それぞれの道を歩みながら協業していく。シーフードレガシーの、明日の約束

それぞれの道を歩みながら協業していく。シーフードレガシーの、明日の約束

2015年、「海のレガシーを未来へ遺すために。」をコンセプトに創業したシーフードレガシーは、日本の水産界が抱える課題を紐解き、持続可能な海のありかたを模索していくソーシャルベンチャーです。サステナブルなシーフードを、レガシーとして次世代へ遺すためのコンサルティングなどを行なっています。

シーフードレガシーのメンバーであり、2018年から取締役副社長を務めてきた村上春二が、このたび独立を決意。そこで今回は村上への“はなむけ”スペシャル。送り出す立場である、代表取締役社長の花岡和佳男と村上が対談を行いました。モデレーターは、本メディアの監修を務めたヤフー株式会社の長谷川琢也です。

 

バルセロナでプロポーズ!? 社長と副社長の出会い

長谷川:村上さんが独立されるとのことで、会社のツートップのうち一人がいなくなるわけですよね。まずは、これまでのシーフードレガシーについて聞きたいのですが、お二人はどこで出会ったんですか?

 

株式会社シーフードレガシー代表取締役社長・花岡和佳男。手前がヤフー株式会社・長谷川琢也。

 

花岡:地球の裏ですよ。……って言うと、ロマンチックすぎるかもしれないけれど(笑)。2014年にアメリカのカリフォルニアで開催された、モントレーベイ水族館の「クッキング・フォー・ソリューションズ」というイベントが最初の出会いでした。日本のプロジェクトをはじめるにあたり、日本でキープレイヤーとなるよう人たちが招待されたんです。そのときに呼ばれたメンバーに、私と春二くんがいました。

長谷川:「この人と組みたい!」という直感があったのでしょうか。

花岡:そうですね、未来ある若者で、エネルギーがあって、海外と日本のバランスが取れていて、ビビッときました。

長谷川:確かに貴重ですよね。僕にとって花岡さんは、「海を変えなければいけないけれど、まずはマーケットからだ」って、尖ったミッション・ビジョンを掲げているのが印象的だったんです。でも、村上さんは「海、魚、漁師」みたいに、超現場主義じゃないですか。サケの生態系の保護に取り組む「Wild Salmon Center」の初日本人スタッフとして北海道で始業し、その後「Ocean Outcomes」設立メンバーでもありますが、そのときから現場主義なのでしょうか?

 

株式会社シーフードレガシー取締役副社長・村上春二。2021年5月末日をもって退職する。

 

村上:はい。「太平洋における天然サケ鮭の保全・保護を目的に「漁業改善プロジェクト(FIP)」という国際的なプロジェクトを行っていたのですが、現場に寄り添いながら、当時から生産の現場と共に漁業を良くしていこうとしていました。

ただ、もっとさかのぼると、大学の頃から現場主義的なところがありましたね。自然地理学とビジネスを勉強していたんですが、当時から、「環境・科学」と「ビジネス」には現場に真理があると思っていたんだと思います。

長谷川:花岡さんの「マーケットを変える」という思いと、村上さんの「現場を良くしたい」という思い。それぞれが別のベクトルを向いているからこそ、一緒にできればと思われたのでしょうか?

花岡:やっぱり、マーケットだけでは海や水産業は変わらないですから。「現場が変わっていくための需要づくりとしてのマーケット枠」だったので、現場とマーケットをリンクするのは大事だと思っていました。

長谷川:パートナーとしては最適ですね。「くっついちゃえ!」みたいな話はあったんですか(笑)?

花岡:(笑)。2018年に、バルセロナで開催された「シーフードサミット」に参加したのですが、二人でちょっとサボってカフェで話したときに、一緒になら面白い動きができそうだよねという話になって。私からプロポーズしたと(笑)。

 

 

村上:「プロポーズされた」という恋愛に例えた表現が正しいのか、わからないですけど(笑)。バルセロナで決めたんですよね。マーケットで需要づくりを行う会社と、生産現場を良くしていこうとする人間が一緒になることで、川上から川下までサプライチェーン全体を良くできて、海や生産現場へのポジティブな影響は大きくなるんじゃないかなと。

そのときにOcean Outcomesも日本支部を独立させる動きもあり、独立する選択肢もあったのですが、判断基準として一番の目的は“ウミとヒトへ良い影響を与えること”なので、最短距離で最大限の影響を出せる選択肢が良いだろうと。それでジョインすることを決めたんです。

長谷川:村上さんがジョインしてから、組織力を上げるために意識的に動いているように見えていました。

 

 

村上:企画営業部のマネジメントも任されたのですが、生産現場ばかり見てきたので、マーケットのことがさっぱりわからなかったんです。ジョインしてからは組織に馴染みながら、マーケットの勉強をして、チームのマネジメントもするので大変でした。でも、それが今の糧になっています。マーケットの知識と経験を得られたのは、これからの生産現場にも生きてきますから。

長谷川:花岡さんは、その姿を見ていてどうでしたか?

