シアトル・シーフードサミットレポート:日本、韓国、中国が直面する課題とは

シアトル・シーフードサミットレポート:日本、韓国、中国が直面する課題とは

 

生産国、そして消費国として世界の水産業に大きな影響を与えるアジアは世界のサステナブルシーフード市場からも大きな注目を集めており、FIPやAIP、認証スキームなどのアジアへの進出は年々増加しています。しかし、欧米のモデルケースとも言える「企業とNGOのコラボレーション」を言語や文化、風習や制度が異なるアジア圏にそのまま持ってきても、摩擦が生じてしまうことが長年課題とされてきました。今回、シーフードレガシーは国際NGOのオーシャンアウトカムズと合同で、アジア圏でこの新しいムーブメントを定着させるためにはどうしたら良いのか、企業とNGOのパートナーシップを成功させる鍵について日本・韓国・中国で活動するスペシャリスト達をお招きし、ディスカッションを行いました。

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アジアにおける成功の方程式
〜企業とNGOのパートナーシップを成功させるには〜

Lesson Learned: Overcoming Business and NGO Challenges in The Asian Market

<登壇者>
松本哲  日本生活協同組合連合会 生鮮原料事業推進室 室長
ジハン・パーク  水産コンサルタント 韓国
ブライアン・カウエット  オーシャンアウトカムズ グローバルディレクター
ソンリン・ワン  オーシャンアウトカムズ 中国プログラムディレクター 中国
花岡和佳男  シーフードレガシー 代表取締役社長

<ファシリテーター>
アナ・チャン  シーフードレガシー USアドバイザー

アジア各国で「サステナビリティー」とはどのように解釈されているのか

シーフードレガシー代表の花岡は日本での解釈について、「一般的にサステナビリティー、持続可能性、と言われてもしっくりこないのが現状。しかし、日本人のルーツにはサステナビリティーが深く関わっているように思う。いただきます、ごちそうさま、といった自然に感謝を表す言葉や、もったいない、といった言葉があるのは日本ならではないか。」と述べた。ワン氏は「中国ではこの新しいコンセプトを受け入れる準備ができてきたようにも思う。」と述べた上で、一部ではサステナビリティーが「天然資源の最大収量値」と理解されてしまっている問題点も指摘した。パーク氏は韓国での解釈について、「サステナビリティーという言葉は環境活動の中から広がり、現在では社会経済にも適用される言葉になっている。」と述べ、日本同様、一般的にはまだまだ理解しにくいコンセプトではあるが、自然に敬意を表し大切にする心は韓国の文化に根付いていること説明した。

また会場からは欧米の水産企業と深い関わりを持つ東南アジアの水産業界では、サステナビリティーの解釈において、まだまだ曖昧な部分があるものの「サステナビリティー顧客が求めているもの、企業の調達方針やCSRにおいて重要な要素」と割り切って、欧米の流れについて行っている部分もある、との声も上がった。

実際のところ、サステナブル・シーフードはどれだけ普及しているのか

日本のサステナブルシーフード事情について、松本氏は「水産物の調達に携わっていると、漁獲される魚体の小型化や、資源が安定しないことによる値段の変動を実感する。サステナブルシーフードの普及はまだまだだが、東京五輪の調達方針や報道を通して、今後コンセプトが消費者に浸透することに販売側として期待したい」と述べた。漁業が盛んな韓国でも認証付きのサステナブルシーフードはオーガニック規格などの他のスキームと比較しても浸透が遅れているようだ。

アジア圏での経験が豊富なカウエット氏は自身の経験からアジア企業の高い適応能力について、「2007年の時点でアメリカの企業よりはるかに多い数の中国企業がCoC認証を取得していた。アジアでは認証の普及が遅れていると指摘されるが、サプライチェーンの位置によって状況は異なる。」と述べた。

養殖か天然か

アジア圏ではASC認証の方がより受け入れられやすい、という見解がある。これについての意見を求められたパーク氏は韓国人の食品安全と健康に対しての高い意識について、「サステナブルシーフードというコンセプトが浸透しきれていない中、MSC認証よりもASC認証の方が韓国の消費者にとって分かりやすい。ASC認証があれば、抗生物質や化学物質が制限されていることの証明になり、食品の安全を担保する認証として消費者も反応する。認証取得にコストがかかるため、漁業者も消費者の反応がないと認証取得に乗り切れない。」と述べた。

NGOと企業の関係におけるチャンレンジ

花岡はまず日本におけるNGOの社会的地位について説明した。欧米と比較して日本の消費者はNGOより政府や企業に信頼を寄せる傾向にある。しかし、企業とNGOのパートナーシップは広がりを見せつつあり、2020年の東京オリンピックへ向けて企業とNGOのコラボレーションに対する期待が高まっている。続いてワン氏は中国特有の問題を指摘した。急速に発展した大都市と発展途上で貧困に苦しむ地方都市の両方が存在する中国では教育や生活水準向上に取り組むNGOが多数を占める。また企業や政府の持つ力や消費者からの信頼といった社会のバランスが欧米とアジアでは大きく異なる点も指摘された。

ではNGOがアジア圏で成功するにはどうしたらいいのか。海外の成功経験は大きい。この経験と知識はポジティブな流れを持ち込むが、欧米の方法をそのまま当てはめるのでは無理がある。コミュニケーションや実務はその国でネットワークを持ち、経験のある人が行う方がスムーズに進み、定着しやすい、とカウエット氏は述べた。そして花岡は同じ観点から、欧米での成功経験を持ってアジアに進出してきた水産系の国際NGOが、現地スタッフをチームリーダに据えステークホルダーと現場レベルで問題意識の共有や解決策を模索する対話を始めたことで、日本でもビジネスが動き出す流れが生まれた、と”Think Global Act Local”の浸透を歓迎した。

スライドを使ったプレゼンテーションなどはなく、対話式のパネルディスカッションで和やかなセッションとなった。

左から:パーク氏、花岡、カウエット氏、松本氏、ワン氏、チャン

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今回行われたシーフードサミットでは、20年目を迎えた欧米のサステナブルシーフードムーブメントを祝うような和やかな雰囲気が流れていました。そしてそこから10年、15年遅れていると言われる日本、そしてアジア諸国。海外の成功事例から学びつつ、その土地、文化、人に最も適した方法を探り、その差を埋めていこう、という意気込みが今回のセッションから感じ取ることができました。