FAO『世界漁業・養殖業白書2020』にみる世界の水産動向

FAO『世界漁業・養殖業白書2020』にみる世界の水産動向

FAOが2年おきに発行する『世界漁業・養殖業白書』。その内容をみると、私たちがどれくらい魚を食べ、どう漁獲・生産しているのか、そして水産資源はどんな状態にあるのかがみえてくる。今回は2020年版をもとに世界の水産動向をみてみよう。

まず、近年の傾向として、消費量の伸びと共に魚介類の漁獲・生産量も増加し、持続可能な漁業資源割合は減少する傾向が続いている。

魚介類の消費量からみてみよう。1960年代以降、魚介類の消費量は年間約3%の伸びで増加しており、1961年は1人あたり9kgだったところ、2017年は20.3kgまで増えている。2018年には20.5kgになると予測されており、消費量は伸び続ける傾向にある。

 

世界の水産物の消費量(食用・非食用)FAO『世界漁業・養殖業白書2020』Fig.2より

栄養面の観点からみると、人が摂取する動物性タンパク質の17%、植物性タンパク質を含めた全タンパク質の7%を魚介類が占めている。割合として多いわけではないが、世界人口の増加や食生活の変化にともない、量的には消費が増えているのが現状だ。

こうした消費量の伸びにともない、漁業生産量は右肩上がりに増えている。天然の魚介類の漁獲高は90年比で14%、養殖の生産量は528%も増加。2018年の総漁業生産量は1億7900万トンを記録した。この内、約9600万トンは天然漁業生産量で過去最高値を記録。前3年間の平均よりも5.4%多い。一方で、総漁業生産量の35%は廃棄されており、獲り方や流通のあり方の見直しが急務と言える。

 


世界の漁業・養殖業生産量(FAO『世界漁業・養殖業白書2020』Fig.1より)

ちなみに、漁獲高の多い国は上から、中国、インドネシア、ペルー、インド、ロシア、米国、ベトナムの順(2018年)。これらの国々で世界の総漁業生産量のほぼ半分を占める。上位漁獲種は、1位カタクチイワシ、2位スケトウダラ、3位カツオとなっている。カタクチイワシの水揚げ量は700万トン。2位のスケトウダラの約2倍の量があり、魚を養殖するための魚粉として、また家畜の飼料としても使われている。

天然ものの減少に伴い、養殖の生産高は増加傾向にあり、今や総漁業生産量の52%と半数を超えた。生産地の89%はアジア諸国で、主には中国、インド、インドネシア、ベトナム、バングラディッシュといった国々で行われている。

漁業・養殖生産地として大きなシェアを誇るアジア地域。世界では5,950万人の人が養殖を含む漁業現場で働いているが、その内85%をアジア地域が占める。現在は2,050万人が養殖、3,900万人が漁業に従事しているが、養殖業の伸びを考慮すると今後逆転する可能性もありそうだ。

ここで少し視点を変えて漁業に従事する労働者のジェンダーバランスを見てみよう。白書によると女性の労働者は全体のわずか14%。女性の多くは男性よりも雇用が不安定で低賃金である働いているという問題も指摘されており、漁業現場での女性参画・ジェンダー平等には課題が多いと言えそうだ。

将来的に漁業生産量はどうなるのだろうか。

 

 

FAOによると、2030年には世界の総漁業生産量は2億400万トンに、その内、養殖は1億900万トンになると予想されている。これは、2018年に比べて32%の増加で、養殖は総漁業生産量の約79%にまで増えることになる。養殖セクターは引き続きアジアを中心にアフリカでも増え、価格は天然養殖共に上昇するとみられている。

2021年のFAOの速報値によると、総漁業生産量は前年比1.5%増の1億7730万トン。天然は2%、養殖は1%増加している※1。伸び続ける漁業生産量。しかし、生物学的に持続可能な漁業資源割合は、1974年は90%だったものが2017年は65.8%と減少し続けている。現状のままでは、近い将来、水産資源が枯渇してしまうことは明白だ。目の前に迫りくる岩礁に座礁しないためにも、持続可能な水産業へのシフトが急務と言えそうだ。

 

 

※1 https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/112629

【参考】The State of World Fisheries and Aquaculture 2020
http://www.fao.org/state-of-fisheries-aquaculture/en/