やり始めたら、やり切るしかない。 理念を胸に進む、 食を通じたサステナビリティへの道

やり始めたら、やり切るしかない。 理念を胸に進む、 食を通じたサステナビリティへの道

神奈川県横浜市を中心に、和食レストランを運営する株式会社きじま。2017年に企業理念を刷新し、サステナブルな取り組みを本格的にスタートしました。その取り組みの中心人物が、同社で事業戦略室長を務める杵島弘晃(きじま ひろあき)さんです。

きじまは、無添加の調味料への切り替えをはじめ、日本の和食店で初となるASC・MSC CoC認証*取得、有機栽培/自然栽培による農産物の使用やアニマルウェルフェア(動物福祉)に配慮して飼育された畜産物の利用など、安心・安全な食材を積極的に導入。そのこだわりは食材にとどまらず、洗剤、包材、店内の内装や箸にまで至ります。徹底的な取り組みの背景にある想い、そしてその原動力とは何か。お話を伺いました。

あらゆる角度から、多面的に問題に取り組む

──色々な取り組みをされていますが、改めて今注力していることを教えてください。

「どれに」と言いづらいのですが、節操がないと言われそうなくらい、総合的に取り組んでいることが、結果としてきじまの特徴かもしれませんね。

「食を通じて持続可能な共同体の創造と発展に寄与する」。これが、きじまが掲げるミッションです。このミッションに照らし合わせた時、取り組むべき課題が自然と出てくるので、そこから行動を選択していきます。

私たちが抱えている課題は知恵の輪のようなもので、色々な側面が絡み合っています。だから、何か一つに取り組めば解決できるという甘いものではないんです。

例えば「海の持続可能性」という問題一つを挙げてみても、過剰漁獲だけでなく、合成洗剤やマイクロプラスチックによる環境ホルモンの問題も絡んでいます。そこで私たちは、石油由来の界面活性剤の使用を完全に廃止しました。仕出し弁当に使うパッケージは、プラスチック製から紙製のものに切り替えました。農薬や化学肥料が河川から流れ出て海を汚染するという問題もあります。そのため、きじまでは、無農薬・無肥料による自然栽培の農産物の利用推進をしています。

また、実は畜産物も海の問題につながっています。遺伝子組み換え飼料や抗生物質を大量に与えられ、不自然な育てられ方によって大量生産された家畜の排泄物が、地下水や河川を海を汚染している現状があるんです。そのため、きじまでは、放牧や平飼いで飼育され、非遺伝子組み換えの飼料で育てられた畜産物の利用を進めています。

このように、あらゆる問題はつながっていて非常に多面的なので、色んなアプローチがあってしかるべきだし、むしろ色んなことに取り組まざるを得ないという想いが根底にありますね。

こうした取り組みをお客様に分かりやすい形で伝えるため、2020年には「きじま オーガニックチャレンジ」を始めました。これは、きじまの取り組みをデータで可視化したもの。例えば水産物のMSC認証比率や有機栽培・自然栽培農産物の比率などを数値で公表しています。2020年11月の実績では、水産物におけるMSC認証比率は7.5%、ASC認証比率は60%を達成しました。2021年中に、MSC認証比率20%、ASC認証比率100%達成を目指しています。

きじまのとりくみ(WEBサイトより)

小さい頃から一次産業が身近にあった

──徹底的な姿勢で問題に取り組む杵島さんが、サステナビリティや環境に関心を持ったきっかけは何だったのでしょう。

何が決定的なきっかけだったのか、答えるのは難しいですね。色々な要素や経験が積み重なった結果だと思います。例えば一つは、大学在学中に北米に留学し、オーガニック食品を扱うスーパーマーケットに出会ったこと。店舗に並ぶ商品の品揃えや盛況ぶり、従業員の生き生きとした様子など日本との違いに驚きました。

また、ちょうど私の高校生・大学生時代は、世の中の環境への関心が高まった時期でもありました。地球温暖化を扱ったドキュメンタリー映画「不都合な真実」が話題になり、環境に関する本を個人的にもたくさん読むようになりましたね。

それから、2011年に発生した東日本大震災。震災直後、父と被災地へ向かったのですが、自然の脅威に衝撃を受けました。取引をしていた大船渡の漁港が凄まじい打撃を受けたのを目の当たりにし、未来の漁業への大きな不安も覚えたんです。

