香港流サステナブルシーフード主流化作戦が描く、アジア市場の連携と変革(Part 2)

香港流サステナブルシーフード主流化作戦が描く、アジア市場の連携と変革(Part 2)

香港サステナブルシーフード連合(HKSSC)
事務局 マンディ・ウォン

香港サステナブルシーフード連合(Hong Kong Sustainable Seafood Coalition、以下HKSSC)の事務局を務めるマンディ・ウォンさん。Part 1では、2026年6月に香港で開催されたサステナブルシーフード・フェスティバルの手応えから、香港出身のマンディさんの海鮮料理にまつわる思い出、イギリス留学を経てHKSSCの事務局を務めるに至る歩みと取り組みを伺いました。

Part 2では、彼女の目から見た日本のサステナブルシーフード推進の進展、サステナブルシーフードを主流化するための戦略、とくにアジアの国々の連携のために必要なことを語っていただき、TSSS2026の参加者に伝えたいメッセージも伺います。

もっと親しみやすく、もっと取り組みやすく

――サステナブルシーフードの話を初めて聞くという企業の人たちと、どのようにコミュニケーションを取っていますか?

仕事上の限られた時間のやり取りでは、調達や社内のコミュニケーションにすぐ使える、実践的な戦略に落とし込みます。企業にとってシーフードは数ある話題の一つに過ぎませんので、メッセージはできるだけ軽く、簡潔にすることが重要です。

――2024年の東京サステナブルシーフード・サミット(当時名称、後にサステナブルシーフード・サミットに改称; TSSS2024)に登壇されました。その後の日本のサステナブルシーフードの推進をどう見ていますか?

2024年10月、TSSS2024に登壇したマンディ・ウォンさん(左から2人目)2024年10月、TSSS2024に登壇したマンディ・ウォンさん(左から2人目)

政府からの支援がより手厚くなったのは素晴らしいと思います。とくに重要なのは、持続可能性に関する授業が小学校のカリキュラムに含まれるようになったことです。若い世代に種を蒔くシステム的な変化という意味で、大きな一歩だと思います。それは学校での教育だけでなく、生徒たちが家に持ち帰る知識は親たちにも影響を与え、いわば間接的な教育にもインパクトがあると言えます。

サステナブルシーフードに関して言えば、親が子どものために思慮深く選択するようになるのです。もはや水産物の品質や安全性だけを考慮するのではなく、より広い視野で、持続可能性の側面、つまりその食品が責任を持って生産されたものかどうかも考慮するようになるということです。

――香港にも同様のサステナブルシーフード教育のプログラムはありますか?

ここ数年で、小中学校はサステナブルな暮らしや食を教育カリキュラムに取り入れ始めています。私自身、生徒たちにプレゼンテーションをする機会をいただきましたし、教育セクターが国連のSDGs(持続可能な開発目標)により前向きになっていることに感銘を受けます。このトピックを教室に持ち込むことが、システム的な変化をもたらす上で欠かせないと考えています。

香港の小学校でサステナブルシーフードについてプレゼンテーションするマンディさん (写真提供:マンディ・ウォン)香港の小学校でサステナブルシーフードについてプレゼンテーションするマンディさん
(写真提供:マンディ・ウォン)

――ADMキャピタル財団のChoose Right Todayの活動を通じて意識の高い消費者を増やすこと、そしてHKSSCの活動を通じてサプライチェーン全体で責任ある調達を進めること、という2つの取り組みに関わる中で、消費者向けと企業向けの活動のバランスをどのように取っていますか?

そうですね。この2つは車の両輪であり、2つの車輪を回し続けるには、異なる戦略が必要です。消費者と企業とでは話す言葉そのものが違うと言えるほどアプローチが異なり、ニーズも異なります。今、最も必要とされているのは、おそらく、消費者や企業にとって、サステナブルシーフードをもっと親しみやすく、取り組みやすいものにすることだと思います。

Choose Right Todayの活動の一環として、子どもたちの魚拓体験イベントを開催 (写真提供:マンディ・ウォン)Choose Right Todayの活動の一環として、子どもたちの魚拓体験イベントを開催
(写真提供:マンディ・ウォン)

サステナブルシーフードを主流化するには

――サステナブルシーフードをもっと親しみやすく、取り組みやすいものにする、というのは、まさに、TSSS2024で掲げた「2030年までにサステナブルシーフードを主流に」という目標につながりますね。どうすれば主流化できるでしょうか?

