コンサルティング事例:邑久町漁協、垂下式カキ漁業で世界初となるMSC認証取得!(前編:現場視察)

コンサルティング事例:邑久町漁協、垂下式カキ漁業で世界初となるMSC認証取得!(前編:現場視察)

2019年12月、兵庫県相生市を拠点とするカキの加工販売を行う株式会社マルト水産(以下、マルト水産)、同社にカキを提供している岡山県邑久(おく)町の邑久町漁業協同組合(以下、邑久町漁協)が、カキの垂下式漁業において世界で初めてMSC認証を取得しました。通常、本審査から認証取得まで平均18ヶ月かかるMSC認証。しかし今回、マルト水産と邑久町漁協は異例とも言える7ヶ月で認証の取得に成功しました。今回のブログでは、現場での取り組みをお伝えします。

邑久町漁業協同組合の事務所。看板でも認証取得をアピール!

邑久町とはどんな場所?

邑久町漁協がある虫明(むしあけ)は岡山県西部のおだやかな瀬戸内海に面する小さな町です。この地でカキの養殖が始まったのは1952年。当時は漁閑期となる冬の収入源として行われており、生産量も年間8トン程度でした。その後養殖方法が改良され生産量が増加。「曙かき」として名声を博し、主な生産魚種も魚からカキに変わっていきました。また、周辺海域である兵庫県の湾でも同じ手法を用いてカキの養殖業が始まったため、虫明は兵庫県のカキ養殖の祖とも言われるようになりました。その後、水質の変化などにより1970年代半ばにいかだの台数は3,000台、年間生産量は約3,000トンとなったのをピークに生産量が減少。その後、いかだの台数を制限するなどの取り組みを行い、品質が向上したことにより、現在は「虫明かき」としてカキ通にも人気のカキとして親しまれています。

虫明湾

虫明漁協全体でいかだの数は1340台ほど。夏にカキの幼生をホタテの殻(コレクター)に付着させ、いかだから海中に吊るします。虫明は湾内の水深も6mほどしかなく、その大きな干満差を利用して稚貝の成長をコントロール、良い物だけを選別します。その後成長したカキは翌年あるいは翌々年の冬に収穫されます。周囲に大型河川がないため、味が濃縮するのだそうです。

黙々とカキを剥くスタッフの方々

大きく育った獲れたてのカキ

今回訪れたのは収穫時期真っ只中の1月。いかだに吊るされているカキはクレーンで引き上げられ、毎日漁船3隻分のカキの剝き身作業が行われます。過去には機械導入も検討されたそうですが、一つ一つ手作業で剥く従来の方法がベストとのこと。頭が下がる思いです。

異例のスピードで認証を取得

邑久町は漁場環境もカキに適しており、昔から有名な漁場でした。しかし、生がきの消費量の減少や後継者不足に悩まされていました。また、西側の日生(ひなせ)はカキの産地として、東側の牛窓は「日本のエーゲ海」として知られており、その間に挟まれた邑久町も地域の特色として打ち出したい何かを求めていました。

そんな中、マルト水産が松本正樹組合長に持ちかけた相談がMSC認証取得でした。

松本正樹組合長が、取引先であるカキの加工・流通を行うマルト水産を通じて知ったのがMSC認証でした。国際的な認証は強みになると信じた松本組合長は、組合内で一部反発があったものの、「昔ながらの守るべきところは守る、変えるべきところは変える」と、漁協60人のうち若手を中心とした14人でMSC認証チームを結成。勉強会などを行い、認証についての知識をチームメンバーとしっかり共有し、予備審査に臨みました。

予備審査の結果、底生生物や水質のモニタリング、周辺海域でスナメリやアカウミガメなど絶滅危惧種に遭遇した場合の記録、カキの生産が周辺の生態系へ悪影響を及ぼしていないかの評価報告書の必要性、漁場改善計画のなどの管理体制などが課題であることがわかりました。

その結果を元に、弊社漁業・科学部が現地に伺い、底生生物や水質のモニタリング調査手法や調査場所の特定、スナメリやアカウミガメに遭遇した際に記録する記録書の作成、漁場改善計画の改訂、岡山県産の地種がその他県産の地種と区別できるように指導を行うなど、本審査入りまでコンサルティングを行い、最終的には、現地での本審査時には生産者側に立ち、認証取得に向けて資料の提出や準備などを行いました。


通常、本審査から認証取得までは18か月かかりますが、予備審査で明らかとなった課題の対処がスムーズに進んだことで、7か月という異例のスピードで認証を取得できました。松本組合長はこの速さで取得できた理由を、70年も漁場が使えるほど環境を大事にしてきたこと、認証取得にあたり求められていた記録づけがもともとしやすい体制にあったからだと話しました。

「認証を取得したことで、自分たちの製品に対する意識も、「ただ剥いて出すだけで良いもの」から、「自信と責任を持って届けられるもの」に変わった。これからもずっとカキ養殖できる海であってほしいし、そのために今できることをやりたい。自分達で養殖を止めてはいけないし、色んなことを提案するのが役目。」と松本組合長。

邑久町漁協のようにスムーズに取得が進んだのは、取得前からの環境や管理体制が整っていたことだけでなく、何よりも、リーダーシップが最大の理由だったと言えるでしょう。次の世代にも漁場を残すことは漁業者ならば誰しもが望むことです。そうした生産者の思いや活動をサプライチェーン上の関係者、そして消費者に伝え広げて行くためには、買う人間、売る人間もリーダーシップを持ってその活動をサポートしていく必要があります。

後編では、MSC認証授与式の模様をお伝えします。