日本の水産企業の評価 改善のカギとは

日本の水産企業の評価 改善のカギとは

急速に成長し続けるESG投資。今や世界の運用資産の3分の1以上にあたる35兆ドル(約4,700兆円)が環境、社会、ガバナンスを重視した投資になっていると試算されています。この流れにともない、投融資機関やNGOなどさまざまな組織がESGの視点から企業評価を行っています。では、日本の水産企業はどう評価されているのでしょうか。

たとえば、企業のSDGs達成を推進するNGO、ワールド・ベンチマーク・アライアンス(World Benchmark Alliance)は世界中で280以上の多様なセクターと連携を組み、SDGs達成に向けて主要な企業2,000社を対象に、社会、食・農業、脱炭素・エネルギー、自然・生物多様性・デジタル・都市・金融システムの7分野のベンチマークを提示しています。21の投資家とも連携して投資調査などを行っており、運用資産総額最大10兆ユーロにものぼります。

水産に関しては、ガバナンスおよび戦略、生物多様性保全の取り組み、トレーサビリティーとIUU、社会的責任の4つの指標をもとに30の主要企業を評価した「シーフード・スチュワードシップ・インデックス​​」を公開しています。

結果は以下の通り。日本の対象企業は7社で最高位は日本水産(以下ニッスイ)の17位。なぜ日本の水産企業は高い評価を得られないのでしょうか。

具体的にみてみると、日本企業7社中4社が水産物に関連した持続可能性の目標設定を行っているものの、実施スケジュールにまで落とし込んでいるのは1社(ニッスイ)のみ。生物多様性保全についても目標はあっても、達成期限まで定めている会社はゼロでした。

 

 

また、社会的責任分野においては、強制労働禁止のコミットメントを出している企業は7社中3社ですが、包括的な人権デューディリジェンスを行っている企業は0社となっており、コミットメントが出されても具体的な行動につなげられていない実態が浮き彫りになっています。つまり、実行力を示すことが低評価を改善するために必要となっているのです。

さらに、養殖分野においては、抗生物質の使用削減や動物の福祉などの取り組みを総合すると日本企業の平均は13%(全体31%)。また、IUU(違法、無報告、無規制)リスクに関する包括的な評価を行っている企業は0社、健全なトレーサビリティーにコミットしている企業は3社という結果でした。日本の取り組みが国際的なベストプラクティスに遅れをとっている状況が浮かび上がります。

このままではせっかくの投融資の機会を失いかねません。ではどうすればいいのでしょうか。

その解決のヒントとなるのが国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)が、金融機関向けに発行した「Turning the Tide:How to finance a sustainable ocean recovery」です。これは金融機関が持続可能な海洋経済を実現するために投融資する際、注意しなければいけないことをまとめたものです。持続可能性が阻害された場合、環境や社会にどんな影響があり、それが、金融・ビジネスセクターにとってどんなリスクとなるのかを分析しています。

たとえば、養殖場で養殖していた個体が逃亡してしまった場合、メディアに掲載され、評判リスクとなり、業者にとっても経済的な損失になると指摘しています。IUU漁業​​とのかかわりについては、メディア掲載による評判リスク、各国の規制に対応するための規制リスクなどが挙げられています。

金融機関向けに書かれたものですが、この資料は企業側からすれば、投資する側が何をリスクと見るのかを知ることができ、投融資を得るための攻略本的な使い方もできます。

時代はサステナビリティに取り組む企業にとって追い風となりつつあります。国内外の企業評価を参考に課題を見出しつつも、先手を打ってサステナビリティに取り組むことが投融資の獲得、さらには日本の水産業界の成長につながるのではないでしょうか。

 

「Turning the Tide:How to finance a sustainable ocean recovery」
https://www.unepfi.org/publications/turning-the-tide/

「Turning the Tide:How to finance a sustainable ocean recovery」日本語版(一部抜粋)はこちら
https://seafoodlegacy.com/wp-content/uploads/2022/02/Turning-the-Tide-Seafood-JPN-1.pdf