NGO、日本企業との協働で中国アサリ初のMSC認証取得。苦難を乗り越えた中国企業の素顔(後編)

NGO、日本企業との協働で中国アサリ初のMSC認証取得。苦難を乗り越えた中国企業の素顔(後編)

丹東泰宏(たんとうたいこう)食品有限公司(以下、丹東泰宏食品)とニチレイフレッシュ、WWFチャイナ、WWFジャパンは2016年から漁業改善プロジェクトに取り組み、2021年9月にアサリ漁でMSC認証を取得しました。その道のりは険しく、情報の整理やコロナ禍での取り組みの継続に大変な苦労をされたそうです。

そんな中でも、ニチレイフレッシュやWWFチャイナ、WWFジャパン、中国国内の各機関の協力で乗り越えることができたという丹東泰宏食品社長 邢 連宏さん。

後編では、ニチレイフレッシュやWWFとの実際の協力体制やMSC認証取得が会社にもたらした変化、今後の展望などについてお話を伺います。

<<< 前編を読む

 

一企業だけの取り組みではない。足掛け5年の取り組みをやり遂げる

——多くのご苦労があった中で、ニチレイフレッシュやWWFからはどのような支援があったのでしょうか。

ニチレイフレッシュには特に技術の支援を、WWFチャイナ・WWFジャパンにはFIPのコーディネートや資金獲得の支援などをしていただき、本当にあらゆる面で助けていただきました。ニチレイフレッシュからは以前の記事に登場した國田英紀さんのほか、技術顧問の田中克広さんが弊社を訪れ、スタッフに技術的なトレーニングを行うなどしてくださいました。

國田さんとは2006年頃、アサリの商談のために東京のニチレイフレッシュ本社で初めてお会いしたと記憶しています。初対面は寡黙な方という印象でしたが、その後、親交が深まるにつれ気さくな方であることを知りました。誠実で仕事にもきっちりと真面目に取り組む方で、信頼感を持って一緒にプロジェクトを進めていくことができました。

今や國田さんはおそらく、日本で最も長く中国のアサリに携わっている方であり、日本で最大のアサリのシェアを切り拓いた方だと思います。彼のおかげもあり、弊社の中でもニチレイフレッシュとの取引が最も多くなっています。

田中さんは2006年から2022年までの長い間弊社に駐在し、アサリの加工技術を中心に指導をしてくださいました。

 


日本への出張時。左から邢さん、ニチレイフレッシュ大連駐在員事務所所長 李 晓洲さん、田中さん

 

——MSC認証本審査の最終段階では特にご苦労が多かったのではないでしょうか。

はい。最終段階は本当にたくさんの壁に阻まれ、何度「もう諦めよう」と思ったかわかりません。最終の資料整理では、中国人と外国人の思考方法の違いや理解度の違いなどが浮き彫りになり、さまざまな戸惑いが生じました。ですが、ニチレイフレッシュの國田さんや中国国内の専門家などの助けもあり、なんとか乗り越えることができました。

——今回のMSC認証取得には2016年から2021年の足掛け5年という長い時間がかかりましたが、それを乗り越えられたのはなぜだと思われますか。

たしかに当初の予想より長い時間がかかり、困難の多い道のりでした。それを乗り越えられたのは、今回の認証取得が弊社一企業だけの取り組みではなく、日本とも協働して進めるグローバルな事業だったからだと思います。アサリ漁業の健全で正しい方向性を示すためにも、何がなんでも最後までやり遂げるのだという気持ちで臨みました。

——今回のMSC認証取得を経て、御社にどのような変化があったと思われますか。

今回のプロジェクトを通じて、漁業についての知識を深めることができたと思います。そして、弊社の全従業員がMSC認証についてよく理解し、サステナブル・シーフードの意義を認識するようになりました。また、弊社と政府の協力関係も緊密になったと感じています。

 


丹東泰宏食品社員と。中央に邢さん

 

サステナブルなアサリを世界に届けるグローバル企業へ

——日本にMSC認証のアサリを提供する中で、どのようなことを感じておられますか。

MSC認証を取得したとはいっても、このアサリを広めるには、まだ消費者のサステナブル・シーフードに対する認知度が低いと感じています。時間はかかると思いますが、ニチレイフレッシュが私たちのMSC認証アサリを広めるために尽力してくださっていますし、私たちも自社の商品に自信を持っています。日本はもちろん、世界へ向けて、このMSC認証アサリを広めたいと思っています。

——中国の国内市場で反響はありますでしょうか。また、日本以外にも輸出をしているのでしょうか。

中国国内では、外資系のスーパーマーケットチェーンSam’s Club、 Walmartに高く評価され、こちらで販売されています。MSC認証を取得したアサリは中国では弊社のものだけですので、これからは中国の地場のスーパーマーケットでも取り扱っていただけるよう働きかけたいと思っています。

日本以外には、現在はアメリカ、カナダ、マレーシア、シンガポール、韓国、香港などに輸出しています。

——丹東泰宏食品の今後の展望をお聞かせください。

今回のMSC認証を機に、グローバルな企業に発展させていきたいと思っています。また、それよりももっと重要なこととして、持続可能な商品、健全な漁業管理モデルを次世代に伝えていきたいと考えています。未来の人類のために、これからもサステナブルなシーフードを提供し、受け継いでいきたいですね。

——最後に、日本の水産事業者へメッセージをお願いいたします。

MSC認証を取得した私たちのアサリに、日本の水産事業者の皆さんにも注目していただき、広く取り扱ってもらいたいと思っています。共に協力し、サステナブル・シーフードを広めることで社会的責任を果たしていきましょう。

 

邢 連宏(けい れんこう)
大連海洋大学(水産養殖専攻)を卒業後、丹東水産公司にてアサリなどの水産貿易業務に従事。2001年、丹東泰宏食品有限公司を設立。日本向けのアサリ製品の輸出業務を積極的に進め、従来手作業が主体であったアサリの加工を、装置化による生産性の向上と異物除去体制の整備による品質向上に努めてきた。同社で生産されるアサリは日本、アメリカ、東南アジアなど各国に輸出され評価も得ており、グローバルマーケットでの中国産アサリ製品の普及を目指している。

取材・執筆:河﨑志乃
デザイン事務所で企業広告の企画・編集などを行なった後、2016年よりフリーランスライター・コピーライター/フードコーディネーター。大手出版社刊行女性誌、飲食専門誌・WEBサイト、医療情報専門WEBサイトなどあらゆる媒体で執筆を行う。