日本らしい資源管理を模索。魚食文化を次世代に引き継ぐために

日本らしい資源管理を模索。魚食文化を次世代に引き継ぐために

日本の小売業を牽引するイオンは、持続可能な社会を実現するために、様々なことに取り組んでいます。脱炭素社会を目指した再生可能エネルギーの活用や、資源循環の促進、持続可能な商品調達などに注力。2006年からMSC認証の水産物を取り扱うなど、海の課題にも早い段階から取り組んできました。

業界トップランナーとして活動するなかで、いまどのようなことが見えているのでしょうか。現状の課題や次に必要なステップとして何を見据えているのか。イオン株式会社執行役 環境・社会貢献・PR・IR担当 三宅香さんに伺いました。

食文化への危機感で日本人は変わり始めている

──2006年にMSC認証の魚を取り扱い始めてから15年。この間、水産にまつわる市場や消費者の意識はどのように変化しているのでしょうか。

私たちは2006年からMSC認証の商品を導入していますが、最初の10年ほどはMSC認証を取得している魚自体が少なく、細々と続けていました。取り扱いが拡大したのは2017年。「持続可能な調達目標2020」を掲げ、明確な数値目標を策定しました。

東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まって以降、それまでのオリンピックの流れを継承し、持続可能な調達の拡大へ期待が高まり始めていました。私たちも、認証商品を扱うというだけでなく、数値目標をもって取り組むというステージに変わりました。

この3年間、持続可能性やサステナブルという言葉に対して、お客様も含めた世の中の関心が高まってきたことを肌身で感じます。やはり、オリンピックでレガシーを残す、という共通の目的があることが大きいと思います。私たちも、店頭でMSC・ASC認証を紹介するVTRを流すなど、啓発活動を続けています。

また、象徴的な魚に対する危機感が芽生えると、世の中の注目度は一気に高まると感じます。例えば、ウナギです。ウナギの蒲焼きという食べ方や、土用の丑の日にウナギを食べるという習慣は、日本の大切な食文化です。そのウナギが絶滅危惧種に認定されるということは、日本の文化に対して警鐘を鳴らされたようなもの。そういったことがあり、お客様の関心が一気に高まったと感じます。

水産資源枯渇の問題は、気候変動や乱獲など様々な要素の組み合わせで起こるため、簡単には解決できません。その難しさを理解した上で、生産者は知識・能力・技術を駆使して持続可能性を守る努力をし、消費者はこうした生産者が作った商品を選ぶことで、取り組みに協力できるという考え方が、この数年でかなり浸透したように感じます。

実際、その結果は数字としても表れています。いまではプライベートブランドの水産物のうち、MSC・ASC認証の商品の売上は約20%にものぼっています。

MSC認証だけではカバーできない日本の漁業と食文化

──消費者の関心が数字に表れているとのことですね。これまでの取り組みから見えてきた現状の課題や、それに対する次の一手を教えてください。

2020年は、3年前に掲げた目標に対する結果を振り返りながら、次のステージで何をしていくかを考える重要なタイミングです。

CoC認証の取得については、2020年度末には目標を達成できる見込みです。一方で、プライベートブランドPBの全水産物でMSC・ASC認証商品を取り扱うのは難しいことがわかりました。現在、プライベートブランドでは、25種43品目のMSC認証商品を提供していますが、それでも全水産物という目標に対しては到底届きません。

なぜかというと、日本の漁業や魚食文化の多様性と照らし合わせると、国際認証のMSC・ASC認証のある魚種だけでは足りない状況なのです。私たち小売企業の努力の範疇を越えた部分があるということです。

海外と比べて、日本にはたくさんの種類の魚を食べる文化があります。地域ごとに食べる魚が違ったりもしますし、それが日本の食の豊かさでもあります。そうした中には、例えばMSC認証では、対象にできない魚種がたくさんあります。

その事実を知ってから、日本の現状を関係者に説明して対象魚種を広げてほしいと働きかけました。しかし、日本特有の漁業に国際的な基準を適応することは難しく、実現には多くの時間がかかることがわかりました。

認証制度について、数種類の限られた魚種しか食べていない欧米との文化の違いがあるなかで、国際的なルールを決められてしまっていることに悔しさも感じましたね。

しかし、MSC認証を取れないからといって、日本の沿岸で獲れる魚を扱わなくてよい、ということはありません。私たちが取り組む目的は、認証の魚を扱うこと自体ではありません。あくまでも、持続可能な調達を実現して、様々な種類の魚をたべる日本の魚食文化を未来永劫残すことです。

ですから、MSC認証だけにこだわる必要はありません。提供する商品が、持続可能な漁業によるものだということを、どのようにしてお客様にお伝えできるかを考えていかねばなりません。

お客様に安心していただくために、「この魚は適切な獲られ方をしていて、こういう観点から持続可能性がある魚ですよ」ということを担保する方法が必要だと思っています。言い換えれば、「認証魚」の定義を考え直すということです。いま世界に存在する認証だけでは、日本で食べられている魚種の半分もカバーできません。

MSC・ASC認証はあくまでツールのひとつ。カバーしきれない部分をいかに評価していくか、その方法を模索しています。それが、2020年以降の第2フェーズで本格的に考えていくテーマです。

──独自の基準をつくったり、持続可能か評価すればするほど、販売価格は上がってしまうかと思います。小売企業として、消費者には安価に届けたいと考えていると思いますが、持続可能性と商品価格については、どのように考えているのでしょうか。

もちろん、認証の取得やトレーサビリティの整備を進めれば進めるほど、コストはかかります。一方で、いまの日本の流通業界には無駄を無くしたり、効率化できることがまだまたあります。ですから、たとえ調達コストが上がっても、他のところでコストを抑えて、消費者への負担を最小限にすることはできるはずだと考えています。むしろ、企業がするべきなのはその努力です。

努力をしても最終的に価格が上がることがあるかもしませんが、できる限りのことをしていれば、お客様にも納得してもらえるのではないでしょうか。私たちは流通、小売企業としての努力をして、漁師さんには漁師さんとしての努力をしていただいて、消費者にも納得していただく。誰かだけが我慢をするのではなく、みんなで知恵を絞り、同じ方向に向かうことが大事だと思います。

日本の消費者は知らない?

