日本生活協同組合連合会(日本生協連)は、サステナブルな農林畜水産物およびそれらを主原料とするコープ商品を「コープサステナブル」シリーズとして、2021年春から展開を開始しました。
また、2021年5月には、持続可能な社会の実現に向けて全国の生協で推進する「生協の2030環境・サステナビリティ政策」の策定に合わせて、「コープ商品の2030年目標」を策定し、サプライチェーンを通じて人権を尊重し、環境に配慮した「責任ある調達」を一層推進する、コープ商品「責任ある調達基本方針」を公開しました。
ジャパン・サステナブルシーフード・アワード実行委員会(※)が運営する「第3回ジャパン・サステナブルシーフード・アワード」のリーダーシップ部門でチャンピオンに選ばれた、これらの取り組みの背景と意義について、日本生協連の第一商品本部・本部長スタッフ(サステナビリティ戦略担当)で水産物の調達に関する調査や起案を担当している松本哲さんにお話を伺いました。
―― 日本生協連は、2007年よりMSC認証を取得した水産物を取り扱うなど、長年サステナブル・シーフードの課題に取り組んでおられます。今回受賞された「コープサステナブル」シリーズ発売のきっかけを教えてください。
他社でも同じような悩みをお持ちだと思いますが、サステナブルな認証エコラベルの商品を増やしても、消費者にエコラベルがまだまだ認知されておらず浸透していないという状況がありました。
日本生協連は、プライベートブランド(PB)であるコープ商品を開発して全国の会員生協に提供しています。宅配や店舗などの事業は会員生協が独自に行っており、その会員の地域生協などに消費者が組合員として加入しているわけです。
コープ商品ではいろいろな認証エコラベルが付いた商品を展開していますが、「サステナブルな認証商品が組合員にもっと認知されるための工夫が必要ではないか」「デザインなどでわかりやすく伝えてはどうか」などの意見があり、本シリーズの検討を始めました。
エコラベルが付いていても、知られていなければ見落とされてしまいがちです。パッケージデザインやロゴに共通性を持たせ、エコラベル付きの商品をまとめて「サステナブルなもの」として打ち出すことで、よりわかりやすく伝わるのではないかと考えました。
それに水産物の場合、コープ商品に付いているエコラベルがMSC、ASC、MEL、BAP(※)と4つもあって、組合員から見るとそれぞれがどのようなラベルなのか迷ってしまうので、共通のメッセージでひとくくりにしてブランディングした方がわかりやすいのではないかということも、検討の視点になりました。
―― エコラベル付きの商品をひとくくりにして共通のロゴを付けるというのは、良いアイデアですね。
「コープサステナブル」シリーズの考え方については2019年度から、全国の会員生協と意見交換をしながら検討を進め、今年春にようやく商品を発売したところです。
水産物で認証エコラベル付きのコープ商品については、共通ロゴの下に「海の資源を守る」というメッセージを入れ、組合員が売場でサステブル・シーフードを見つけて選びやすくなるようにしました。
ASC認証: 国際的な非営利団体Aquaculture Stewardship Council(水産養殖管理協議会)が運営する、養殖水産物の認証制度。 BAP(Best Aquaculture Practice)認証: 国際的な非営利団体Global Seafood Alliance (世界水産物連盟)が運営する、養殖水産物の認証制度。 MEL(マリン・エコラベル・ジャパン)認証: 一般社団法人マリン・エコラベル・ジャパン協議会が管理する、日本発の漁業認証制度。
―― 「コープサステナブル」シリーズの「おいしい、うれしいが未来につながる」というキャッチコピーはどういう発想から生まれたものですか。
エコラベルが付いているからといってそれだけで商品が売れるようになるわけではないことは、私たちの長い経験からもよくわかっています。消費者が水産物や水産加工品を選ぶとき、大事なのは美味しさと品質。それに値ごろ感や使いやすさも重要です。
そもそもの商品設計の根幹がしっかりしていないと利用につながらず、エコラベルを付けても商品の継続自体が厳しくなります。キャッチコピーをつくるマーケティング部署との打ち合わせの時に、どういう漁業で獲られているからサステナブルだという話だけでは組合員の支持が広がらないだろうという話をしました。
