NGO、日本企業との協働で中国アサリ初のMSC認証取得。苦難を乗り越えた中国企業の素顔(前編)

NGO、日本企業との協働で中国アサリ初のMSC認証取得。苦難を乗り越えた中国企業の素顔(前編)

2021年9月、中国のアサリの生産者である丹東泰宏(たんとうたいこう)食品有限公司(以下、丹東泰宏食品)とWWF、ニチレイフレッシュの協働により、黄海沿岸 鴨緑江河口域のアサリ漁が中国のアサリ漁業で初めてMSC認証を取得しました。

黄海や鴨緑江の生物多様性を守るための礎として、また、中国の持続可能な水産物の供給を推進するものとして世界からも注目を集めた今回のMSC認証取得。この取り組みは「第4回ジャパン・サステナブルシーフード・アワード」コラボレーション部門のチャンピオンにもなりました。

以前、認証の取得に向けて協働したニチレイフレッシュ 國田英紀さん、WWFジャパン 吉田 誠さん、元WWFジャパンで現シーフードレガシー COOの山内愛子の鼎談をお届けしましたが、今回は現地で認証取得をリードした丹東泰宏食品社長 邢 連宏さんにお話を伺いました。前編では、MSC認証取得の取り組みをスタートするまでの経緯や、取得に向けてのご苦労などについてお話いただきました。

 

邢 連宏(けい れんこう)
大連海洋大学(水産養殖専攻)を卒業後、丹東水産公司にてアサリなどの水産貿易業務に従事。2001年、丹東泰宏食品有限公司を設立。日本向けのアサリ製品の輸出業務を積極的に進め、従来手作業が主体であったアサリの加工を、装置化による生産性の向上と異物除去体制の整備による品質向上に努めてきた。同社で生産されるアサリは日本、アメリカ、東南アジアなど各国に輸出され評価も得ており、グローバルマーケットでの中国産アサリ製品の普及を目指している。

 

最初は戸惑いのあったMSC認証取得。理解を深めながら前へ進む

——丹東泰宏食品の概要を教えてください。

丹東泰宏食品は、中国遼寧省の丹東東港市経済開発区という黄海に面した場所に、2001年に設立されました。事業内容は商品加工と売買事業で、主な商品は真空殻付きアサリ、ボイルアサリむき身、ブランチアサリむき身、アサリ調味商品などのアサリ商品です。そのほかにハマグリやアオヤギ、ナマコ、アワビ、冷凍ツブ貝むき身、冷凍ワタリガニ、天ぷらスケソウダラ、天ぷら野菜、天ぷらエビなども扱っています。

この会社を設立したのは私の義父で、丹東東港市が黄海に近いことから、海と共に生きていくという思いで創業しました。当初はカニや貝類の養殖から始めて徐々に事業を広げ、現在は従業員400名、生産管理・品質管理職85名の体制になりました。会社の敷地は38,000㎡で、そのうち21,000㎡が加工場となっており、7,000トンの商品の冷蔵と、1日150トンの商品の冷凍が可能です。

私は2001年より丹東泰宏食品の2代目の社長に就任し、ボイル真空アサリ、ボイルアサリむき身を中心に生産体制を整備し、日本向けのアサリの輸出の拡大を進めてきました。今回MSC認証を取得したアサリは、工場から近い鴨緑江河口域の干潟で増殖漁業を行っています。

 

中国初となるMSC認証取得を果たした丹東泰宏食品有限公司

 

——アサリ漁業のMSC認証取得で協働したニチレイフレッシュとは、どのような形でパートナーシップをスタートしたのでしょうか。

当初は先代が、中国の外貿公司(商社)を経由して日本の東海水産株式会社をはじめとするいくつかの商社と取引を行っていました。その後、2002年に大連市内にニチレイフレッシュの大連駐在員事務所が設置され、所長の李 晓洲(り ぎょうしゅう)氏と弊社の間で直接の取引がスタートしました。

——ニチレイフレッシュやWWFからアサリ漁業でMSC認証を取得しようというお話があったとき、戸惑いなどはありませんでしたか。

2015年に最初のお話があった当時、中国国内ではMSC認証がどういったものなのかほとんど知られていませんでした。私もMSC認証のことをよく知りませんでしたので、戸惑いはありました。ですが、ニチレイフレッシュやWWFチャイナ、WWFジャパンの担当者がMSC認証の意義について丁寧に説明してくださったので、私も次第に理解を深め、MSC認証を取得する必要性を認識するようになりました。

 

日本への出張時。左から李さん、WWFジャパン安村茂樹さん、ニチレイフレッシュ國田英紀さん、邢さん、技術顧問 田中克広さん

 

——邢さんにとって、MSC認証を取得することの意義は何だと思われますか。

まず弊社にとっては、MSC認証の取得が国際的な影響力の向上に役立ちます。また、MSC認証の取得を機に弊社のアサリ漁業がより良いものに改善され、サステナブルな漁業の規範となることができると考えています。

 

想像以上に困難な道のり。周りに支えられながら試練に耐える

——2016年にFIP(Fishery Improvement Project、漁業改善プロジェクト)への取り組みをスタートし、2021年にMSC認証を取得するまで、どのようなご苦労がありましたか。

実際のMSC認証取得がどのようなものなのかわからない中でプロジェクトがスタートしましたが、取り組みを進めていくにつれて徐々に知っていくようになりました。理解を深めながらさまざまな経験をし、初めてお話をいただいた2015年から2021年の認証取得までの間に、あらゆる困難を乗り越え、試練に耐えてきたと思います。

特に取り組みの後半では各所の情報を収集し整理するのに困難を極めましたが、ニチレイフレッシュやWWFジャパン、WWFチャイナ、遼寧省東港市の海洋漁業局、漁業研究所、大連海洋大学、遼寧省海洋水産科学研究院(LOFSRI)、中国水産加工流通協会(CAPPMA)、MSC中国事務所などの協力を得て、乗り越えることができました。各所には深く感謝しています。

——特に苦労されたのはどのようなことでしたか?

2020年からのコロナ禍は外国の専門家が中国に入国することができないなど状況が混乱しました。弊社でMSC認証取得のプロジェクトを統括していた担当者によると、審査のためにアサリの漁場がある黄海の海底に生息する微生物を集め、分析するのには特に苦労をしたようです。海で行う調査ですから事故のリスクもある中、苦難を乗り越えながら微生物を採取したと聞いています。

 

>>> 最初は戸惑いがありながらも、徐々に理解を深めながら、ニチレイフレッシュやWWF、中国国内の各機関と協力してMSC認証取得へ向け歩みを進めた丹東泰宏食品。後編では、いかにして苦労を乗り越えたのか、また、認証取得後の変化などについて伺います。

 

 

取材・執筆:河﨑志乃
デザイン事務所で企業広告の企画・編集などを行なった後、2016年よりフリーランスライター・コピーライター/フードコーディネーター。大手出版社刊行女性誌、飲食専門誌・WEBサイト、医療情報専門WEBサイトなどあらゆる媒体で執筆を行う。