データをつなぎ、価値を届ける。富士通が挑む水産トレーサビリティの第一歩(Part 2)

データをつなぎ、価値を届ける。富士通が挑む水産トレーサビリティの第一歩(Part 2)

富士通株式会社
クロスインダストリーソリューション事業本部
Trusted Society事業部 シニアディレクター
植村 幸代

サステナビリティの取り組みは、啓蒙や検証の時代から、実装の時代へと移り変わっています。データをつなぎ、可視化する仕組みが整い始めた一方で、現場にはまだ多くの難しさが残っています。
前編では、富士通株式会社(以下、富士通)がUmios株式会社(以下、Umios)と取り組んだ2026年2月の実証実験と、トレーサビリティの第一歩について伺いました。後編では、水産業ならではのデジタル化の難しさ、サステナブルシーフードを主流にしていくために必要なこと、富士通の今後の展望などについて伺います。

現場のデジタル化は、まず「簡単であること」から

——水産の現場ではITが苦手だという声もあります。データ入力のハードルについてはどうお考えですか?

現場に近い方ほど、パソコンでのデータ入力が難しい場合が多いことは、私たちも実感しています。バーコードをスキャンすれば自動的にデータが入力される、というくらい簡単になると良いと思います。ただし、国際標準のバーコードやQRコードを整えるのは大変ですし、魚などの生き物につけるのは楽なことではありません。
TSSS2026に登壇した植村さん

TSSS2026「誠実さと信頼をつなぐ徹底したトレーサビリティ」に登壇した植村さん

それでも、バーコードやQRコードを検討できるということは進化です。できないから諦めるのではなく、できる方法を考える。ただ、無理をするのも違います。できるだけ負担の少ない作業でデータを入力できる仕組みを考えなければなりません。そのためにも社内の研究所を含めて取り組んでいきたいと思っています。現在のメールでの回答という形から、スマートフォンによるバーコードなどのスキャン、さらには画像解析へ進められればと考えています。

水産業の構造から生まれる、データ提供の難しさ

——そのほか、現場のデジタル化について、水産業ならではの難しさはありますか?

例えば自動車の製造業と比べると、1商品あたりの単価も、事業者の規模も違います。ですからひと言でトレーサビリティと言っても、そこにかけられるコストが全然違います。データを集める富士通側から見ればどんなデータも受け入れられますが、データを提供する側にとっての負担は事業者によって大きく異なります。だからこそ、業種ごとにどういうアクションが必要かを考えなければなりません。

特に水産は中小や個人の事業者が多く、データ提供の負担が生活そのものに影響する場合もありますので、その負担をいかに軽減するかが今後の課題の一つになります。

TSSS2026では、Umiosと共同で行った実証実験の概要や、富士通が考えるトレーサビリティなどについて紹介した TSSS2026では、Umiosと共同で行った実証実験の概要や、富士通が考えるトレーサビリティなどについて紹介した

データを集めて終わりにしない。AIとデジタルツインが変える未来

——富士通として、今後トレーサビリティをどう事業展開していくお考えですか?

現在、AIの技術がどんどん発展しています。データを集めて開示するだけで終わらせるのではなく、AIを使って集めたデータをどう活用し、サプライチェーンのリスク低減や事業者の収入増、コスト削減につなげるか。データとAIを結びつけて価値化することが、富士通の目指す姿です。データを提供しバリューチェーンに関わる事業者の方々に価値を生み出していくことが、まさにこれから進めるべきことだと思っています。

——デジタルツイン※の技術も水産に活用していますか?

富士通は海洋に関するデジタルツインの技術もサービスに連携させ始めています。例えば藻(海藻)はCO2を吸収するという性質があるため、実際の海中に藻がどれくらいあるかによってデジタルツインの技術でGHG(温室効果ガス)の削減量を測定することができます。具体的には、海中ドローンで藻の画像データを取り、AIで解析して藻の量を数値化し、GHGの削減量を計算する。これを「Sustainability Value Accelerator」と連携させると、港がどれだけ削減に貢献できているかを測定することができるのです。

※デジタルツイン・・・現実世界のモノや環境から集めたデータをもとに、コンピューター上の仮想空間でリアルタイムに再現する技術のこと

サステナブルシーフードの主流化に欠かせないバリューチェーンの構築

——シーフードレガシーは、サステナブルシーフード・サミット(TSSS)で「2030年までにサステナブルシーフードを主流に」という目標を掲げています。達成のために何が必要だと思いますか?

サステナブルシーフードを主流にするためには、データをつなぎバリューチェーンを構築することが欠かせません。しかし、これは簡単なことではありません。一定のデータの標準化とそのためのルールメイキングが必要で、それに加えて現場での実現性や、実際にサステナブルシーフードにつながるかどうかを確かめる必要があります。

TSSS2026に登壇した植村さん

TSSS2026「誠実さと信頼をつなぐ徹底したトレーサビリティ」に登壇した皆さんと(右から2番目が植村さん)

ある程度は業界や国が協力してルールメイキングと実証・実装を進め、その先に競争がある、という考え方を持つことも大切です。ビジネスである以上、競争と協調が融合していかなければなりません。そのためには文化も価値観も違う人たちとつながる必要があり、会話やコミュニケーションが重要になります。

——サステナブルシーフードを主流化するためには、さまざまな問題があります。どのようにして難題を乗り越えていけば良いのでしょうか。

私個人の考えですが、最初から100%を目指さないことが大事です。日本人はルールが決まった後に従うのは上手で速い。ですが、サステナビリティの世界は、きちんとしたルールが簡単に出せるものではありません。かといってルールが出ないから止まっていいわけでもない。まず一歩を踏み出すことから始め、そこから改善していくのがよいと思います。

昨日より今日、今日より明日と少しずつ改善し、できないと諦めるのではなく、無理のない方法を探していく。まず一歩を踏み出し、結果から学び、次の改善につなげる。そうした積み重ねが、よりよい仕組みをつくっていくのではないでしょうか。

 

植村 幸代(うえむら さちよ)
富士通株式会社 Senior Director。サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)事業の責任者として、信頼できるバリューチェーンデータを活用した企業・業界変革を推進。企業間データ連携やトレーサビリティを通じて、サステナビリティへの対応を事業競争力へと転換する新たな価値創造モデルの実現に取り組む。国内外の企業、業界団体、国際標準化コミュニティとの共創をリードし、資源循環やサプライチェーン変革を含む幅広い分野で、持続可能なバリューチェーンの実現と業界横断のデータ活用モデルの社会実装を推進している。近年は水産業をはじめとする多様な産業において、データ活用を通じた経営変革と新たな事業価値創出に取り組み、持続可能性と事業成長を両立する産業変革を推進している。

 

取材・執筆:河﨑志乃
編集者・ライターとして企業広告の制作に携わった後、2016年よりフリーランスライター・コピーライター/フードコーディネーター。「衣食住医」を専門とし、あらゆる分野で執筆を行う。

 

 

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