これらの出来事が、サステナブルへの関心につながっていきました。

そして、私がこういった出来事に強く関心を惹かれた背景には、昔から一次産業が身近にあったことが影響しています。小さい頃から、仕入れに行く父と一緒に活魚車に乗って浜まで行っていたし、自宅には「いけす」があって、巨大な魚たちが泳いでいました。魚に限らず、野菜も調味料も、常に近くにある環境で育ったんです。

きじまの代表を務める父は、昔から一次産業に強いこだわりを持つ人でした。自ら長靴を持って産地まで出かけていましたし、素材の鮮度はもちろん、漁師が持続可能なビジネスを実現できるよう、思慮していましたね。30年以上前から、多く獲れても獲れなくても、魚を適正価格で買うという姿勢を貫いていたんです。そんな父の話も昔からよく聞いていました。

──食を仕事にすることは、いつから考えていたのでしょう?

どこかのタイミングで決心をしてきじまに入った、というわけではないんですね。そうなることをすでに知っていた感覚。英語で言うと"I knew it." という感じでしょうか(笑)。

しかし父は、飲食業の大変さを知っていたので、息子には継がせたくないという想いを持っていました。それで大学卒業後は、一度コンサルティング会社に就職したんです。でも役に立てなかったし、続けられずにあっさり退社してしまった。なんせ起きている時間の95%は食べ物のことを考えていますから。食べ物が好きで、こういうもの美味しそうだなとか、こういうの作ったらどうかな、とか。考え始めると尽きることがないんです。

結局、食の世界に気持ちが引き寄せられていくのを感じ、約一年で会社を退社。外で料理をしっかり学ぼう、学ぶならオーガニックが進んだ国でと考え、ニューヨークの調理学校へ入学しました。在学中からレストラン「ブルー・ヒル*」で修行もしました。こうして少しずつ、食の世界に足を踏み入れていきました。

気合と根性で、まずやってしまう

──そして帰国後、きじまで働くことになるのですね。とは言え、お父様は反対されなかったのでしょうか?

基本的に父の答えは「NO!」だったので、最初は無理やり身体をねじ込んでいったような状態でしたね。帰国後、私がまず取り組んだのは、経営理念の刷新です。前述した「食を通じて持続可能な共同体の創造と発展に寄与する」を、きじまのミッションとして新たに掲げました。

実は、私がサステナブルなライフスタイルに惹かれていったのをきっかけに、自然と家族もその考えに影響されるようになっていたんです。そして次第に、お客様に提供するものと、自分たちが良いと思うものの間に乖離が生じていくのを、私たちは感じていました。

家での食事は、野菜もお米も全て有機栽培や自然栽培、調味料は無添加のもの。その方が安心安全で味は良いし、絶対にそちらをお客様に提供するべきだという確信は父も持っていました。その実感が少しずつ、父を動かしたのでしょう。ただ、原価率の問題がありました。醤油も味噌も酢もことごとく、価格は現状の2倍~数倍になる。父からは「オーガニックで事業ができると思ってるのか」と言われました。確かに、そのままの売価で進めれば倒産してしまうような数値です。

でも私は、諦めませんでした。調理場に入って、現場のみんなに声を掛け、まずは調味料の刷新から取り組みました。調味料を変えれば、レシピもすべて変えなければいけません。それでも社員みんなが協力してくれたことは、有り難かったですね。

そして、原価率の問題をクリアするために、社内の徹底的な無駄の削減に取り組みました。すでに数年前からITには投資していたので、顧客管理やレシピ開発、時間の管理などを全てIT化して、徹底的に無駄を無くしていったんです。結果、労働時間は年間で数万時間もの削減になりました。

こうして調味料を皮切りに、野菜や肉、魚などの食材にも、サステナブルなものを積極的に取り入れられるようになりました。

きじまの調味料(WEBサイトより)

──素材を変えるていくたびにコストはかかると思いますが、そこに迷いはなかったのでしょうか?

