垣根を越えた展開で国際認証の認知を高め、サステナビリティの実現へ (前編)

垣根を越えた展開で国際認証の認知を高め、サステナビリティの実現へ (前編)

環境や社会に配慮した水産物を選ぶ際の重要な手がかりとなる水産エコラベル。しかし、残念ながら日本では欧米各国に比べ、水産エコラベルが十分に社会に浸透しているとは言えません。

MSCやASCなどの水産エコラベルを含むサステナブル・ラベル(国際認証ラベル)は、サステナブル(持続可能)でエシカル(倫理的)なストーリーを持つアイテムを選ぶ基準の一つとして今や欠かせないもの。日本でもより多くの方に知ってもらうことが求められています。

一般社団法人日本サステナブル・ラベル協会(以下、JSL)は、持続可能な社会の実現に向け、MSCやASC、有機JASやFSCなどあらゆる分野のサステナブル・ラベルを普及させ、倫理的な生産・流通・消費を促進するための活動を行なっています。

今回は同協会の代表理事である山口真奈美さんに、JSL立ち上げの経緯や、JSLの活動内容、国際認証の意義などについてうかがいました。

 

山口 真奈美(やまぐち まなみ)
SDGs、CSR、国際認証に関するコンサルティング、プロデュース、教育研修などのほか、国際認証の普及啓発、エシカル消費の推進、環境ビジネスやオーガニック等の普及に努める。(一社)日本サステナブル・ラベル協会 代表理事、(一社)日本エシカル推進協議会 副会長、他、環境やオーガニック関連団体の理事等、兼任。 https://jsl.life

 

*FSC認証・・森林の生物多様性を守り、地域社会や先住民族、労働者の権利を守りながら適切に生産された製品を消費者に届けるためのマーク。森林の管理を認証するFM(Forest Management)認証と、加工・流通過程の管理を認証するCoC(Chain of Custody)認証からなる。 https://jp.fsc.org/jp-ja/About_FSCより

 

都会と自然の両方で過ごした子ども時代から、地球環境保全の研究へ

——環境問題に興味を持ったきっかけを教えてください。

私は東京生まれで、人の手でつくり上げられた都市の文化の中で育ってきました。その一方で、父が宮城県の鳴子温泉の出身、母が沖縄県の出身で、夏休みなどは宮城や沖縄の自然の中で過ごしていたんです。祖父と山に入って山菜採りをしたり、きのこ狩りをしたり、海で釣りをしたり。祖母と梅干しや干し柿を作ったりもしました。

東京での生活も好きですが、宮城や沖縄の森や海で過ごす時間も好きで、自然は本当に素晴らしいと感じながら育ちました。森や海の中に入ればそこは人間の世界ではなく、動物や植物などもいる中で人間は小さな存在なのだということを実感していたのです。

また、ちょうどその頃、熱帯雨林が破壊されていて、それには日本をはじめとする先進国の企業が大きく影響しているということをメディアで知り衝撃を受けました。そして、人間の手で自然が破壊されているのなら、人間の手で自然を守り破壊を食い止めなければならないのではないかと考えました。それから環境の分野に少しでも携われる仕事に就きたいと思うようになりました。

——学生時代はどのような研究をされたのでしょうか。

大学ではISO14001や国際認証について学び、環境マネジメントシステムが環境保全にどのような効果があるのか、認証を取得している企業100社以上にヒアリングを行っていました。

 


アラスカ視察時の写真(山口さんは前列左から2番目)

大学院では環境科学や環境経済学の観点で地球環境保全や国際認証について、主に森林認証を事例に研究を行いました。国際認証については、企業が経済性を追うばかりではなく環境的配慮をするための1つのツールになりうると思い、実際の有効性などを研究しました。

その傍ら、国際熱帯木材機関などさまざまな国際機関や財団、研究所で働く機会をいただき、アメリカの民間の環境問題研究所である「ワールドウォッチ研究所」のサポートや、企業の皆様には、CSR(企業の社会的責任)のアドバイスや環境教育支援などを在学中から行なっていました。NGOの方々や日本で初めてFSC認証を取得した速水林業 代表の速水亨氏とアラスカへ視察に行ったこともあります。

