成功事例 ―北海道 世界最大のシロサケ漁業を再展望する

成功事例 ―北海道 世界最大のシロサケ漁業を再展望する

 

地球上で最大規模のサケの遡上が北日本で見られることは、あまり知られていません。

北海道には世界最大規模のシロサケ漁業がありますが、その年間生産量は10万トン以上に上り国内市場や輸出市場(米国など)へ出荷されています。しかし近年は目標の漁獲量を確保するため、ほぼ全面的に孵化場魚の生産に依存しています。全国的に原生河畔林や湿地の生息地が破壊され、自然の産卵床へのアクセスも失われる中、多くの野生サケ個体群が姿を消しました。道内では、産卵床全体の27%がダムによりアクセス不能な状態に陥っています。サクラマス(学名:O. masou)やイワナ(学名:S. leucomaenis) のような他のサケ科魚類の遡上も見られなくなりました。

日本では商業漁業や地場産業を守るために、世界最大規模の孵化場システムの開発に多額の投資が行われ、現在では何十億というサケの稚魚が量産されています。しかし、ごく最近までわずかに残る野生サケ個体群のモニタリングや保護への関心はほとんどありませんでした。

持続可能な水産物に関する話題が盛り上がる中、日本シロザケの主要生産者組織である北海道漁業協同組合連合会(北海道ぎょれん)は、輸出水産物の持続可能性に関心を持つようになりました。北海道シロザケ商品の約半分が年間で輸出されているため、西洋で話題になっている問題に着目するのは、漁業者としてごく自然な流れでした。その後北海道ぎょれんとO2スタッフの縁がつながり、ついに2008年、MSC認証への科学的な基盤づくりを目的とした野生サケの多年評価およびモニタリングプロジェクトが生まれました。

まず改善の取り組みの第1段階として、日本では50年以上実施されなかった野生シロザケ資源の評価を行いました。遡上量を予測するため、ウェーダーを着込んだ日本の現地調査グループが、川底や湿地帯の中を長距離にわたって歩き回り、苦労して産卵床や産卵親魚数を数えました。そしてついに約1年後、その後も続く研究論文の第1弾が発表されました。その報告によると、サケ科魚類の自然産卵個体群が多くの河川で見つかり、中には個体数が豊富な地域もありました。同時に野生サケは、網やダム、道路、河川工事などおびただしい数の障害に直面していますが、それでも日本の川で何とか産卵し生き延びる術を見つけていました。私達はこのような魚たちを少しでも助けることができればと願っています。

そして北海道ぎょれん、現地の漁業管理者および科学者が初めて協力し、サケの生産地域における管理戦略の指針となる、国の野生サケに関する方針の策定に取り掛かりました。この方針案により固有な特徴を有する野生サケ個体群の存在と重要性が認識され、その保全の優先順位が高まりました。

野生サケを保全するという考え方が日本でも根付き始めている一方で、野生サケと孵化場サケが相互に与えうる影響の問題に取り組む必要性に関しては、まだ激しい議論が続いています。孵化場サケが野生サケに与えうる影響に関する研究のほとんどは、ギンザケやスチールヘッドおよびマスノスケが対象になっていますが、シロザケに関する研究はまだ限定的で結論が出ていません。

漁業者は、商業漁業に対するリスクを冒してまで孵化場生産を全体的に減らすことには後ろ向きな一方で、運営していない個々の孵化場の撤去や、孵化場のある河川(増殖河川・放流河川)と孵化場のない河川(非増殖河川・非放流河川)のゾーニングには前向きです。漁業者が孵化場撤去の主要な賛同者であるため、このことは前例を作る上で非常に重要な意味があります。

北海道シロサケ漁業の改善への取り組みに関連して、知床地方が世界遺産へ登録されたことを受け、国や自治体は野生サケ漁業および河川にかかわる様々な改善にも真摯に取り組みました。認証に向けた活動を通じて野生サケ保全の必要性に対する理解が深まる中、現地の漁業者は、世界遺産登録地における包括的なダム撤去計画を支持しました。最終的に魚道および産卵状況の改善のために30基以上のダムが撤去されました。このような改善の例として、下の改善前と改善後の写真をご参照ください。

これまでの進歩は称えられるべきですが、日本の野生魚の状況を改善するにはさらに多くの課題が残っています。北海道ぎょれんは最終的にMSCプログラムから撤退することになりましたが、現在は第三者機関の審査を通し信頼のおける漁業改善計画(FIP)の実施を検討しています。FIPはこの世界的にも重要な漁業の姿を世界に伝え、更なる改善に向けた次の段階の道筋を示すものになるはずです。

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