Seafood Summit 2019 参加レポート-5 企業の調達改善に欠かせない国際ツールとは

Seafood Summit 2019 参加レポート-5 企業の調達改善に欠かせない国際ツールとは

企業の調達方針に多く含まれる認証水産物。現在日本では漁業を対象としたMSC認証、養殖漁業を対象にしたASC認証やBAP認証の水産物が一般に流通しています。しかしその一方、持続可能ではない漁業や養殖漁業の改善が課題となっています。そのような現状を改善すべく、世界の大手水産関連企業は、資源の適切な管理や漁法の改善などを協力的に実施する漁業・養殖業改善プロジェクト(FIP・AIP)を通して認証取得を目指す漁業/養殖業の支援に対しても積極的になってきています。

持続可能性を測るツール
現在世界の水産マーケットではMSCやASCなどで知られる認証プログラムとSeafood Watchを筆頭とする資源量、漁獲・養殖方法などの情報をベースに漁業の持続可能性を点数や色などで格付け(レーティング)するプログラムの2種類があります。どちらも持続可能な漁業と消費の普及を目的としたツールですが、プログラムの性質上、サプライチェーン上の企業の間では混乱が発生してしまうことも。そこで混乱を防ぎ、認証と格付けのコラボレーションで相乗効果を生み、世界規模での持続可能な漁業と養殖業を実現していくためのコーディネーターの役割を果たしているのがCertification and Ratings Collaboration(CRC)です。

CRCが現在注目しているのは認証や格付けプログラムの国際的な広がりと共にビジネスがどのように漁業・養殖業改善プロジェクト(FIP/AIP)を支援、拡大し調達改善に取り組んでいるのかです。サミットで行われたセッション、「NEW OPPORTUNITIES FOR USING CERTIFICATION AND RATINGS TO ACCELERATE FISHERIES AND AQUACULTURE IMPROVEMENTS(認証とレーティングを活用した改善プロジェクトの推進と展望)」ではサステナブル・シーフードの成長市場である日本と中国から具体例を交えての紹介がありました。

認証、レーティングだけでは足りないアジアの次の一手
CRCの最新レポートによると、中国と日本の水産業で持続可能性に関する情報があるのは漁獲量の約1/3。その中でも持続可能、と言えるのは1/4前後に止まります。

https://certificationandratings.org/

この現状に対して、青島海洋保全協会(Qingdao Marine Conservation Society)のソンリン代表は、「輸出目的の養殖水産物は業界やEUなどの支援もあり認証取得がここ数年で大幅に伸びた。しかしながら、国内消費に関しては淡水魚の消費が多く、認証基準が追いついていないのが課題。」と説明。また、FIPやAIPに関しても、広がりはあるものの、対象魚種以外の魚種も市場価値があるため、一概には混獲とは言えないアジアならではの難しさを会場に共有しました。しかしながら、一般社会にも徐々にサステナブル・シーフードのコンセプトが浸透しつつあるとし、中国マーケットに適した方法で情報発信と消費者啓蒙を行って行きたい、と今後の展望を説明しました。

一方、国内消費の半数を輸入に頼る日本では、国産水産物の持続可能性の向上が課題となっています。市場で取り扱われる認証水産物は2014年から約10倍に成長しているものの、国内のMSC/ASC認証の取得は3件ずつ、一方2014年よりFIP/AIPに取り組む生産現場は4件まで増えています。これに対し、弊社取締役副社長の村上 春二は「多くの日本の漁業は認証取得までのギャップが多く存在する。FIPやAIPを通して問題点の改善を行うことで、認証取得に近づくことができ、企業にはこうした取り組みを積極的に支援してほしい。漁業法改正などもあり、日本の水産業は確実にいい方向へと成長している。」とコメントしました。また、中国同様、世界水準のサステナビリティを追求することは重要だが、国内で受け入れられるためにはその国の文化や風土を汲み取り、ローカライズした解決策を作ることが一番の近道、としました。

企業の立場から、認証水産物やFIP/AIPの活用事例を紹介したのは、日本生活協同組合連合会(JCCU) 商品本部、本部長スタッフの松本哲氏です。JCCUでは2017年に「2020年までにPB商品の20%を認証水産物に切り替える」という具体的な目標を打ち立て、調達改善に取り組んでいます。2019年現在、認証水産物の割合は19.3%と目標達成まであとわずかのところまで改善が進んでいますが、求める魚種や規格の認証水産物がない、などの課題もあるとのこと。JCCUではこうした経験を踏まえ、取引実績のある既存のサプライヤーや生産者と協働し、インドネシアでエビのAIPを開始しました。また、こうした取り組みを消費者に伝える方法として、また、1パックあたり3円がAIPに還元される仕組みをつくり、会員向けのチラシで告知することで消費者の理解と協力を促しています。
満席の会場からは、急成長を続ける中国や日本に対して多くの質問が寄せられ、有意義なセッションとなりました。

(文:松井花衣)