC認証対応飼料の供給のみならず、養殖改善プロジェクト(AIP)の支援などの包括的な支援も行い、養殖産業のサステナビリティを高めるために日々奮闘中。

*Marine Trust認証とは・・・
魚粉や魚油の原材料が、社会や環境に対して責任ある手法で生産され、トレーサビリティが確保されていることを担保する認証。Marine Ingredients Certifications社が運営し、世界の魚粉、魚油メーカーの半数が取得している。

*MSC認証とは・・・
国際的な非営利団体、Marine Stewardship Council(海洋管理協議会)の運営する天然水産物の認証制度。「海のエコラベル」とも呼ばれ、水産物が持続可能な漁業によって取られたことを証明する。GSSIの認定も受けており、現在世界中でもっとも広く使われている水産物の認証制度の1つ。世界の漁獲高の約15%がMSC認証を取得しており、41か国で展開。

*ASC認証とは・・・
国際的な非営利団体、Aquaculture Stewardship Council(水産養殖管理協議会)の運営する養殖水産物の認証制度。養殖水産物が社会的、環境的要素に配慮し、責任ある方法で育てられ漁獲されたことを証明する。全世界で1,000を超える養殖漁場が認証を取得している。GSSI認定認証。

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