花岡:もともとあった部署に、マネジメントする立場として入ってきたから、大変だったと思います。でも、短期間でうまくまとまったなと感じますね。

会社としては、そのころに行政まわりの仕事が増えてきたんです。ちょうど漁業法が改正され、水産物流通適正化法ができたタイミング。水産業は生産と加工流通の二つで成っていますが、漁業法の改正と「水産物流通適正化法」の成立の両方ができたことは、漁業の部分も加工流通の部分も両方にメスを入れたことになります。

そういったムーブメントの加速期だったので、僕たちはその旗振り役であるべきだと。春二くんを迎えたことで、サプライチェーンや役割を越えたチームになり、「みんなで一緒にやっていこう」という業界への強いメッセージになったと思います。

 

お互いの強みを活かすための新体制と独立

 

長谷川:そして村上さんはこのタイミングで独立されるわけですよね。結婚で例えはじめちゃったから急に離婚っぽくなっちゃうけど(笑)、「それぞれの道で頑張ろうぜ」みたいになったきっかけはあったんですか?

花岡:告ったのは僕で、振られたのも僕なんで。

長谷川:そうなんだー!

村上:恋愛に例えんといてください(笑)。何かの出来事があったというよりは、タイミングの問題でした。今、さまざまな動きがあるなかで、現場に寄り添う組織が、より重要になるフェーズだと感じていて。それを相談したんですよね。

花岡:もちろん、最初に相談を受けたときは、寂しかったですよ。でも、新しく法律ができたら、次は現場に落としていく段階ですよね。改正漁業法のことが間違って現場に伝わっていると感じることもありますし、法律をつくっただけにしてしまうと、無理やり現場に押し付けることになりかねない。

それってローカルや現場にとってはハッピーにならない可能性が高いから、新しい役割が必要なフェーズに入ってきた。春二くんが一歩先を見てるのは、素晴らしいと思いましたね。

長谷川:そうだったんですね。寄り添って、いろんなことを現場まで落としていく人たちが増えたら、水産エコラベル認証も、もっと良くなるのかもしれません。

 

 

村上:はい。だからこそ別れることで、双方の尖るところがより尖って、影響度合いがもっと増すようなイメージでいます。ここで働いているうちに、あらためて「誰の方を見て仕事したいか」と考えたとき、やっぱり生産現場だったんですよね。

長谷川:前から好きな人がいて、やっぱり忘れられなかったの? みたいな話。

村上:ズレが生じてる(笑)。わかりやすいけど。

長谷川:変な感じでこじれて離婚するより、爽やかに離婚しておいた方が関係性が続く、みたいなね。なんかすいませんね、最初から最後まで結局、恋愛や結婚の話で例え続けまして。

村上:長谷川さんの恋愛体質がダダ漏れです。

長谷川:やっぱりプロジェクトやビジネスにおいても“人と人”ですもんね。

花岡:そうですね、“関係維持”よりは“目的達成”が大事なので、そのためにベストな関係であり続けたいですよね。

長谷川:ここまでまったく、胸ぐらを掴まずにきています(笑)?

 

 

花岡:「まじで?」っていうのすら、口に出さず(笑)。覚悟を持って話してくれたから、独立の話を聞いた時、即対応だったよね。「OK! じゃあそうしよう」って。

長谷川:そっかー。村上さんは、「待てよって言われたかった」みたいな感情はなかったんですか?「私が別れるって言ったのに止めないのね?」みたいな。

村上:(笑)。正直、そういうシナリオもありえるのかな、とは考えましたよ。でも、スーッと感情を殺して、受け入れてくれたので。

長谷川:そっか、花岡さんすごいなぁ。

花岡:いやいやいや。やめて、ちょっと! 泣きそうになるからやめて!

村上:こうやって寛容に受け止めてくれて、背中を押してくれることに対してすごく感謝していますし、ここにいたときの時間っていうのは、ものすごく貴重な時間でした。

旅立つことって“目的”じゃなくて“手段”なので。目的を実現する責任があるし、そこは肝に銘じておきます。

花岡:そういう覚悟が伝わったからこそ、即OKしたんですよ。これまで一緒にいたからこそ、「彼が言うんだからそうなんだろう」とわかる。パートナーであり、仲間であり、共同経営者であり、1番のバディだったから。この関係は、これからも続けていきたいと思いますし、だからこそ背中を押せるんです。

 

現場とマーケットがつながり、日本の新たなアイデンティティを世界へ

長谷川:村上さんは、これから何をされるんですか?

 

 

村上:新しい会社は「株式会社UMITO Partners (ウミトパートナーズ)」と名付けたのですが、持続可能なウミとヒトのための事業をつくっていくこと、そしてそこに寄り添う事業の伴走を目的にしています。「よそから来て、解決策だけを提示して帰る」みたいなことは絶対にしたくないですから。現場の課題を中心にみんなで解決策をデザインしたり、企業やシェフをマッチングしたり。

キーワードは、「ビジネス」と「サイエンス」と「クリエイティブ」。

「サイエンス」に基づいた「ビジネス」を「クリエイティブ」に伝えていくことによって浜の未来をよくしていきたいと思っているからです。それが生産現場のサステナビリティにつながっていくと信じています。

そういうアプローチで、より生産者の人たちの未来につながるように、現場目線でやっていければなと思っています。これがいわゆる、僕の旅立つ責任だと思います。それは花岡さんに対しても、レガシーに対しても、世の中に対しても。

長谷川:良いですね! 花岡さんとしては、強力なパートナーが抜けるわけですが、会社をどう変えていくのでしょうか?