例えば、ノルウェー産の大西洋のサバの場合、多くは脂質が高くてベストシーズンと言われる9月から11月に漁をします。IQ(個別割当方式)で漁船ごとの漁獲枠の管理をやっているので、美味しくて価値が高い時期に集中して漁獲すると言われています。残念ながら今はMSC認証が停止されましたが、漁業や資源をしっかり管理することは魚の美味しさにもつながる。そんな思いも伝えたいということを議論しました。
―― サステナブルなものは高いというイメージがありますが、値ごろ感はどのようにして実現できるのでしょうか。
こういった認証について、「高い」というイメージを持つ消費者もいらっしゃいますが、MSCの場合、認証取得の単位を大規模にすることで、認証にかかるコストが原材料の原価に反映する度合いを小さくすることができるとみています。例えばサバや赤魚を使ったコープ商品では、MSC認証ラベルが付いたことを理由にした値上げはしませんでした。ただし、魚種によってはMSC認証の原料が非認証のものより高い場合もありますね。
―― 「第3回ジャパン・サステナブルシーフード・アワード」では、高知と宮崎の近海かつお一本釣り漁業によるMSC認証取得の取り組みがコラボレーション部門のチャンピオンに選ばれました。漁業者がグループを組んでMSC認証を取得すれば、コストを分担できるという良い例ですね。
本当にそうですね。今後、国内でMSC認証を取得したカツオやマグロを使った商品を開発できれば……と考えています。
―― 「コープサステナブル」シリーズの導入に対する会員生協の反応はいかがでしたか。
会員生協はそれぞれ独立した組織なので、提案の当初は生協によって受け止めの違いもありました。
しかし、定義のところで、「『未来につながる』生産、資源活用の取り組みを(組合員の利用の力で)応援する商品」と位置付け、「コープサステナブル」という共通ロゴを付けることが、生協の取り組みへの組合員・社会の認知を広げることを説明し理解を得ました。既にエコラベルが付いた商品から切り替えていきましたので、発売後の導入は計画通りにすすんでいます。
―― スタートから半年ほど経って、反響はいかがでしょうか。
今のところ組合員へのシリーズの周知はこれからという感じですが、説明を聞いた方からは「選びやすくなって良かった」といった感想も寄せられています。会員生協では、宅配のカタログ上で「コープサステナブル」シリーズについての特集紙面や解説なども始まりましたので、少しずつ取り組んでもらっていると思っています。
さらにシリーズの認知を広げるためには、商品数をもっと増やしていく必要がありますね。水産商品では、今は40品程度ですが、来年の春夏ぐらいまでに100品近くまで増やす計画です。基本的には、すでに発売している商品でエコラベルが付いている商品、また、新たにエコラベルを付けられる商品をこのシリーズに組み入れていくという形です。
―― 国内でMSC認証を取得しているのはまだ12漁業です。「コープサステナブル」シリーズの水産物商品は、主に輸入原料でつくられているのでしょうか。
現状は輸入原料が多いですね。今扱っている商品で言うと、明太子や練り製品などの原料のスケトウダラはアラスカ産とロシア産です。赤魚やカレイはアラスカ産。今のところ国産は北海道のMSC認証ホタテですが、今後、MEL認証の国産原料を使用した商品が発売される予定です。
日本生活協同組合連合会
各地の生協(生活協同組合)や生協連合会が加入する全国連合会。1951年設立。現在の会員(会員生協)数は314、供給(売上)高は4,396億円。主な事業は、プライベートブランド(PB)商品の開発と供給、通販事業、会員の事業・活動支援など。PB商品の開発に積極的であり、赤地の楕円に白文字で (CO・OP) のマークが付けられた製品(コープ商品)は日本生協連の開発。
取材・執筆:井内千穂
中小企業金融公庫(現・日本政策金融公庫)、英字新聞社ジャパンタイムズ勤務を経て、2016年よりフリーランス。2016年~2019年、法政大学「英字新聞制作企画」講師。主に文化と技術に関する記事を英語と日本語で執筆。
松本さんのサステナブル・シーフードの取り組みへの思いを知りたい方はこちらもお読みください。
生協の社会的役割。 組合員とつくる 豊かで持続可能なくらし。