サステナブルシーフードには「高級品」「値段が高い」というイメージがついて回ります。ですが実際には、その値段は、監査や認証にかかる手間の対価です。基準に沿っていること、安全でトレーサブルであること、持続可能性の要件を満たしていることを保証するための費用なんです。業界の人間はそれを理解していますが、背景を十分に理解していないバイヤーにとっては、やや割高なその価格は受け入れがたいものです。

新鮮な魚が並ぶ、香港の伝統的な海鮮市場(写真提供:マンディ・ウォン) 新鮮な魚が並ぶ、香港の伝統的な海鮮市場(写真提供:マンディ・ウォン)

もっと身近なものにするには、生産量そのものを増やすことも欠かせません。供給が増えて品目も豊富になれば、選択肢が増え、値段も手が届きやすいものに落ち着いていくはずです。実際、ナマコやハマチなど、サステナブルな商品が新しく市場に増えてきています。あとは時間の問題で、サステナブルシーフードは「知っている」「意識している」段階を超えて、日々の料理に当たり前に使われるものになっていくはずです。

――方向性は、おっしゃる通りだと思いますが、目標を2030年までに達成しようとするなら、ムーブメントの加速に何が必要でしょうか?

達成までの期間は非常にタイトです。一つ、私たちがもっとできることは、アジア地域における市場と生産の現場を橋渡しすることだと思います。東アジアや東南アジアの多くの場所は、多様で豊かな海洋資源に恵まれています。フィリピンやインドネシアから、西太平洋を上って日本や台湾まで、多くの沿岸国・都市があります。

しかし、サステナブルシーフードの評価の枠組みはだいたい欧米のモデルがベースになっています。ですので、私たちはトレーサブビリティ、持続可能性、そして地域の文脈に根ざした、地域固有の枠組みを確立すべきです。そうすれば、西洋からの水産物への依存を減らすことができるのではないでしょうか。

――それは重要なポイントですね。

香港のスーパーマーケットに並ぶ、MSC、ASC、BAP認証のサステナブルシーフード (写真提供:マンディ・ウォン) 香港のスーパーマーケットに並ぶ、MSC、ASC、BAP認証のサステナブルシーフード
(写真提供:マンディ・ウォン)

アジアの国々の連携のために

――西洋の枠組みを超えていくことも含め、サステナブルシーフードの主流化には、多くの課題への幅広い取り組みが必要です。こうした難しく複雑な問題に、どのように取り組むのが有効だと思いますか?

関係者のあいだで大切にしたい価値観をすり合わせ、手を携えていくことが大切だと思います。同じ目標を持つ仲間と力を合わせれば、ムーブメントは勢いを増していきます。私たちの仕事は市場から生産の現場にまで及んでいますし、これからは徐々に金融セクターにも関わりながら、アジアでこのエコシステムを育てていくことになるでしょうから。

2026年5月、中国・大連で開催された第8回大連国際海鮮節(2026 Seafood Expo Asia-Pacific and the 8th Dalian International Seafood Festival)」に登壇したマンディ・ウォンさん (写真提供:マンディ・ウォン)2026年5月、中国・大連で開催された第8回大連国際海鮮節(2026 Seafood Expo Asia-Pacific and the 8th Dalian International Seafood Festival)」に登壇したマンディ・ウォンさん
(写真提供:マンディ・ウォン)

そうしてアジアに新しい枠組みができれば、バイヤーは地元で調達できるようになり、コストも下がって、地域の水産物への信頼も育っていきます。サステナブルシーフードが、それぞれの街の家庭や小さなレストランでも主流になっていく。簡単なことではありませんが、私たちは地域のパートナーと取り組みを速めており、良い方向に進んでいると感じています。

――今後を見据えて、アジア全体でサステナブルシーフードを主流化するために、主要な消費市場である香港や日本、その他のアジア諸国はどのように協力していけるでしょうか?具体的なプロジェクトや情報共有の形は何かありますか?

