2022年9月にマルハニチロ株式会社が日本で初めて発行したブルーボンド。ブルーボンドとは、海洋保全や持続可能な漁業支援等に使途を定めたESG 債のひとつですが、現時点ではまだ発行数が少なく、今後注目を集めることが予想されます。
みずほフィナンシャルグループの末吉光太郎さんは、2017年に自らSDGsビジネスデスクを立ち上げ、社会課題解決型ビジネスの開発・支援とインパクト投融資を推進。法人向けサステナブルビジネス企画を多数手掛けてきました。
現在は2022年9月に行内に設立されたサステナブルビジネス部で副部長を務める末吉さんに、マルハニチロ株式会社によるブルーボンド発行の成功の要因や、サステナビリティリンクローン(SSL)※をはじめとするサステナブルファイナンスの需要の動向などについて伺いました。
末吉 光太郎(すえよし こうたろう)
みずほ銀行入行後、大企業法人営業、国際業務・国内法人業務企画部門等を経て18年より法人向け銀行ビジネスのデジタル化ならびに自ら立ち上げたSDGsビジネスデスクを率いて、社会課題解決型ビジネス開発・支援とインパクト投融資を推進中。21年より法人向けサステナブルビジネス企画を担当し、2022年9月からサステナブルビジネス部 副部長に着任。
——末吉さんが金融の世界に入ろうと思われたきっかけ、サステナビリティに関する事業に携わるようになったきっかけは何だったのでしょうか。
金融の世界に入ろうと思ったのはまず、父も銀行員だったということがあります。そして、私が幼い頃に父の仕事でタイに住んでいたことがあるのですが、そこで自分とは境遇の違う子供たちを見てショックを受け、それを解決するひとつの道として金融の道に進みたいと思うようになりました。
銀行員になり、18年目にあたる2016年にソーシャルインパクトボンド*の融資をみずほフィナンシャルグループが行うことになり、私が担当になりました。その時に融資した事業は大腸癌検査の受診率を上げるというプロジェクトで、環境に関するものではありませんでしたが、大腸癌患者が減り社会保障費の削減につながるという社会的意義の大きいものでした。
それをきっかけに社会や環境に貢献できるプロジェクトをもっと手掛けたいと考え、「SDGsビジネスデスク」を社内に立ち上げました。その後、SDGsへの社会的関心も高まってきたため、2022年9月にサステナブルビジネスを推進する専門部署として「サステナブルビジネス部」が立ち上がり、私は副部長に就任しました。
——サステナブルビジネス部ではどのような業務を行っているのでしょうか。
金融機関は、リスクと機会の両面からサステナビリティを評価する必要があります。例えばCO2の排出が大きい取り組みは脱炭素の観点から今後行われなくなる可能性があり、融資を行っても座礁資産になってしまう可能性があります。一方で、脱炭素の流れを機会と捉えて企業が新たな事業展開をする場合は、実経済の脱炭素化に向けて取り組みを支援したいと考えており、サステナブルビスネス部では、サステナビリティを機会と捉えて新たな事業展開をしようという企業と共に、事業モデルを企画する業務を行っています。
——みずほフィナンシャルグループはタイ・ユニオン・グループやマルハニチロにSSLの貸付を行っていますが、SSLの需要は高まっているのでしょうか。
サステナビリティの取り組みは、その取り組みがもたらすポジティブなインパクト創出に取り組むのと同時にネガティブインパクトの抑制や回避が重要です。SSLや環境改善を対象とするグリーンボンド、海洋保全や持続可能な漁業を推進するブルーボンドなどのサステナブルファイナンスはこのインパクトのマネジメントを通じ、気候変動対策や海洋資源回復に資する取り組みに融資を行うものです。
サステナブルファイナンスにより資金調達する企業は、一定の国際水準に則って気候変動対策や海洋資源回復のための取り組みを行っていることを対外的にアピールできる良い機会にもなることから、資金調達が必要になる際にサステナブルファイナンスを活用することを検討される企業が増えています。こういったお客さまのニーズを受け、〈みずほ〉もさまざまなサステナブルファイナンスを積極的に展開しています。
——マルハニチロは日本で初となるブルーボンドの発行も行いましたが、発行額50億円に対して60億円超が集まったと報道されています。成功した要因は何だと思われますか。
まずひとつは、日本初ということで希少性が高く、投資家もサステナビリティに関する取り組みへ戦略的に投資をしたいという方の運用ニーズを喚起したということだと思います。
また、今回のブルーボンド発行で集まった資金は三菱商事と連携して富山県で行う、サーモン陸上養殖事業に充てられます。この事業については国際金融公社(IFC)が開発した「ブルーファイナンスのガイドライン」(何が海の持続可能性に資するかを評価するためのガイダンス)に沿って評価されました。そのサステナブルな事業戦略が、投資家の共感を得たのだと思います。
ただ、日本で初めてのブルーボンドだったこともあり、グリーンウォッシュならぬブルーウォシュ(企業や団体などが環境配慮を行っていると主張していながら、実際は具体的な実態が伴っていない状態)にならないよう、認証取得にしっかりと対応されたとうかがっています。
——ブルーボンドを発行する上で課題となる点は何でしょうか。
発行する企業側の課題として、ブルーボンドの基準に合致するような事業が多くないということが挙げられます。債券を発行するにはコストがかかるため一定程度の発行金額が望ましいのですが、その規模の資金が必要となる海洋保全に関わる事業は日本にはまだ多くないのが現状だと思います。ブルーボンドのような枠組みが出現し始めたことで、新たな事業が進展することを期待しています。
金融機関もただ企業の財務を支援するだけではなく、海洋保全につながる事業を一緒につくっていくような支援を行うべきだと考えています。〈みずほ〉も資金調達の支援は終着点にすぎないと考え、まずは海洋保全に向けていかに方向転換をするかという議論を企業と行うこと、そして実際にどういったアクションを起こすか一緒に考えて進めていくことを大切にしています。
また、ブルーボンドのようなサステナブルファイナンスでの資金調達は企業だけではなく、自治体も行えます。ブルーボンドも自治体に活用してもらえるよう、提案していきたいと思っています。
>>> 後編では、水産の中小企業でも活用できるサステナブルファイナンスや融資の意義、今年の秋に最終的な提言の公表が予定されているTNFDなどについてお話を伺います。
取材・執筆:河﨑志乃
デザイン事務所で企業広告の企画・編集などを行なった後、2016年よりフリーランスライター・コピーライター/フードコーディネーター。大手出版社刊行女性誌、飲食専門誌・WEBサイト、医療情報専門WEBサイトなどあらゆる媒体で執筆を行う。