データをつなぎ、価値を届ける。富士通が挑む水産トレーサビリティの第一歩(Part 1)

データをつなぎ、価値を届ける。富士通が挑む水産トレーサビリティの第一歩(Part 1)

富士通株式会社
クロスインダストリーソリューション事業本部
Trusted Society事業部 シニアディレクター
植村 幸代

サステナビリティに関する課題は、一つの企業だけでは解決できません。生産者から加工・流通、そして消費者まで、サプライチェーンに関わる人々が情報をつなぎ、協力して取り組むことが求められます。
富士通株式会社(以下、富士通)でサステナビリティ関連のビジネスを推進する植村幸代さんは、ITを活用し、企業や業界を越えてデータを共有する仕組みづくりに取り組んでいます。2026年2月には、Umios株式会社(以下、Umios)との実証実験を実施。データをつなぐ最初の一歩は、どのようにして踏み出されたのか。植村さんに伺いました。

 

植村 幸代(うえむら さちよ)
富士通株式会社 Senior Director。サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)事業の責任者として、信頼できるバリューチェーンデータを活用した企業・業界変革を推進。企業間データ連携やトレーサビリティを通じて、サステナビリティへの対応を事業競争力へと転換する新たな価値創造モデルの実現に取り組む。国内外の企業、業界団体、国際標準化コミュニティとの共創をリードし、資源循環やサプライチェーン変革を含む幅広い分野で、持続可能なバリューチェーンの実現と業界横断のデータ活用モデルの社会実装を推進している。近年は水産業をはじめとする多様な産業において、データ活用を通じた経営変革と新たな事業価値創出に取り組み、持続可能性と事業成長を両立する産業変革を推進している。

限られた資源の中で小規模事業者が関わる水産を守るために

——植村さんは現在、富士通でどのようなお仕事をされているのでしょうか。これまでのご経歴もあわせて教えてください。

私はサステナビリティのビジネスを推進し、ITソリューションをグローバルに展開する仕事に携わっています。社会課題の解決は、システムを導入すれば実現できるというものではありません。バリューチェーンがつながっているからこそ、ステークホルダー同士、業界同士、国同士をつなぐ活動が必要です。ですので、参加する皆さんの収益化やリスク低減につながるソリューションを提供しながら、全体のルールメイキングにも関わっていければと考えています。

もともとはIT基盤をつくる開発をしていて、企業間システムの構築から始めました。現在は、企業間でクラウドを活用しながらどのようにしてデータを連携し可視化するかが重要になり、つくる基盤の種類も変わってきています。ドイツ駐在を経験し、国内だけでは社会課題は解決できないとも感じています。

——日本の水産業については、どのような思いをお持ちですか?

業種ごとに取り組むべき課題は異なり、製造業はコスト削減や資源の使い方が中心ですが、水産業では調達、IUU漁業、労働力不足などが挙げられます。水産は限られた資源の中で、将来にわたって漁を続けられるかが重要だと感じています。

また、水産業はコミュニティが独特で、第一線には小規模単位の事業として漁を行っている方たちがいます。漁師や漁港の多い熊本で育った私にとって、そうした方たちが安心して安定した生活を送れることも重要だと感じています。

Umiosとの実証実験。協働に向け踏み出した一歩

——2026年2月、富士通はUmiosと共同で実証実験を行いました。その概要と、富士通の役割を教えてください。

今回行ったのは、調達・加工した水産物が消費者に渡っていく中で、水産物がどこで生産され、どのような工程を経て消費者に届いたかを可視化し、その情報が消費者にとって価値になるかを確認する検証でした。この検証で、私たち富士通は、IT基盤を提供する役割を担っています。各工程のデータをつないで可視化する基盤を私たちが構築して提供し、Umios様が関係者ににデータ提供を呼びかけることで情報を集めました。

今回は和歌山県で養殖しているクロマグロを対象に、養殖場から販売店までの流通情報が集められました。その情報を消費者が店頭でスマートフォンを使って確認できる仕組みも富士通が構築しています。

 

——結果として、約77%の消費者が「トレーサビリティの情報を確認できる商品であれば、追加で対価を払ってもいい」と答えたそうですね。

そうしたお声が聞けたのは、第一歩を踏み出せた証だと思っています。次はより多くのステークホルダーに参加いただき、他の製品にも広げ、集めたデータが誰にとって価値になるかを追求したいと考えています。何事も0から1にするところが難しいですから、今回の最初の一歩は大きいと感じています。

何を集め、誰に見せるか。Umiosとの協働で絞った最初のスコープ

——今回の検証で、何のデータを集め、誰に可視化するかは、スムーズに決まりましたか?

