2022年12月に水産物流通適正化法が施行されました。施行を受けて、Seafood Legacy Timesでは10人の方にコメントをいただきました(こちら)。今回は、これらのコメントを受けて、農林水産省顧問、よろず水産相談室afc.masa代表 宮原正典さんに、同法の今後の課題について寄稿いただきました。
2022年12月施行された水産物流通適正化法(以下流適法)について、WWFの植松周平さんや鳥取大学の大元鈴子博士をはじめ多くの識者からIUU漁業の対策として有効に実施されることを期待する旨の発言がありました。
これは流適法の二つの機能、つまり「国内で獲られる水産物を取り締まる機能」、「輸入する水産物を取り締まる機能」のうち、主として輸入水産物のチェック機能への期待です。近年、いわゆるIUU漁業(違法・無規制・無報告漁業)が国際的に問題視されてきており、最近も米国の著名なシンクタンクであるブルッキングス研究所は、IUU漁業が世界の水産資源にとって深刻な脅威であるとして、バイデン政権に対して有効な対策をクアッド(Quad)諸国(日米豪印)と協調して取るよう勧告しました。
端的な例は、イカです。2020年、グローバルフィッシングウォッチ(GFW)は、北朝鮮水域でスルメイカを獲る無報告漁船は、2017年に900隻以上、2018年に700隻以上いると報告しました。これらの漁船は中国から来たと考えられていますが、「三無船」と呼ばれる、船籍も許可も登録もない、無国籍IUU漁船が多くを占めています。中国政府はこの報告の後、これらの漁船の実質的所有者や運航者を逮捕し100隻以上の漁船をスクラップしたそうです。
しかしGFWは、多くのIUU漁船は北朝鮮水域から南米やインド洋などの他の水域に移動して、今でもイカ類などを漁獲していると推定しており、その漁獲物は今でも日本を含む水産物市場に搬入されている恐れがあります。こうしたIUU漁船の漁獲物を市場から排除するためにはクアッドの日米豪印ばかりでなく中国政府も入れた国際的協力が必須であり、流適法はこの協力のため欠くことのできないツールです。
他方、国内流通については、アワビやナマコなど価格の高い魚種の密漁が絶えないばかりでなく、漁業の量的規制が広がるに従って太平洋クロマグロなどの魚種でも漁獲報告されずに販売される量が無視できなくなってきています。定置漁業者の泉澤宏さんや、海光物産の大野和彦さん、中央魚類の伊藤晴彦さんが指摘しているように、早急に対象魚種の拡大を検討すべきです。さらにアサリのような産地偽装に対しても流適法を使った対策を検討すべきでしょう。
これら国内で漁獲される魚種についても実情に応じて流適法の対象にするとともに厳しい処罰を課すことを真剣に検討すべき時期になっています。大間のマグロの違法漁獲が最近警察に検挙される事件が起きましたが、漁業者ばかりではなく、それを買った業者や、流通させた人たちも処罰の対象とすることや、違法なマグロで稼ぐことを抑制するために十分重い罰則を設けることも早急に検討すべきでしょう。
日本生協連合会の松本哲さん、マリン・エコラベル・ジャパン協議会(MEL)の垣添直也さん、セイラーズフォーザシーの井植美奈子さん、臼福本店の臼井壯太郎さんなどが指摘されているように、国内外を問わない問題として、流適法からさらに発展させて消費者につながるトレーサビリティーをつくり上げることが求められています。また井植さんやショクリューの庄司史幸さんが提起した、漁船員の非人道的労働もこれからどう取り組むかべきか検討すべき大きな問題です。
このように流適法は、日本の内外のIUU漁業の対策のために重要な役割を担っており、これから有効かつタイムリーに運用されていくべきであり、さらにその足りない点は早急に見直して改善を図っていくべきと考えます。
宮原正典
農林水産省顧問、よろず水産相談室afc.masa代表。水産庁に37年勤務し2014年に退職し、その後水産研究・教育機構理事長として7年間勤務し、一昨年退職した。多くの国際交渉に従事し、特にクロマグロ関係の国際会議で議長を務めるなど活躍、現在も中西部太平洋マグロ類保存委員会の北委員会議長を務めている。また東日本大震災の発生から水産庁の復興チームのリーダーとして、救援活動から水産業復興まで一貫して働いた。現在は、afc.masa代表として、水産業に関わる様々な問題の相談に乗るため全国を回って活動しているほか、オンライン会議や共同報告者の発表などで国際的活動も行っている。
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