ドイツ最大の財団 Bertelsmann(ベルテルスマン)財団と、SDSN*1が、世界各国の持続可能な開発目標(SDGs)達成状況が分析した「Sustainable Development Report 2022」を2022年6月に発表しました。このレポートは民間による分析レポートとして世界的に信頼されており、毎年発行されています。(2021年までは「SDG Index & Dashboards」という名称)
では今年の結果はどのようなものだったのでしょうか。
内容を見てみると、世界平均は2021年より少し進捗が遅くなり、2年連続で取り組みの進捗が進んでいない、と評価されています。
日本もあまり結果が良いとは言えず、この3年間で15位、18位、19位、とランクダウンし続け、今年の「19位」はアジアの中ではトップではあったものの、調査開始以来最低ランクとなっています。では、特に水産分野に直結する目標14(海の豊かさを守ろう)はどのように評価されているのでしょうか?
まず、世界全体を見ると「主要課題が残ったまま」(赤)と評価されている国がほとんどです。日本も「主要課題が残ったまま」とされています。
ではなぜ、日本はこのような評価を受けたのでしょうか?内訳を見てみましょう。
1. 生物多様性上重要な海域のうち保護されている面積の平均割合(67.1%)
昨年(64.8%)よりも改善はしていますが、停滞中と評価されています。日本はG7加盟国として、2030年までに自国の陸域・海域の30%を保護区とする「30 by 30」の達成を約束しています。2022年、環境省はそれを達成するために必要なOECM(Other Effective area-based Conservation Measures、保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)指定のためのロードマップを策定しましたが、2020年時点ではまだそういった枠組みがなかったための評価結果とである推測できます。
2. Ocean Health Indexの水質汚染度(59.4)
海の健全度を科学的に分析するNGO、Ocean Health Indexは、その海域の海水が化学物質、富栄養化、人間の病原体、有害な藻類のブルーム、ごみになどよってどの程度汚染されているかを測定しています。スコア(59.4)は昨年と同じですが、「後退」と評価されています。昨年北海道東部で起きた大規模・長期的な赤潮や、小笠原諸島・福徳岡ノ場の海底火山噴火による軽石漂流が「悪化」という評価につながったのかもしれません。
3. 全漁獲量の内、過剰漁獲または枯渇した系群が全漁獲量に占める割合(60.9%)
あくまでも一つの考え方ですが、参照しているデータとして、現在と2年ほどの時差があるFAOのデータを用いていること、日本のEEZ内の漁獲量はイワシやサバ類のように、水温によって資源量の増減が激しい浮魚が多いため、切り取った年の漁獲構成比によって割合も変わることが考えられます。
4. 底曳網漁による漁獲量の割合(10.4%)
底曳網漁は、漁具が海底を直接削るなどの海底生態系への負荷が大きい漁業と考えられているため、昨年(20.4%)からの半減が改善と見られたと考えられます。
5. 海上投棄されている漁獲量の割合(10.3%)
一方、漁獲量のデータの信頼度は1(ほぼ信用できない)〜4(信用できる)のうち2.12と評価されています。その理由は、日本の漁業における推定漁獲量と実際に報告された漁獲量を比べると、報告された漁獲量の15%分異なっていたこと*2、また、日本を含む東アジアの国々ではEEZ外での漁獲量が不明瞭であるとされている*3 ためです。
6. 輸入に伴う海洋生物への脅威(100万人あたり)(1.0)
漁業は、生態系に対し、多かれ少なかれ影響を及ぼしますが、ここで言う「脅威」とは、輸入した魚を漁獲することで、現地の生態系に与える影響のことを指します。昨年のスコアも今年同様1.0でしたが、これは、今年も昨年と同じ論文*4 を情報源として参照しているためだと思われます。この論文によると、日本は世界で最も影響を与えている国とされています。
この論文は発表されたのは2012年のため、今は状況が変わっているかもしれません。しかし、日本は現在、世界の水産物輸入量第4位で、依然としてその脅威は高いことが予想されます。
水産業のサステナビリティに貢献する取り組みを始める、あるいは進める上で、こうした海外へのインパクトを考慮する必要がありそうです。
このレポートは、政府による公式声明や、SDGsを達成するために戦略的に公的事業を活用しているか、などの政策面も評価対象としています。それによると日本は、世界の中でもコミットメントや取り組みが多い国として評価されていますが、自国で取り組みの進捗を評価するシステムを持っていないことが示されています。
レポートでは「土地利用、海洋、農業に関する政策は複雑であり、生物多様性と土地劣化に関して国際的に合意された目標もないため、目標14を含む「改革4」*5 のコミットメントや目標を追う取り組みには限界がある」(p.43)としています。
正当な評価を受けるためにも、評価のポイントとなっている取り組みを、政府、企業、非営利組織、研究機関などと協働して進めることに加えて、信頼性の高いデータや取り組み内容を英語で発信していくことも重要かもしれません。