今回使用した富士通の「Sustainability Value Accelerator」のトレーサビリティソリューションは、業界や対象を問わずバリューチェーンからデータを集め可視化する仕組みを持つソリューションで、何のデータを集め、どのように可視化し、誰に見せるかはお客様ごとに変わります。



特に何のデータを集めるかは、Umios様がステークホルダーにお声がけする中で決めていきました。そして、「和歌山県で養殖しているクロマグロ」という最小限の製品に絞って消費者の反応を数値化する、いわゆるMVP(Minimum Viable Product)の考え方で進めていきました。

——ステークホルダーからのデータの収集は、どのようにして進められたのでしょうか。

今回は、Umios様とステークホルダー1件1件との調整の上で、データ収集の協力を得るという形で進められました。必要なのは「いつ・どこで調達・加工されたか」という情報で、バリューチェーンをつなぐにはすべてのステークホルダーにデータを提供していただく必要がありました。それぞれに普段の業務がある中で、協力依頼をするのは大変でもありましたが、皆様のおかげで情報を集めることができました。

正しい情報を広く集めるための、富士通ならではの強みとは

——データの収集にあたり正しい情報を広く集めるために、どのような工夫をされていますか?

富士通では、データの正しさを証明するために、情報提供者が改ざんできないデータベース(ブロックチェーン)を使用しています。このデータベースでは一度入力したデータは書き換えることができず、悪意を持って入力することもできるものの、誰が何の情報を入力したか消せない形で残るので、それが改ざんの抑止力になっています。

また、例えばアフリカやインドの農家からスマートフォンでデータを集める場合、スマートフォンの位置情報をそのまま使って場所が正しくなければ情報を入力できない仕組みにすることで、なりすましによるデータ改ざんを防いでいます。

水産でバリューチェーンを広げて情報を集めるためには、海の上で働く漁師さんをはじめ現場の方にもデータを提供してもらう必要があります。富士通ではそのための取り組みを「サプライヤーエンゲージメント」と呼び、情報提供に参加いただく方のネットワークを広げています。

——富士通が水産業の課題に取り組む強みは何でしょうか。

ITベンダーとしての技術力に加え、社内の研究所が開発した最新のAI技術を活用していることが一つの強みです。また、富士通自身が「Sustainability Value Accelerator」など自社製ソリューションを最初の利用者(=お客様)として自ら使い、そこから得られた実践知やノウハウをお客様に還元する「カスタマーゼロ」の取り組みも、水産業の課題に取り組む上での強みとなっています。

次に進むべきステップは、「検証から実装へ」

——今回の実証実験で、Umiosとの間ではどのような手応えを感じていますか?

Umios様側から次のステップに進もうというお話があり、私たちだけでなくUmios様も今回の実証実験を評価されていると感じています。水産の問題は1社だけでは取り組めない。企業間で協力して進めていかなければならないということを、改めて認識できる機会になったと思っています。

——来年に向けて、Umiosと新たな取り組みを予定されているのでしょうか。

Umios様がどのようなロードマップを描いていらっしゃるか、ここでは具体的にお話はできませんが、一般的にも水産のサステナビリティは啓蒙・検証の時代から実装の時代に変わっています。Umios様とも、対象魚種の拡大、本システムの高度化、サプライチェーン全体への展開を推進し、水産物の流通における透明性確保とIUU漁業対策の社会実装を加速していきたいと考えています。

 


データをつなぐ第一歩を踏み出した富士通とUmios。Part 2では、水産業ならではのデジタル化の難しさや、サステナブルシーフードを主流にするために必要なこと、富士通の今後の展望などを伺います。

 

 

取材・執筆:河﨑志乃
編集者・ライターとして企業広告の制作に携わった後、2016年よりフリーランスライター・コピーライター/フードコーディネーター。「衣食住医」を専門とし、あらゆる分野で執筆を行う。

 

 

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