生協の社会的役割。 組合員とつくる 豊かで持続可能なくらし。

生協の社会的役割。 組合員とつくる 豊かで持続可能なくらし。

全国の生協への商品の供給やプライベートブランド商品(コープ商品)を開発する日本生協連(日本生活協同組合連合会)。定量的なエコラベル商品の調達目標を掲げたり、環境や社会に配慮した主原料を使った商品シリーズ「コープサステナブル」を展開するなど、持続可能な社会の実現に向けて力を入れて取り組んでいます。

また、日本生協連が、WWFジャパン、インドネシアのBOMAR社(PT.Bogatama Marinusa)、WWFインドネシアと一緒に進める「インドネシア・スラウェシ島 エビ養殖業改善プロジェクト」は、シーフードレガシーが運営する「第1回ジャパン・サステナブルシーフード・アワード」のコラボレーション部門の初代チャンピオンに選ばれています。

日本生協連の持続可能な原料調達の取り組みや社会的な意義について、日本生協連の第一商品本部・本部長スタッフ(サステナビリティ戦略担当)の松本哲さんに話を聞きました。

SDGs達成に向けた漁業/養殖業改善プロジェクト

──日本生協連は、2007年よりMSC認証を取得した水産物を取り扱うなど、早い段階で持続可能な原料調達を始めています。長年サステナブル・シーフードの課題に取り組む中で、今力を入れていることを教えてください

SDGsの達成に向けて、国や多くの企業などでも取り組まれていますが、私たちも必要性を強く感じています。現在の地球環境問題や人間活動が地球に与える影響の深刻さは個人としても実感しています。

生協は、一人ひとりの消費者が出資して組合員となり、運営に参画する組織で、商品供給などの事業のほか、組合員のくらしに役立つ様々な活動を行っています。商品を通じて、いかに社会全体に貢献していくか。商品調達の持続性や、社会・環境への影響を考えることが、今、大きな課題だと考えています。

水産分野での取り組みでは、MSC認証などエコラベル商品を増やすことから始めましたが、近年は調達のサプライチェーンを見据えて、漁業者やNGOなどと協力しながら、コープで扱っている商品の原料水産物の「漁業/養殖業改善プロジェクト」にも着手しています。例えば、インドネシアの南スラウェシ州で生産されているブラックタイガーの生産を、環境、社会、人に配慮したかたちに転換することを目指したり、広島のカキを育てる漁業者のMSC認証取得のサポートなどをしています。


インドネシアの「スラウェシ島 エビ養殖業改善プロジェクト」で育てているエビ

──認証取得のサポートはどのような背景で始めたのでしょうか

エシカル消費などへの社会的な関心の高まりに加えて、日本生協連の水産事業を今後も持続していくためには、自分たちが調達や商品開発の方向性を変えていかなければならないと考え始めました。

私が水産部門の責任者だった2014年から2015年は、残念ですが、エコラベル商品の供給金額が減っていた時期でした。当時も環境配慮商品の拡大は課題の一つではあったのですが、私自身、水産事業に携わるのがはじめてでもあり、そこに注力できなかったこともありますし、そもそもMSC認証の原料やサプライヤーの選択肢が少なかったことなどがありました。

その後、2016年に北東大西洋のサバ漁業がMSC認証を取得したことが一つの転機になりました。サバは私たちが扱う中でも基幹的な魚種の1つです。そのことを知ってすぐにサバ商品の取引先の役員の方を訪問して、発売中の商品にMSCラベルを付けられるようにCoC認証の取得をお願いしました。

さらに、2017年頃からSDGsも浸透しはじめ、各生協や組合員からエシカル消費のへの関心が高まりました。組合員とのコミュニケーションの一つの柱としてエコラベル商品が位置づけられ、生協の中で持続可能な水産物の利用を広げる取り組みを提案しやすい関係ができてきたと感じました。

半世紀くらい前から、生協は環境保全につながる商品開発・普及に取り組んできました。1970年代から1980年代には環境に配慮した洗剤や産直などが注目されていましたね。生協には、組合員の参加による、くらしの見直しや社会問題に対応した商品の開発と普及という役割があり、自分もそのような仕事をしたいという思いがずっとあるのです。

生協のエシカルの取り組み

社会や環境への配慮と同時に、私たちの水産事業の継続性も考えなければなりません。日本周辺のサンマやイカなどよく利用されていた魚種の漁獲高が減少し、価格が高騰しています。コープ商品がめざす「ふだんのくらしに役立つ商品」づくりを継続していくためにも、持続可能な水産物の調達を増やす方向にシフトする必要があると考えました。

日本生協連のエビ製品の輸入事業は何十年も前から続けています。しかし、エビの養殖は沿岸のマングローブ林の伐採や、生態系への影響などの様々な課題を抱えています。将来にわたってエビの事業を続けていくことを考えると、できるところから取り組まざるをえません。ASCの認証基準をもとに改善をすすめていくことは、現地の方の協力や時間・費用もかかり容易ではありませんが、目標を掲げて取り組んでいかなければと考えています。

広い範囲で認証を取り、負担を軽くすることが望ましい

──実際に取り組みをはじめて感じる困難さはありますか?

