日欧ワーキングセミナー「水産物のトレーサビリティによる事業機会の創出」 報告ブログ

日欧ワーキングセミナー「水産物のトレーサビリティによる事業機会の創出」 報告ブログ

 

毎年春にブリュッセルで行われる世界最大のシーフードショー、Seafood Expo Global。今回、このイベントに合わせ、株式会社シーフードレガシーと国際環境NGOのザ・ネイチャー・コンサーバンシーは、日欧ワーキングセミナー「水産物のトレーサビリティによる事業機会の創出」を開催、欧州水産関連企業をスピーカーとして迎え、IUU漁業対策やトレーサビリティに関する取り組みについてお話いただきました。IUU漁業対策やトレーサビリティの確保など欧米の制度で対策が条件となりつつあるサプライチェーン上の課題に欧州企業はどのように取り組み、事業機会の創出に結びつけているのか・・・。今回のブログでは、セミナーから学んだ欧州サステナブルシーフード業界の最新事例をお伝えします。

講師:

アンディ・ヒックマン氏 Tesco PLC レスポンシブル調達マネジャー 
アンドレア・ウェーバー氏 METRO Cash & Carry CSRディレクター
クリス・シャーロック氏 Princes Limited 水産サステナビリティマネジャー
ハーマン・ヴィッセ氏 Global Sustainable Seafood Initiative プログラムディレクター

企業の考えるIUU漁業の脅威

トレーサビリティの構築やIUU漁業対策など、多くの課題が残る現状について講師の一人は「消費者は安心安全な商品であることはもちろん、品質の良さと適切な価格を求めている。もし手に取った商品がIUU漁業に由来する水産物であると分かったら、私たち企業は消費者からの信頼を失ってしまう。」とIUU漁業に関するリスクを説明。更に、IUU漁業は違法漁業だけでなく、人権問題や密輸など多くの犯罪に関連するとし、企業のサプライチェーンとこうしたリスクのある水産物の関与があってはならない、と語りました。

また別の講師は、こうしたIUU漁業に関連する水産物を自社のサプライチェーンから排除するにあたり、EUの輸入規制を高く評価。輸入水産物に関する報告義務を持つEUでは、輸出国とEUが認める漁獲報告書を提出する必要があります(EUのIUU漁業対策についてはこちら)。企業はこの漁獲報告書の提出をサプライヤーに求めることで、商品が店頭に並ぶまでの流通を逆追跡し、漁船と漁獲エリアまで突き止めることが可能だそうです。また、こうしたサプライヤーとのコミュニケーションを通して課題の共有を行うことが信頼関係の構築にも繋がり、サプライチェーン上のステークホルダーが協働していくことの重要さを再度認識した、と経験を語りました。

トレーサビリティの確保はリスクヘッジなのか

IUU漁業対策などを通してサプライチェーン上の透明性を確保する取り組みが進む欧州では、トレーサビリティシステムは顧客に絶対の安心を補償する重要なツールと捉えられています。店頭でバーコードをスキャンするだけで商品の漁獲から店頭に並ぶまでの流通をその場で確認できる一貫したシステムを導入することで、顧客からの信頼を得ることはもちろん、リコール対応がより的確に素早く可能になり、調達方針にそぐわない水産物が紛れ込むことがなくなったそうです。また、サプライヤーも商品についての情報を顧客に伝えるプラットフォームとしてこのシステムを活用、商品の付加価値を伝える重要なコミュニケーションツールになっています。

調達方針を実行する

小売と生産現場の間に位置する加工会社は小売の調達方針に対応することはもちろん、生産現場からの情報を確認し、違法に漁獲された水産物がサプラーチェーンに紛れ込むのを阻止する役目も果たします。こうした加工会社は生産者と契約を交わす際にIUU漁業や洋上転載などの禁止事項を明確化、また漁獲証明などを含む輸出に関する書類の提出を義務付けているそうです。これらの書類は輸入部門で細かく確認されます。またサプライヤーに対し、年に2回、International Seafood Sustainability Foundation (ISSF)の「保全対策及びコミットメント」で定められた事項に対する報告を求め、漁業現場での対策徹底を行なっているそうです。講師の一人はIUU漁業由来の水産物を排除するにあたり「細かい報告と確認も大事であるが、もっとも大事なのは生産者との長期的な信頼関係を築くこと。関係を築くことはデータの蓄積にも繋がり、そうした上でこそ持続可能なビジネスが成り立つ。」とサプライチェーン上のステークホルダー同士の繋がりの重要性を強調しました。

サステナビリティは協働の場

全ての講師が共通して強調したことは、「協働」の重要性です。通常はライバル関係にある企業でも持続可能性に関しては目標を同じとする同志です。また水産物の持続可能性という大きな目標に向けて成果を出すためには、1社の力だけではどうにもならない、課題を共有する企業が集まり、協働することでより大きな成果を得ることができる、とヨーロッパのステークホルダーは口を揃えました。そうした取り組みの例として挙げられるのがGlobal Sustainable Seafood Initiativeです。現在、世界には140以上もの水産認証プログラムが存在すると言われており、GSSIはその認証プログラムがFAOのガイドラインを満たしているかを確認する役割を果たしています(GSSIについて詳しくはこちら)。サプライチェーン上の多くの企業がGSSIを支援することで水産物のエコラベルのクオリティーの向上、そしてサプライチェーンへの負担の軽減に繋がることが期待されます。

サステナビリティ成功の鍵は社内のコミュニケーション

各国に店舗を展開する企業に勤める講師の一人は、異なる文化や環境の中で持続可能性に対する取り組みを顧客に伝えていくために重要なのは「社員一人ひとりが同じメッセージを伝えられるようにすること。そのためには、企業方針と優先事項を明確化すること。」とし、企業が主体となり、積極的に改善プランを提示していくことでNGOとの関係も良好になった、と自身の経験を語りました。また、持続可能性に対する取り組みを企業として実現していくためにはトップダウンのアプローチが欠かせないとした上で「企業の持続可能性に関する指数が発表されたり、ESG投資に対する関心が高まる現在、企業のマネージメント層もこうした要素に興味を持っている。明確なインセンティブを示すことが上層部とのコミュニケーションの鍵。」と語りました。

先進的な取り組みを続けるヨーロッパ企業を講師として迎え行なった今回のセミナー。複数の大手日本企業から担当者が参加し、有意義な意見交換の場となりました。弊社からは代表の花岡がヨーロッパ企業に向けて日本の現状を説明。会場からは「私たちの経験から学べることがあれば、喜んでサポートしたい。」と心強い言葉をいただきました。

トレーサビリティシステムの導入やIUU漁業対策、そして持続可能な漁業や取り組みへの支援など、こうした企業の取り組みには多くの人員、コミットメント、そしてコストが発生します。しかし、多くの企業はこれを今後もビジネスを続けて行くための責任と投資と捉え、同業者やNGOなどの専門組織と協働し、取り組みを続けて行く前向きな姿勢がとても印象的でした。日本でもこうした企業主体の取り組みと協働の仕組みが広がり、企業、政府、そして社会を巻き込んだ大きなムーブメントに発展していく予兆を感じるセミナーとなりました。