
続けて、認証取得の中での苦労、そして今後の計画、展望についてお聞きします。
――なるほど、有志グループで取得するには、それなりの難しさがあるのですね。実際にやってみて、いかがでしたか?
よかったのは、有志グループだと意識が揃うので、そこはやりやすかったですね。既存の漁協などの組織だといろんな意識の人がいるので、それはそれで難しさがあったと思います。
困難は、やはり組織がない状態からのスタートなので、審査に入るためにメンバーを決めて、名簿、組織図、規約をつくって……グループ認証では、維持していくためのしくみとして「内部管理マネジメントシステム」も必要です。
漁協なら職員がいて、書類仕事をやってくれます。でも有志だと、生産者自身がやらねばならない。管理書類づくりやマネジメントは、漁師さんだけではできません。そこで私たちが実務面をやりましょう、と。
――資金面と実務面を、フィッシュ・アンド・プラネットさんがサポートされたわけですね?
そうです。ただし書類づくりも、現場に即したものでなくては意味をなさないので、そこは阿部さんを中心に話し合って進めました。
それでも、メンバーの「そもそもASCとは何なのか、もうかるのか」という疑問に応えることからでした。それに対して「こういう計画で、もうかるようにしていくから」と阿部さんが説明してくれました。
実はメンバーが19人に決まったのも、かなり遅かったんです。というのは、大手量販店が新しくASCを取るところを探していて、取得を待たずに話を始めていた。それを聞いて「俺も参加したい」という人も出てきました。
内部管理書類をつくるにも、ASCの基準を満たして、かつ現場に即したものにするのは大変でした。そこも阿部さんを中心に相談してもらいました。
――国際基準を、現場の実情に合うように……それは難しそうですね。
そうです、実際にASCの監査を受けるのは生産者ですから。阿部さんと相談しているだけでも「ASCの基準ではこう」「いや、でもそれ、現実的じゃないんですよね」ということが出てきます。
たとえばワカメを収穫後にボイルしますが、それに使う灯油は、ボイル施設に設置しているドラム缶に入れてあって、地元のガソリンスタンドが補充しにくる。そのドラム缶を「二次封じ込めしていないと、もれるリスクがある」と言われる。でも全員のドラム缶に「二次封じ込め」を施すには、ドラム缶1本あたりそれなりの費用がかかってしまう。
他にも、熱湯でゆでるときのお湯がはねてやけどしないか、とか、立ち仕事で腰をいためないか、そのケアは、とか……。国際基準は企業と従業員を想定しているので、いろんなところで家族経営には合わない。それに漁師さんはずっとアナログでやってきているので、そこもなかなか合いません。
日本の漁業者は大多数が家族経営で、私たちフィッシュ・アンド・プラネットもそこにフォーカスしようとしています。世界でも、小規模漁業者がかせげない、だから認証取得も進まない、そこが問題になっていて、国際機関のレポートでも課題として指摘されています。
――ASC認証の取得後、このワカメ・コンブはどのように流通されるのでしょう?
認証は11月初旬に取得できましたが、ひとつには量販店で、さまざまな形で扱っていただく予定です。それから大手コンビニとも商談を進めています。
ただ、そうした量販店やコンビニ向けでは、価格に限界があるので、オーガニックスーパーに営業したり、シーフードレガシーさんにも相談しているところです。
まずは国内でしっかり足場をかためて、その上で海外にも出していきたい。ASCの海藻担当の海外の方とも話をしています。ASCとしても期待があって、グローバルで商談までサポートしてもらえそうです。
――そういった営業活動もフィッシュ・アンド・プラネットさんが?
阿部さんも販売までやっているので、国内については協力して販売先を開拓しています。海外はうちの担当です。
これから軌道に乗れば、もっと忙しくなるでしょう。認証取得とアワード受賞は嬉しいけれど出発点、これからが本番です。すでに今年の春に収穫したワカメ・コンブは、うちで買い取っています。収穫は年1回で、次は来春になってしまうので、さかのぼって適用できる例外適用申請をしました。
小売ブランドの他に、フィッシュ・アンド・プラネットのブランドで出す商品もつくっています。商品パッケージも、海外展開を見据えたデザインを含めて検討中です。
――今後、フィッシュ・アンド・プラネットさんとしてはどのような展開を考えられていますか?
今年から来年にかけては、このプロジェクトのワカメ・コンブをしっかり売っていきたい。まずは石巻でしっかりモデル事例をつくって、それから横展開していきたい考えです。
その先に、他にも生産者さんが減っていたり、資源が減っている課題に対して、もっと本格的に取り組んでいきたいと思っています。たとえば有明海のノリの生産者さん。そういうところで若い漁師さんと、同じような取り組みができたら。それを海藻以外にも広げていきたいと思っています。
――海藻以外というと?
もとは天ぷら屋ですから、エビとかアナゴに取り組めたらいいですね。ホタテなども。目標としては、すべて認証品の水産物で天ぷらを出せたら嬉しいですね。
――最近では、日本生協連がインドネシアのエビでAIP*を支援したり、購入額の一部をAIP*の費用にあてたり、他にも広島のカキのMSC取得をサポートするような試みもありますね。小売りや飲食の企業が漁業を支援するという意味で、共通性を感じます。売る人が生産現場をサポートする、それがよい循環をつくり出す……そういう取り組みが増えていくには、何が必要だと思われますか?
そういう問題意識は僕にもあると思います。その循環は、本当は消費者に認識してもらうことから始まりますよね。その意味で、メディアを通じた発信も大事です。
日本ではまだまだ難しい面も多いですが、行動していくしかないと思います。僕も5年前まではほとんど現場を知りませんでしたが、知れば知るほど、問題の根深さも見えてきます。そんな中、僕たちフィッシュ・アンド・プラネットにできるのは、どんどん活動して、可能な限りそれを発信していくことだと思っています。
今はまだ、消費者がなかなかついてこないかもしれない。消費者がすぐに動かないとしても、問題に気づき始め、意識が高まっている企業はあるので、そういうところと協働して、ばらばらではなく共に活動していくとか。
――消費者の意識と言っても、まず情報量が企業と消費者ではぜんぜん違いますよね。まず知らせることから始まるのでしょうか。
そこはまさに、考えないといけないところです。ワカメ・コンブの例だと、そもそも養殖されていると知らない人も多く、天然で生えていると思っている人もいます。それは国内もですし、海外はなおさらですね。認証の受け取り方も国によって違うので、伝え方、見せ方はまだまだ考える必要があります。
乗藤紘吏(のりとう・ひろし)
江戸時代に東京浅草で鮮魚屋として創業し、その後は銀座(現在は麻布)で天ぷら屋を営んできた、創業190年の「銀座大新」7代目として、持続可能かつ社会的責任のある漁業・養殖業と日本の天ぷら文化の継承に取り組む。東京工業大学卒業後、デューク大学(米国)で環境管理学の修士号を取得。現職以前には大和証券SMBC(現大和証券)の投資銀行部門(東京とニューヨーク)でM&Aアドバイザリー業務に従事、その後越境ECの会社を起業。
取材・執筆:井原 恵子
総合デザイン事務所等にて、2002年までデザインリサーチおよびコンセプトスタディを担当。2008年よりinfield designにてデザインリサーチにたずさわり、またフリーランスでデザイン関連の記事執筆、翻訳を手がける。