アメリカの小売業界でサステナブルシーフードの取り組みが広がった背景とは

アメリカの小売業界でサステナブルシーフードの取り組みが広がった背景とは

イオン、イトーヨーカ堂、CO-OP、西友など、日本でも多くの小売店舗でサステナビリティを担保する認証がついた水産物を目にすることが増えてきました。

実際、認証つき商品を流通させるために必要なCoC認証を取得した国内企業の数は、2018年6月から2020年7月の間にMSC認証のCoC認証では164社から283社、ASC認証のCoC認証では67社から141社に増加しました。商品数も多く、MSC認証は914品目、ASC認証は296品目が現在販売されています*1。また、今年6月にMSCが発表した調査結果によると、日本人の消費者の3人に1人がサステナブル・シーフードを選びたいと回答し*2、サステナブル・シーフードの認知度も向上しているようです。

SDGsがハイライトされるニューノーマル時代

国内でのサステナブル・シーフードの普及は、2015年に国連で採択されたSDGsの目標12(つくる責任 つかう責任)、目標14(海の豊かさを守ろう)などの達成に直結することもあり、近年サプライチェーンが活発に取り組み始めています。今年は今なお感染が拡大しているコロナウイルスで普及が危ぶまれることもありましたが、感染拡大による影響は私たちに食の安定供給の重要性を改めて認識させ、各企業が安定したサプライチェーンを構築するために社会や環境のサステナビリティに対する責任感を強めるきっかけとなりました。

 

欧米でもサステナブル・シーフードの普及はビジネス・イニシアチブから

この分野で10-15年先行する欧米でも、もともとサステナブル・シーフードのムーブメントは小売業界の主導の下進められてきました。その多くは「弊社が取り扱う水産物は100%サステナブルです。安心してお買い物をしてください」「○○年までに弊社が取り扱う水産物の100%をサステナブルなものにします。私達の取り組みを応援してください」と公言しています。その結果、消費者からのニーズも生まれ、それにサプライチェーンも応え、生産の大元である多くの漁業や養殖業の現場でもサステナビリティが実践されるようになりました。

こうした流れは現在どうなっているのでしょうか、コロナウイルスによる影響はあったのでしょうか?今回は特に北米について、小売・食品業界メディア「Progressive Grocer」の記事 “Taking Stock of Sustainability” (2020/7/13発行)からご紹介したいと思います。

ポイント

北米の小売企業はサステナブル・シーフードに関しては調達目標を各社で設定して着実に取り組みを進めている

コロナ禍であっても消費者のサステナビリティへの関心は高く、今後も小売企業はそれに応えていくと見られる

サステナビリティの取り組みは目標を設定してから始めるとスムーズ。定期的に進捗状況を公表すると良い

 

小売業で進む取り組み

北米の小売大手25社の90%*3は上述したような「〇〇年までに水産物のxx%を持続可能なものに切り替える」という調達に関する方針を掲げて実践したり、国際的なイニシアチブに参加することで水産物のサステナビリティを向上しようとしています。

Walmart

北米最大の小売企業であるWalmartは、自社がもつ多大なる影響力を環境問題の解決に生かすために、2005年に人と環境に配慮した製品を販売するプログラムを開始しました。2009年には2005年に始めた取り組みを確認、評価するための「Sustainability Index」を発表しました。現在は北米、カナダ、ブラジルなどのWalmartや他ブランドのSam’s Club、ASDAで販売する水産物について2つの目標を掲げています。

1. 生鮮、冷凍水産物は2025年までに全て以下の水産物に切り替える

  • MSC、ASC、BAP認証を取得している
  • このような認証のベンチマークプログラムを運営する国際組織Global Sustainable Seafood Initiative (GSSI)に認定された認証を取得している
  • または認証を取得しようとしている、あるいは生産手法を持続可能にする「漁業・養殖業改善プロジェクト(FIP、AIP)」を行っている漁業・養殖業により生産されている

2. ツナ缶のツナ

上記の3項目に加え、世界のマグロの研究者や企業、環境NGOにより構成される組織International Sustainable Seafood Foundation (ISSF)が定めた基準を満たす方法で獲られたマグロに2025年までに全て切り替える

2020年8月現在は、1については90%を達成*4、2については今年7月からプライベートブランドの「Great Value」をMSC認証もしくは認証取得を目指すFIPにより漁獲されたものに切り替えました。

Whole Foods

Whole Foodsは北米最大のオーガニック、自然食品を扱う小売企業で、小売企業の中でも最も早く水産物のサステナビリティに取り組んできました。1999年にアメリカの小売企業では初めてMSCとパートナーシップを組み、2010年にはサステナビリティをレーティングするプログラムSeafood Watchとも提携しました。2012年には販売されている水産物は全て以下のものしか取り扱わないことを目標として掲げ、2013年に達成しました*5

  • 天然魚は全てMSC認証を取得している、またはSeafood Watch で緑色(資源が豊富、おすすめ)と黄色(漁法や生産方法には要注意だが資源的には食べても問題ない)と評価されているもの
  • 養殖魚とえびは抗生物質、成長ホルモン、合成寄生虫駆除剤、餌に家畜や哺乳類由来の製品を使用しないもの。特にえびについてはマングローブなどの生態系への影響が最小限に止められていること。
  • ツナ缶のツナは、一本釣りなど混獲が発生せず沿岸域の雇用を生み出すような漁法で獲られておりMSC認証を取得している、またはSeafood Watch で緑、黄色とされている

今年はIBMのブロックチェーン・プラットフォームを用いてトレーサビリティを確立させた、ノルウェーのKvarøy Arcticのサーモンの取り扱いも始め、更なる高みを目指しています。