──海外の基準に合わせるのではなく、日本独自の仕組みをつくる。そのために重要なこと、もしくは課題はあるのでしょうか?

この問題は、私たち小売企業だけでは解決できません。一緒に考えてくださるNPOやNGO、時として行政にも入ってもらうことが、今後の鍵になると思っています。そこに踏み切れていなかったことが課題だと感じています。

また、消費者に対して情報を開示することも重要だと思います。COP(国連気候変動枠組条約締約国会議 )など国際会議に参加すると、他国と比べて日本の消費者は知らないことが多いのではないかと感じます。社会課題に対する関心のが低さや、自分たちの手元に届く商品がどう作られているか知らないということです。それは、水産物にかかわらず、気候変動やその他の社会問題に対しても共通することではないでしょうか。

ただ、その原因は企業にもあると思っています。情報を持っているのにお客様に伝えないから、お客様は知る機会を得られなかったのではないか、ということです。例えば、データを見せながら「本当に資源がないんです」、「このままでは持続可能ではなくなってしまうので、みんなで考えましょう」など、企業が発信すべきでした。

お客様を守るために良かれと思ってしていたことですが、本当はもっとコミュニケーションするべきだったと反省しています。

一方で、若い世代には、社会に関心を持っている人が増えていると感じます。グレタ・トゥーンベリさんが一例ですが、Z世代と呼ばれる若い世代の人たちが、自分の意見を持ち、発信し始めています。みなさん本当によく勉強していますし、環境問題に対する正しい知識も持っています。

特に環境や食に関心を持つ人は多く、最近では環境問題の観点からベジタリアンになる人が多くいると聞きます。ベジタリアンだけでなく、毎日ではないけどたまにベジタリアンをするフレキシタリアン、肉は食べずに魚と野菜を食べるペスカタリアンなど、種類も増えています。

実は、私の20代の娘から、先日ペスカタリアンになったと聞かされました。なぜかと聞いたところ「環境のために」との言うのです。環境に負担のかからない食事を意識しながらも、魚は食べたいから肉は食べないペスカタリアンになったと。私たちの世代からは考えられない意識の変化だと思います。

これから先、持続可能性を考慮したライフスタイルを選ぶ人たちが主流になってくることを視野にいれて、私たちの世代がきちんと道筋を残さなければならないと感じます。次の世代の人たちに向けて、企業もしっかりとメッセージを発信していかなければと思います。

持続可能なシーフードや漁業をなぜ残していくのかといえば、それは次世代の若い人たちに引き継ぐため。そのために、いま私たちがすべきことを考えています。

いまの暮らしはあたりまえではない

──次世代につなぐという言葉を頂きましたが、三宅さんご自身が10年後、20年後次世代に残したい暮らしや未来について教えてください。

私たちイオンは、あくまでも日常の生活、日々の暮らしを支える企業です。“日々の暮らし”の中に幸せはあると思いますが、その中でも食はとても大事で必要不可欠な要素です。生きるのに不可欠な食品に関して「心配しなくていい」状態、言葉を変えれば「安心だ」と思えることは、実はとてもありがたいことだと思います。

そのありがたい状況が、10年後にも続いていたらいいなと思うのです。

「安心」にも、いろんな種類があります。例えば、その食べ物自体が安全であること。残留農薬や体に有害な化学物質がない安心です。あるいは、食べ尽くされていないこと、みんなに十分に行き渡る量があるという安心もあります。つまり特定の食のために戦いが起きるような世界ではなく、自分が食べてもみんなの分もある、という安心です。

あたりまえのようなことですが、そういう安心を提供し続けられる会社でありたいと思いますし、そういう世界が続けばいいなと思います。

残念ながら、このまま世界が進んでいくと、20年後の未来はそんなに明るいものではないでしょう。食糧問題ひとつとっても、日本はともかく、アフリカ大陸にいる人たちが全員安心して食べられるほどの供給量があるでしょうか。

さらに、気候問題がこのまま解決されなければ、20年後には戦争をしながら食べ物を確保するようになるかもしれません。空想ではなく、そういう世界がやってくるかもしれないような状態です。

ですから、私はあまり高望みはしていません。いまの生活が30年後も続いていたら、それは実はすごく幸せなことだと思います。子どもたちの世代、娘が家族を持ち、次の世代の子どもを安心して育てられている。私たちの孫が、私たちと同じようにウナギやマグロを食べられている。小さな願いかもしれませんが、それがあたりまえではないという危機感のほうが大きいかもしれません。

30年、そして40年後、私が90歳になったときにも、いまのような暮らしが続いてほしい。そして、「あのとき私たちが頑張ったからいまがある」と思えるようにしたい。そのために、いまできることをやり続け、次世代につないでいきます。

三宅香

幼少期と大学時代をアメリカで過ごし、1991年にジャスコ株式会社(現イオン株式会社)入社。国際事業本部配属。2002年、イオン株式会社財務部配属。同社の2020年グループビジョン策定PTリーダー、ブランディング部長を経て、2008年、クレアーズ日本株式会社代表取締役社長に就任。2013年、イオンリテール株式会社 グループお客さまサービス部長。その後、執行役員、広報部長、環境・社会貢献・PR・IR担当を兼任し、2017年より現職。

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