国際認証への関心の高まりから、協会を設立

——日本サステナブル・ラベル協会(JSL)を立ち上げた経緯をお聞かせください。

2003年に株式会社FEMを設立し、サステナビリティに関する教育やサポート、エコツアーの企画などを行なっていたのですが、講演などで国際認証について話してほしいというご要望が多く、国際認証に対する関心が高いことを感じました。そこでオランダの国際認証機関「コントロール ユニオン」の日本法人を立ち上げ、12年ほど支社長も務めました。

その後、軸足の中心をサステナビリティ支援に戻し、サステナブル経営や方針策定、認証取得等のコンサルティングの他、国際認証の普及啓発のための活動を行なうために2017年に立ち上げたのが、日本サステナブル・ラベル協会(JSL)です。

——JSL及び山口真奈美さんの具体的な活動内容を教えてください。

国際認証は、事業者が持続可能な責任ある原材料調達ができているか、加工流通過程では環境的・社会的配慮ができているかを審査します。そのチェーンがつながって初めて消費者は「倫理的消費(エシカル消費)」ができるようになり、サステナブルなライフスタイルを送ることができます。

このように事業者と消費者をつなぐものの一つが国際認証で、私たちの活動は、誰を対象にするかによって内容が変わってきます。

まず事業者向けには、それぞれの国際認証にどのような違いがあるのかなど、国際認証について正しく知っていただくための勉強会を行なっています。そして、実際に認証を取得したいというときのコンサルティングや、調達方針作成のお手伝いなどもしています。

一般の消費者向けには、「サステナブル・ラベルスクール」や「国際認証フォーラム」などの勉強会を開催したり、講演を行なったりしています。対象は小学生から60代、70代までと幅広く、サステナブル、エシカル、SDGsといったキーワードや国際認証の内容などについての教育を行なっています。

また、さまざまな行政機関とも協力しながら活動を行なっています。例えば消費者庁が2015年から2年間、エシカル消費をテーマに「倫理的消費」調査研究会を開催した際に委員としてお手伝いをしました。この調査研究会には徳島県や鳥取県などの自治体も参加し、その後の各県の活動につながっています。また、同じく消費者庁が開催している「消費者志向経営優良事例表彰」で選考委員としてエシカル消費や国際認証についての発信を行なったりもしています。

 


国際認証フォーラム「持続可能な社会・未来を考える〜持続可能な調達とは?〜」にて

国際認証ラベルは、商品のストーリーを伝える手段のひとつ

——山口さんがお考えになる、国際認証ラベルの意義とは何でしょうか。

私たちは普段、地球の生態系や地球環境を壊そうとか、働いている人たちを苦しめようと思いながら生活しているわけではないと思います。ですが、生活の中で何気なく選ぶもの、食べるものが、実はその裏で環境社会的な課題を抱えているかもしれません。私たちは思いと行動が矛盾する社会で生きているのです。

かといって、消費者が漁業の現場や生産の現場などに直接行って確認するのはなかなか難しいと思います。その点、国際認証ラベルは第三者が一定の基準に従い透明性・信頼性を持って事業者を評価し認証することで付けられますので、消費者が直接現地に行かなくても商品のストーリーを知る助けになるという意義があると思います。

事業者も、自分たちで直接サプライヤーまでたどらなくても、国際認証ラベルで確認することができます。また、自分たちが完全にリスクを背負うのではなく、認証機関など関係者間でリスクを分散できる利点もあります。

国際認証は、これからも皆さんで協力し合いながら精度を高めていく必要はあると思います。ですが、持続可能な原材料調達を実践し、加工流通できちんとチェーンをつなぎ、消費者が国際認証ラベル付きの製品を選ぶということで、サステナブルな社会の形成につなげることができると考えています。

 

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取材・執筆:河﨑志乃
デザイン事務所で企業広告の企画・編集などを行なった後、2016年よりフリーランスライター・コピーライター/フードコーディネーター。大手出版社刊行女性誌、飲食専門誌・WEBサイト、医療情報専門WEBサイトなどあらゆる媒体で執筆を行う。