Kroger

35州に店舗を構える北米第2位の小売企業です。2011年に、2015年までに天然魚の売上げ上位20種をMSC認証を取得済、最終審査中、またはFIPから調達するものに切り替えることを目標としました。2016年にはそれまでの目標を引き上げ、2020年までに以下のものに切り替えるとしました*6

  • 天然魚は全てMSC認証を取得済、最終審査中、取得が見込まれているFIP、またはGSSIに認定されたものとし、重量の90%はMSC認証を取得したものとする
  • 養殖魚は全てBAP、ASC、Global G.A.P認証を取得している
  • ツナ缶のツナは全てISSFの基準で漁獲されている

2019年時点での切替の達成率は天然魚、養殖魚、ツナ缶でそれぞれ88%、96%、100%、重量については71%となっています*7

Krogerはこの約10年間に43のFIPから調達を行い、うち1つのプロジェクトでは予備審査代の支援、18プロジェクトについては経済的支援も行っています。

 

成長を続ける「サステナビリティ」マーケット

欧米では日々の購買を通じてサステナビリティに貢献しようとする消費者が多いことが、様々な調査結果からもわかっています。

例えばマーケティング調査会社のFuterra社がイギリス、北米の1,000人以上を対象に行った調査では、88%が「日々の生活を環境に優しくエシカルにしてくれるようなブランドを好む」と回答し、「個人の行動(例:寄付、リサイクル、エシカル消費)が実際に社会を変化させると思うか?という質問には、51%が「大きく変えられる」、45%が「ある程度変えられる」と回答しました*8

また、IBMが日本を含む世界の28か国、18,980人の一般消費者を対象に行った調査*9では、70%以上が「環境に責任感をもっていると思われるブランドに対してなら35%高い金額をプレミアムとして払う」と回答し、全ての年齢層がブランドや商品を選ぶ時に自身の健康のほかにサステナビリティや環境を重視していることがわかりました。

このような消費者のサステナビリティに対する関心や意識の高まりは、マーケットにも反映されています。ニューヨーク大学によると、アメリカで販売された個人や家庭向けの食品を含む全ての製品(消費財)の2014-2019年の売上成長のうち54.7%が「サステナブル」とされている製品だったそうです。2019年末から2020年6月中旬にかけての売上も、アメリカでのコロナウイルス感染拡大が始まった3月中旬に急増したことを除いて安定しており、マーケットシェアも2019年の16.1%から2020年は16.7%に伸びると予想されています*10

シーフードについては、前述したWalmartのプライベート・ブランドのツナ缶に対するコミットメントが発表されたのも先月であり、コロナウイルス禍でも、小売企業がサステナブル・シーフードの販売を継続し、消費者がそれを積極的に購入する関係は今後も続いていくのではないでしょうか。

サステナビリティのニーズを生み出すには

記事では「サステナビリティ」という言葉は、環境に良い行動を取ること、また環境や社会の改善のために次々と生まれるイニシアチブなど全てを含む言葉であり、解釈も人によって異なるとされています。広義だからこそ多方面から取り組むことができますが、一方で企業が取り組みを始める場合はその目標や評価が曖昧になりやすくもあります。

そうならないためには、まずは達成できそうな、あるいは少し野心的であっても達成したい目標を設定するのが良いでしょう。例えば北米企業の持続可能な調達に関する取り組みを支援しているNGO、Conservation Alliance for Seafood Solutionsが発表した「持続可能な調達に関する取り組みの6か条」は多くの小売企業の調達方針に取り入れられています*5。立てた目標は100%達成していなくても定期的に途中経過を公表すると、取り組みが進んでいるのだという認識も社内外から持たれやすくなります。設定する目標が具体的であれば、軌道修正も図りやすくなります。

各小売企業による取り組みと個人の行動が生むインパクトに対する意識が組み合わさって、北米のサステナブル・シーフードのムーブメントは推進されてきました。リーマンショックよりも経済、社会的なダメージが大きかったコロナウイルスの感染拡大を経てもなおサステナビリティを求める意識が消費者に根付いたのは、地球の環境変化ももちろんですが、企業が模索しつつも計画して着実に進めていった結果でもあります。日本の消費者と北米の消費者とでは消費傾向が異なるかもしれませんが、国際的な流れもあり、日本でも今後サステナビリティへの関心はより高まっていくと思われます。ウィズコロナ時代で先行きが不透明だからこそ「ここだけはブレない」という軸をまずは各社で持つことが重要なのかもしれません。

 

北米の小売企業の水産物調達方針について詳しく知りたい方はこちらもお読みください。

https://seafoodlegacy.com/report/#1540170532391-5e21b345-ce35

 

 

(引用元)

*1 ASCジャパン、MSC日本事務所のニュースレターおよび弊社主催ワークショップの登壇内容より
*2 https://www.msc.org/jp/media-centre/press-releases/World_Ocean_Day_2020_Japan
*3 *Progress Toward Sustainable Seafood – By the Numbers July 2020 Edition (CEA, the David & Lucile Packard Foundation, 2020)
*4 https://corporate.walmart.com/global-responsibility/environment-sustainability/sustainable-agriculture
*5 「サステナブル・シーフード・ジャーニー 米国小売編」
*6 http://sustainability.kroger.com/Kroger-Seafood-Sustainability-Report.pdf
*7  http://sustainability.kroger.com/2020-goals.html
*8 https://www.forbes.com/sites/solitairetownsend/2018/11/21/consumers-want-you-to-help-them-make-a-difference/#4e08797c6954
*9 https://www.ibm.com/downloads/cas/EXK4XKX8
*10 https://www.stern.nyu.edu/sites/default/files/assets/documents/NYU%20Stern%20CSB%20Sustainable%20Market%20Share%20Index%202020.pdf