持続可能な水産資源利用と科学的な資源管理

持続可能な水産資源利用と科学的な資源管理

持続可能な水産資源利用の実現に向けて、資源評価に基づく科学的な管理基準値や漁獲制御ルールを設定した取り組みが行われています。そこで、持続可能な水産資源の利用においてなぜ資源管理が必要となるのか、資源管理の考え方について触れながら説明していきます。

 

水産資源の望ましい状態とは?

持続可能な水産資源を実現していくためには、資源を「望ましい状態」に保つことが必要となります。さて、この「望ましい状態」とはどのようなものなのでしょうか。

水産資源を考える際に「余剰生産」という定義があります。余剰生産は「資源の加入量*1+成長した魚の増加分―自然死亡量」で表され、持続可能な資源管理においては余剰生産を超えないレベルで資源状態を維持することが必須となります。したがってシンプルに「望ましい状態」を位置付けると、それは親魚も再生産を果たせるレベルに存在し、余剰生産に対して獲りすぎていないこととなります。この望ましい状態を維持し、資源を減らすことなく得られる最大の推定漁獲量を水産資源科学では「MSY(最大持続生産量)」と呼び、最終的な資源管理目標としています。
 

*1 個体が成長して漁業の対象に加わること

持続可能な資源量を保つために、水産資源の2つの特性である「自律更新性」と「無主物先占」について理解する必要があります。「自律更新性」とは、ある魚種に対して一定程度の漁獲圧を加えても、再生産(次世代を産み出すこと)を繰り返して個体数を維持できる資源の特性を意味します。「無主物先占」は水産資源は漁獲されるまでは誰のものでもないという特徴で、先取り競争が起きやすくなるリスクがあります。

資源量は、MSYレベルを超えない限り一定程度の漁獲圧が増えても元の状態に戻ろうとする作用が働きますが、「自律更新性」を上回るレベルまで「無主物先占」を背景として過剰な漁獲が続くと漁獲圧が強くなり、再生産が困難となる「枯渇状態」に陥る結果となります。

この状態が「乱獲」であり、一度この状態になると資源の回復が難しくなってしまいます。

 

資源の状態を見る「神戸チャート」

ではもし「乱獲」状態になってしまった場合、どのように資源を回復していけば良いのでしょうか?そのためには漁業の持続可能性をを親魚の資源量と漁獲圧の両面から見ることが重要です。
これを表したのが「神戸チャート*2(下図)」です。
 

*2 資源の状態を表すMSY を実現する資源量(BMSY)と現在の資源量(B)の比を横軸に、漁獲の強さを表すMSYを実現する漁獲係数(FMSY)と現在の漁獲係数(F)を縦軸にして、資源の状態と漁獲の強度を一つの図にまとめたもの
(「水産資源評価の現状とこれから」FRA NEWS, vol59,P19より)

 

 

x軸は、親魚の資源量(x軸)を表しています。中央の1.0(MSY水準)よりも大きければ親魚の資源量は余力がある(underfished)、1.0よりも少ないと資源枯渇(overfished)という意味になります。

y軸は、漁獲圧(y軸)を表しています。中央の1.0よりも大きければ漁獲圧が高く(overfishing)、1.0(MSY水準)よりも少ないと漁獲圧が低い(underfishing) という意味になります。

神戸チャートでは、親魚の資源量、漁獲圧の状態ごとに4つの区分にわけて資源管理に必要な対策が取りやすいよう表現しています。

 

区分①(赤)親魚の資源が減少しているにも関わらず、過剰漁業が行われている…禁漁が必要なケースもある
区分②(右上の黄色)資源はMSYを上回っているが過剰漁業が行われている…漁獲量や努力量を減らし、親魚の資源量が減少しないよう注意が必要です
区分③ (左下のオレンジ色) 枯渇した親魚の資源を回復させるために漁業が抑制されている…漁獲のサイズ規制などを適用し親魚の資源量を増やす必要があります
区分④ 資源量がMSYを上回り、漁獲圧も適切…現状の漁獲圧を維持し、と親魚の資源量が減少しないよう、管理をする必要があります

 

例えば、資源状態が黄色の区分②に入っている場合は、資源はまだ枯渇状態になっていないものの、漁獲圧が過剰になっているので、漁獲圧を下げるような漁獲制御ルールとして一定程度漁獲量を削減することなどが対策となります。

 

資源管理の重要な点3つ

ここまで水産資源の望ましい状態について、また資源の特徴などについて説明してきました。これを踏まえて、以下の3点が資源管理上重要な点であるとされています。

 

1. 過度な間引き(漁獲)をしないこと
資源の再生産能力を超えるほど漁獲すると、資源が枯渇してしまいます。状況に応じて漁獲量を定める、状態が極めて悪化している場合には禁漁にするなど厳しい対応をとる必要があります。
2. 小型魚、幼魚を保護すること
漁業収入を上げるために単価の安い小型魚を漁獲することがありますが、これでは資源が枯渇するばかりです。網目の制限等を行うなどして資源管理をする必要があります。
3. 産卵親魚を保護すること
産卵期を禁漁にするなどして、適切な資源管理を図ることで資源量を増やします。

 

最後に

獲りすぎているだけが乱獲ではなく、状況によって4区分に分けられる、ということに驚いた方も多いのではないでしょうか。持続可能な水産資源を実現していくためには、資源を「望ましい状態」に保つことが必要ですが、そのためには詳細な状況に合わせて適切に対処していくことが求められます。

目先の状況で判断するのではなく、長期的な視野に立って資源管理に取り組むことで豊かな海を次世代に繋いでいくことが重要です。

 

<参考文献>
田中栄次 (2015)「水産資源管理学-水産資源の持続的利用とその管理-」
・長谷川彰(2002)「長谷川彰著作集〈第1巻〉漁業管理」
水産経済新聞「「神戸チャート」で資源見える化、水産庁が新評価手法」,2019-3-11
「水産資源評価の現状とこれから」FRA NEWS, vol59
・田中昌一 (1985)「水産資源の動態モデルと変動の予測」

 

文・図:長澤奈央