正直、どうすればできるか、ということを考えていなかったのかもしれませんね。それよりも、目指すゴールにまずたどり着いてしまう。というのも、このような取り組みに中間地点は存在しないからです。「やるか、やらないか」しかない。例えば添加物を撤廃する取り組みは、移行期間に数年かかっていますが、全てやり切るまで公表はできません。やり始めたらやり切って、向こう側へ行くしかないんです。「どうやって?」とよく聞かれますが、強い覚悟を持って、気合と根性でやり切ったとしか説明できませんね(笑)。

自分たちが気持ちいいと思えるビジネスを

──2020年6月には、みなとみらい店が新たにオープンしました。食材だけでなく、店内の内装にもこだわっているようですね。

カウンターや床には適切な森林管理が行われていると認証された木材(FSC認証*)を使用していますし、お箸もFSC認証材のものです。店内は日本の「蔵」をイメージし、100年以上前の素材を使うなど、伝統的な和の空間を再現しました。

コロナ禍の大変な時期に重なってしまいましたが、オープンして良かったという想いはあります。もともと、お客様にサステナブルな取り組みをご評価いただきご来店していただけるとは思っていないのですが、ここ最近は「ここはそういうお店なんでしょ」と声を掛けられることが増えたように感じます。お刺身の盛り合わせを出して「MSC認証の魚です」と説明すると「どこで獲れたの?」と聞かれたり、「新聞で読んだよ」と言われたり。そういう会話が少しずつ増えているのは嬉しいですね。

みなとみらい店の内装

──きじまが全店舗でサステナブルな取り組みを推進する意義は何でしょう?

実は、こうやって猛烈に取り組みを進めながらも、常に自分たちがやっていることに対して懐疑的ではあるんです。本当に評価されることなのか、意味があるのか。自分でも明確に答えられない状態で続けているのが本音です。

きじまの取り組みによって何か大きいムーブメントを起こせるとは、個人的にはあまり考えていません。真似しようという飲食店も恐らく少ないでしょう。でも少なくとも、自分たちがビジネスを続ける上で、良心が痛まない状態にはなっていると言えます。店で出す料理は、非常に安心・安全なことも感じられる。自分たちが商売をする中で、気持ちのいい状態に近づいているという確信は持っています。

──最後に、今後きじまが取り組んでいきたいことはありますか?

新しく始めたいことはあまりないですね。というのは、「これで完璧だ」と思うことは、決してないだろうと思っているからです。「きじま オーガニックチャレンジ」の比率も、まだ100%には達していません。だから、今の取り組みを愚直に続けていくしかないと思っています。最初に掲げた理念に照らし合わせて、ふさわしくない状態があれば、次はそれを変えていく。そのためのシステムやルーティンはつくったので、あとは進めるだけです。

大切なのは、常に立ち返ることのできる理念を持つことだと思います。スタート時点でボタンを掛け違え、そのまま進んでいくと、そこから不具合が出てくる。そしてその不具合を隠すために、また不具合を繰り返すことになります。これは、一次産業に目が向かない、現在の歪んだフードシステムにも言えることだし、あらゆる物事に通じることです。

いつもスタート地点である理念に立ち戻って、そもそも何が目的だったのか、何をするためにやってきたのかを考える。原点である理念を大切に、考えながら進んでいくことが、今後も絶対に必要だと思っています。

 

杵島弘晃

1991年生まれ。神奈川県横浜市出身。早稲田大学文化構想学部卒。卒業後、米国NY州International Culinary Centerで料理を学び、「ファーム・トゥ・テーブル(農場から食卓へ)」を提唱する農場直結型レストラン「ブルー・ヒル」で一年間修行する。2018年株式会社きじまに入社。現在、同社で事業戦略室長を務める。

*CoC認証とは・・・
製品の製造・加工・流通の全ての過程において、認証水産物が適切に管理され、非認証原料の混入やラベルの偽装がないことを担保する認証。

*FSC認証とは・・・
適切な森林管理が行われていることを認証する「森林管理の認証(FM認証)」と森林管理の認証を受けた森林からの木材・木材製品であることを認証する「加工・流通過程の管理の認証(CoC認証)」の2種類の認証制度

*ブルー・ヒルとは・・・
アメリカにサステナブルな食の概念を広めた一人とされる、ダン・バーバー氏がオーナーシェフを務めるレストラン

この記事をシェア