持続可能な水産物を増やす方針は、コープ商品を取り扱う各生協に受け入れられているとみていますが、商品の価格が上がることは懸念されます。これまで扱ってきた認証された魚種では、北東大西洋のサバやアラスカのスケトウダラは、大規模な範囲で認証を取っているためか、認証によって価格が大幅に上がることはありませんでした。認証によって今までより価格が大きく上がるような場合は、現実的には商品化がなかなか難しい面があります。

広島のカキのMSC認証の取得をサポートする中で考えるのですが、小規模な単位で認証を取得しようとすると漁獲量や事業規模からみてコストが重い。認証を広げる上では、より大きな単位で審査を受けるようになれば商品価格への影響も小さくなるのではないでしょうか。そのような形で認証へのチャレンジが広がり、漁業の持続可能性につながっていくことが望ましいと思います。


広島県カキ漁業改善プロジェクト

MSC認証の基準をクリアしていくには想定以上にたくさんの課題があります。広島のカキでは、2017年から取引先や現地の行政の方に「MSC認証とは何か」のご説明から始めて、予備審査や改善プロジェクトを行って、2021年にようやく本審査に入ります。動き始めてから形になるまでに5年位かかりますね。

これまで長年続けてきた漁業の仕組みがありますが、MSC認証の基準からみると、改善が必要なことが出てきます。例えば、漁獲状況が悪くなった時の対応や、絶滅危惧種の保護策が不十分といった指摘を受けます。そこから、関係者と相談してルールをつくり、運用していくといったことをすすめています。

実際に取り組みを始めてみると、いろいろな課題があり、労力やコストもかかることがよくわかります。私たちとしても、すべての商品、すべての取引先に対してMSC・ASC認証を取りましょう、一緒に取り組みしましょうと提起はすることは難しい。だからこそ、漁業、加工、流通などの関係者が幅広く協力して、大きい単位で認証の取得をめざすことや支援することがより重要になると感じています。

生協が果たす社会的な役割

──生協は企業ではなく「協同組合」です。組合として社会で果たすべき役割をどのように捉えていますか

生活協同組合は、組合員の方が出資して参加・利用する仕組みです。時代に合わせて変化しながら、組合員の願いを実現することをめざしていますが、やはり、消費者の暮らしを豊かにしていくことが大きな役割だと考えています。

同時に、生協の組合員だけが豊かになればいいのかというと、そうではありません。私たち生協の活動は、消費者による社会的な運動でもあると思います。

私たち生協には「平和とよりよいくらしのために」というスローガンがありますが、世界中の人々とともに、平和で持続可能な社会をめざしたいと考えています。

私は生協に勤務して30年以上になりますが、あらためて今、社会との関わり方が問われる時代になってきたと思います。仕事を始めた1980年代と比べて、社会は成熟してきていますし、経済の状況も違います。「ふだんのくらし」をサポートするというコンセプトからも、こだわりがあるが高価といった商品ではなくたしかな品質のお求めやすい価格の商品をお届けすることが大事だと考えています。手に届きやすい商品の中で、持続可能な原料を使用した商品など、エシカル消費に対応する商品が数多く含まれている状態にできればいいなと思っています。


「コープサステナブル」シリーズ商品例:「CO・OP 骨取り赤魚の煮付け(しょうゆ)」

また、生協の組合員は、エコラベル商品やエシカル消費に理解がある方が比較的多いと思います。例えば、昨年のMSC認証の認知度の調査では、MSCによる日本の消費者調査で19%でしたが、日本生協連による生協の組合員モニター調査では「購入したことがある」「見たことがある」の合計が32%でした。4年前の2倍になっており、商品が増えたことや各生協で認知向上に向けて努力されていることも反映しています。

私個人としては、生協の組合員に「がっかりしてほしくない」という思いがあります。今、世界では(食糧や資源に関わることで)いろいろな問題が起きていますが、それらの課題に対する生協の取り組みが遅れてしまえば、組合員をがっかりさせることになります。まだまだ道程はたいへんですが、私の関わる水産物の調達の課題をはじめ、より良い方向を目指して行きたいと思います。

日本生協連のコープ商品は自社で加工しているのではなく、お取引先のメーカーにコンシューマーパック(消費者向けに包装した商品)を製造委託しています。そのため、各生協の事業所でCoC認証を取らなくても、組合員にそのままお届けできることが認証商品の普及・拡大という面では強みでもあります。