 

 

花岡:そうですね……。これをきっかけに、マーケット側の働きかけをもっと強くしたいなと思っています。業界で共通するロードマップがないから、そこをつくっていくことが大事だろうと。

僕たちもムーブメントによって成長していったり、形を変えていったりすれば良い。ここからはプレイヤーそれぞれが輝くようなプラットフォームなり、環境づくりを強化していこうと思います。

村上:協働できるプロジェクトはすごくあると思うんです。より地域と首都圏がつながっていく、企業がつながっていくことの重要さが顕在化していくと思うので。お互いのネットワークのつなぎ合わせが大事なのではないでしょうか。

花岡:そうだね。これまでの5年間、ビジネスのムーブメントはすごく大きくなったけれど、このままだと失速してくるだろうと予想しているんです。それをもう一回加速させようと。 法律ができたから、マーケットを整備していき、それが現場の活動とリンクしていけたらいいなと構想しています。

世界では人口爆発してタンパク源が必要になっているなかで、日本は豊かな海があるから、資源管理をきちんとすれば、日本の生産者から消費者までみんなが潤うわけです。豊かな海があるのだから、輸入じゃなくて、輸出するような国になっていけると思うんですよね。

長谷川:そうですよね。

花岡:ビジネスの面でプラスになるのは当たり前ですけれど、これからの日本は、お腹を空かせてしまう人たちに幸せを提供できる国になれるはずなんです。水産資源管理の面で、日本は後進国扱いされてきましたが、僕はそれを続けたくないんですよね。

「日本の新しいアイデンティティ」を世界に打ち出したい。なので、春二くんが旅立つことで、新しい役割分担ができていくっていうのは、鳥肌が立つくらい、楽しみなことなんです。

 

 

名称 :株式会社UMITO Partners
所在地 :東京都渋谷区
代表者 :代表取締役社長 村上 春二
設立 :2021年6月1日
事業内容:漁業や漁業に関する事業のコンサルティング
・水産エコラベル認証取得に関するコンサルティング事業
・地域サステイナビリティに関するコンサルティング事業
・サステナブルファイナンスに関するコンサルティング事業
・サステナビリティに関する事業開発・実行支援・戦略立案コンサルティング事業
・サステナビリティに関するプラットフォーム事業
ホームページ:https://umitopartners.com

 

花岡和佳男
株式会社シーフードレガシー代表取締役社長 フロリダの大学にて海洋環境学及び海洋生物学を専攻。卒業後、モルディブ及びマレーシアにて海洋環境保全事業に従事し、2007年より国際環境 NGOで海洋生態系担当シニアキャンペナーとしてジャパンサステナブルシーフードプロジェクトを立ち上げ引率。独立後、2015年7月に東京で株式会社シーフードレガシーを設立しCEOに就任。国内外のビジネス・NGO・行政・政治・アカデミア・メディア等多様なステークホルダーをつなぎ、日本の環境に適った国際基準な地域解決のデザインに取り組んでいる。

村上春二
株式会社シーフードレガシー取締役副社長 国際環境非営利機関 Wild Salmon Centerそしてオーシャン・アウトカムズ(O2)の設立メンバーとして日本支部長に従事した後、株式会社シーフードレガシー取締役副社長/COOとして就任。漁業者や流通企業と協力し、日本では初となる漁業・養殖漁業改善プロジェクト(FIP/AIP)を立ち上げるなど、漁業現場や水産業界そして国内外のNGOに精通しIUU漁業対策などを含む幅広い分野で日本漁業の持続性向上に対して活動している。多くの国内外におけるシンポジウムや水産関連会議やフォーラムでの登壇や司会などを務めるなど、国内外で活動する。
2021年5月末で株式会社シーフードレガシーを退職し、6月から株式会社UMITO Partners代表取締役社長。

長谷川琢也
一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン事務局長/ヤフー株式会社 SR推進統括本部  海の課題解決メディア「Gyoppy!」プロデューサー。1977年3月11日生まれ。自分の誕生日に東日本大震災が起こり、思うところあって東北に関わり始める。石巻に移り住み、石巻を拠点に被災地や東京をうろうろしながら東北の人たちとビジネスを立ち上げる最中、震災復興を超え、漁業の未来をみつめる漁師たちと出会う。漁業を「カッコよくて、稼げて、革新的」な新3K産業に変え、担い手があとをたたないようにするために、地域や職種を超えた漁師集団フィッシャーマン・ジャパンを立ち上げる。民間企業を巻き込んで漁業のイメージを変えるプロジェクトや、国際認証取得を目指す試み、生産者と消費者をつなぐための飲食店事業など、漁師たちと共に未来の漁業を創るべく、奮闘中。