それはなかなか難しいことですね。おそらく、私たちが現在行っていることをベースにして、その影響力を広げていく方が簡単でしょう。たとえば、サステナブルシーフード・サミット(TSSS)や香港のサステナブルシーフード・フェスティバルなどが、近隣の国や都市に対してオープンに参加を歓迎する姿勢を示すことです。そうした場をきっかけに、都市や企業、さまざまなセクターが、それぞれのやり方でサステナブルシーフードを宣伝し、その推進に取り組むようになるでしょう。

2026年6月に香港で開催されたシーフード・フェスティバル2026のビジネスフォーラムより (写真提供:マンディ・ウォン)2026年6月に香港で開催されたシーフード・フェスティバル2026のビジネスフォーラムより
(写真提供:マンディ・ウォン)

ただ、アジア各国はそれぞれ独自の文化や言語、システムを持っているということを忘れてはなりません。様々な国々が協力関係を築くのは簡単なことではありません。

ですので、アジア全体でサステナブルシーフードを主流化するための連携は、まずは、各国や都市が自分たちのやり方で取り組みを積み重ねていけるかどうかにかかっていると思います。

TSSS2026で伝えたいこと、そして未来へ向けて

――来たるTSSS2026では再びの登壇となりますね。会場には、日本の金融セクター、企業、そして政府関係者なども参加しますが、ウォンさんが参加者に最も伝えたいメッセージは何でしょうか?

真のサステナビリティは、孤立した状態の中では達成できません。皆さんには、成果を喜ぶだけでなく、進行中の取り組みや、課題に対処するための戦略についても、もっとオープンに共有していただきたいと思います。お互いの取り組みの上に積み重ねていくことで、インパクトを大きくし、より早く、共に前進することができます。

――最後に、海洋の問題に取り組み続けるウォンさんのモチベーションは何でしょうか? 海鮮料理や野生動物のドキュメンタリーが大好きだった子どもの頃からイギリスへの留学、香港でのさらなる勉学、そして今のお仕事に至るまで、 一本の糸でつながっているようですね。

そうですね。「保全」という言葉はあまり使いたくないのですが、「保全」は私が考えていることをかなりよく表していると思います。モチベーションは、美しい海洋環境と、そこで生きる生き物たちを守ることなのだと思います。海の生態系は非常に複雑で、驚くほど精妙にできています。生き物たちが互いにどう結びついているか。本当に驚異的です。

ウミガメに会いにフィリピン・セブ島の美しい海でダイビングを楽しむマンディ・ウォンさん (写真提供:マンディ・ウォン) ウミガメに会いにフィリピン・セブ島の美しい海でダイビングを楽しむマンディ・ウォンさん
(写真提供:マンディ・ウォン)

海との関係で、私たち人間はこれまで消費者であり利用者でした。毎日のように海洋資源を利用しています。だから今こそ、“守り手”としての役割も加える時ではないでしょうか。この美しい生態系と豊かな海洋資源を守るのです。私たちの豊かな食、そして生きる喜びのために。これから先何年も、何世代も。

 

HKSSC 事務局のマンディ・ウォンさんが登壇するサステナブルシーフード・サミットのプログラム詳細・参加はこちら

・10月21日13:20-14:40:「市場の力で東アジア発のグローバルインパクトを生むには」
東アジア市場はいかにして世界を変える「テコ」となり得るか。生産現場の環境課題や社会課題の改善に
東アジアでの責任ある購買を直結させるメカニズムについて議論します。

マンディ・ウォン(Mandy Wong)
水産業界の課題に可能な解決策を提供することに専念する業界主導のプラットフォーム香港サステナブルシーフード連合(HKSSC)の事務局として、メンバー企業の責任ある調達をサポートし、サステナブルシーフード・フェスティバルなどのイベントを牽引する。2012年〜2016年グラスゴー大学で海洋・淡水生物学を学び、2021年、香港大学で環境管理の修士号を取得。2022年より現職。ADMキャピタル財団が一般市民向けに水産物の持続可能性を推進するイニシアチブ「Choose Right Today」の運営も担う。企業や消費者に向けて、水産物の持続可能性を普及させ、地域市場でのサステナブルシーフードの主流化に取り組んでいる。

 

取材・執筆:井内千穂

主に科学技術と文化に関する記事を日本語と英語で執筆。中小企業金融公庫(現・日本政策金融公庫)、英字新聞社ジャパンタイムズ勤務を経て、2016年よりフリーランス。2024年、法政大学大学院公共政策研究科サステイナビリティ学修士課程修了。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。

 

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