日本生協連からお願いして、お取引先の企業がMSC・ASC認証商品を製造するためにCoC認証を取っていただいたことをきっかけに、その会社で他にも認証商品の製造が広がった事例もあります。商品の小売や卸売りの働きかけによって、川上の加工業者や漁業者に持続可能な水産物を拡大する取り組みを波及できることもあるのではないかと考えます。

とはいえ、生協のシェアは日本の小売の一割にも達していませんが。(生協組合員を中心に)消費者とのコミュニケーションはこれからも重視していきます。エシカル消費についての学習コンテンツやウェブサイトやSNSで発信することなどによって消費者に知っていただく機会をつくることで、社会に根付かせていきたいです。

水産エコラベル認証を積極的に利用していく

ー今後力を入れていこうとしていることを教えてください

日本生協連は、2017年に「コープSDGs行動宣言」を採択しました。宣言の7つの取り組みの一つに「持続可能な生産と消費のために商品とくらしのあり方を見直していきます」があります。この方針の下で、「日本生協連の水産部門コープ商品の供給金額でMSC/ASC等の認証品を2020年度までに20%以上」にすると目標を掲げていました。

2017年度から2019年度までは順調に供給金額を伸ばしていたのですが、2019年に大西洋のサバのMSC認証が一時停止されたことにより、2020年度は20%の目標に到達できませんでした。認証の停止はたいへん残念なことですが、資源を将来も利用できるように、しっかりとした資源管理計画や漁業管理のルールなどが構築されるきっかけになればよいと考えています。認証エコラベルを積極的に利用していく方針に変わりはなく、2025年までの早い時期に20%を達成するという目標に変更しました。

また、私たちはMSC・ASC認証の拡大を重点としていますが、GSSI(世界水産物持続可能性イニシアチブ)*の認定を受けた水産エコラベルを事業上の必要性に応じてコープ商品の環境配慮商品の基準に採用することにしました。

現段階ではMSC、ASCに加えて、BAP*とMEL*認証を採用しています。2020年度の目標が達成できなくなったときは悩みましたが、私たちの政策文書である「日本生協連CO・OP商品の水産物調達の考え方」を改定し、方針を整理する機会にもなり、前向きな取り組みにつながった部分も多少はあると感じています。

私は50代後半ですが、10代だった70年代から80年代と比べても、世の中は大きく変わりました。当時も公害問題はありましたが、世界的に自然破壊、廃プラスチック、気候変動など、深刻な問題がたくさん出てきました。このままでは、さらに加速度的に悪化してしまうのではないかと懸念しています。

今までの流れを大きく変えるのは難しいことですが、変えなければいけない時期にきています。私自身、今の仕事に携わることができる期間も残り少なくなってきましたが、その間に何ができるだろうと思うこともあります。

水産分野では認証商品の取り扱い目標を掲げていますが、認証されていない商品についても、社会や環境に配慮した調達ができるようにどのようにしていくか、もっと広く考えていかないといけないとも感じます。

生協だけではできることが限られるので、広く、業界や業種を超えて、また、日本国内だけでなく、あらゆるところと連携していくことがこれから一層大事になる。まさにそういう意味での「協同」が、これからますます求められる時代になると思います。

松本 哲
1988年 日本生活協同組合連合会入職。物流管理、商品営業、商品開発・企画などコープ商品(PB)事業に関わる業務を経験。
2010年~共同開発推進部部長、2012年~東北支所支所長、2014年~水産部部長、2016年~生鮮原料事業推進室室長、2017年7月より商品本部・本部長スタッフ。

*GSSI・・・世界水産物持続可能性イニシアチブ。持続可能な水産物普及のための国際パートナーシップ
https://seafoodlegacy.com/1516/

*BAP認証・・・国際的な非営利団体、Global Aquaculture Alliance (世界養殖連盟)の運営する養殖水産物の認証制度。飼料、孵化場、養殖場、加工工場の基準を持つ。責任のある養殖産業における環境、社会、動物福祉、食品の安全性に関する重要要素を満たす養殖水産物に与えられる認証。GSSI認定認証。

*MEL認証・・・一般社団法人マリン・エコラベル・ジャパン協議会の運営する国内天然水産物および養殖水産物に特化した認証制度。持続可能な水産物を「現在および将来の世代にわたって最適利用ができる様、資源が維持されている水産物」と定義し、資源と生態系の保護に積極的に取り組んでいる漁業に与えられる認証制度。漁業規格ver2.0、養殖規格ver1.0、流通規格ver1.0はGSSI認定認証。

これまでの取り組みについて松本さんが語るポッドキャストもぜひ合わせてお聞きください。
ポッドキャストはこちら:https://anchor.fm/mirainosakana/episodes/JCCU-ejg4b8