漁業者、流通業者、消費者。皆の「連携」で海鳥の混獲削減へ(前編)

漁業者、流通業者、消費者。皆の「連携」で海鳥の混獲削減へ(前編)

バードライフ・インターナショナルは、鳥類とその生態環境の保全を目的に活動する国際環境NGO。その一員として、鈴木康子さんは日本の海鳥混獲問題を担当しています。

今回は鈴木さんに、バードライフ・インターナショナルに勤務するまでの経緯や、現在の活動などについてうかがいました。

鳥の研究に捧げたアメリカでの19年間

——鳥の仕事に携わるようになった経緯を教えてください。

大学の獣医学科を卒業後、日本の動物病院で勤務医をしていました。その後、子どもの頃からの夢だった「野生動物の仕事をしたい」という思いを実現するため、1999年に渡米しました。

ワシントン州立大学動物病院での研修を経て、ミネソタ大学 獣医学部の「猛禽類センター」へ。1年間に数百羽の猛禽類が運ばれてくるこのセンターで怪我や病気の治療を手がけました。

——猛禽類から海鳥に方向転換されたのはなぜですか。

アメリカで学びながら、どんな鳥の勉強をしたら将来日本で役に立てるだろうかと考えました。そして海鳥なら、日本と北米の間を行き来する種類もいるのでつながりがあると思ったんです。

また、野生動物の仕事をするには、動物そのものだけではなく動物がいる環境、生態系も一緒に学ばなければならないと気付きました。そこで、個体群レベルで海鳥を学べる大学院に進みました。

まず、カリフォルニア大学 デービス校へ。ここではペリカンの研究を行い、修士号を取得。その後、オレゴン州立大学に移って海鳥の研究に従事し、博士号を取得しました。

——オレゴン州立大学ではどんな研究をされたのですか。

繁殖地を失ってひとつの川に集まった海鳥が、その川で鮭の稚魚をたくさん食べてしまうという問題に関連した研究をしていました。

その時に感じたのは、魚を守りたい人と海鳥を守りたい人で二極化してしまい、それが問題解決の妨げになるということ。人間も問題の一部と捉えて臨まなければならないと実感しました。

オレゴン州立大学博士課程修了後、引き続き数年間同大学で研究を行ったのち、2018年に帰国しバードライフ・インターナショナルに所属しました。

 

アメリカの研究者として南極でペンギンの生態調査にも参加した

海鳥の混獲削減のため、調査と対話に奔走

——バードライフ・インターナショナルでは、どんな活動をしているのでしょうか。

海鳥の混獲問題に対する取り組みを行なっています。海鳥の混獲は様々な漁法で報告されていますが、特に力を入れているのは「刺し網漁」と「はえ縄漁」です。

沿岸に設置する刺し網漁は、網をカーテン状に海に仕掛けるという漁法で、海に潜って魚を獲る海鳥がこの網にかかってしまいます。ウミスズメ科に属するエトピリカ、ウミガラス、ウミスズメや、ウ類など、世界で約40万羽が毎年犠牲になっていると推定されています。

刺し網漁の混獲に対してはまだ効果的な対策が確立されていません。

——刺し網漁の混獲は対策が難しいのですね。

はい。そこで、北海道の羽幌町と苫前町の漁業者に協力してもらい、基礎データの収集を行なっています。日本では刺し網漁の混獲数は報告義務がないため、正確な数値が分かりません。ですので、現在は実情把握に努めています。

また、東京都内にある葛西臨海水族園で、刺し網漁で混獲されやすいウミガラスとエトピリカが飼育されているので、そこで新たな混獲対策案の開発を行なっています。

刺し網漁での混獲に対するこれらの取り組みは、全て北海道大学の研究者と共同で行なっています。

写真提供:葛西臨海水族園 葛西臨海水族園では新たな混獲対策案の開発を行なっている

 

——はえ縄漁の混獲の実情や対策を教えてください。

はえ縄漁は、1本の幹縄に、先端に針と餌のついた多数の枝縄をつけ、マグロなどを釣る漁法です。アホウドリ類や大型のミズナギドリ類が釣餌を狙い針ごと飲み込むこんでしまうことで混獲され、その数は毎年16万羽以上(典拠:https://www.int-res.com/abstracts/esr/v14/n2/p91-106)と推定されています。

はえ縄漁 イメージ(Rachel Hudson Illustration )

 

はえ縄漁の混獲に対してはすでに効果的な対策が確立されていて、世界に5つあるマグロ類の地域漁業管理機関「RFMO」が混獲対策の国際ルールを定めています。

はえ縄漁は様々な海域で行われていますが、日本の漁船では特に遠洋や近海のはえ縄漁の操業域が、混獲されやすい海鳥の生息域と重なっています。

ですから、まずは漁師さんにお話をうかがうことから始めています。混獲対策にどんなものを使っているのか、使い勝手は良いのか悪いのか、どんな懸念があるのかなど、皆さんに教えてもらっています。

 

日本ではまだまだ知られていない混獲。認知のための活動も

——日本の一般消費者は混獲について知らない人がほとんどだと思います。海鳥の混獲は日本でどれくらい認知されているのでしょうか。

漁業者さんに関しては、実際に現場で起こっていることなので、混獲をよく認識されていると思います。また水産庁も、5つのマグロ類RFMOの国際会議に参加していますので、日本の混獲の現状や対策の必要性は痛感されていることと思います。

一方、流通業者や消費者については、認識されている方は多いとは言えません。

——流通業者や消費者に対しては、どのような働きかけをしていますか。

流通業者に対しては、セミナーやウェビナーを開いたり、シンポジウムで登壇して発表をしたり、直接担当者とお話をさせてもらうこともあります。一般消費者に対しては、TwitterInstagramFacebookで、「南半球アホウドリ物語」というアカウント名で情報発信を行なっています。

「南半球アホウドリ物語」というアカウント名は、アホウドリ22種類のうち18種類が南半球のみに生息していて、日本の遠洋はえ縄漁の操業域と重なっているということを知ってもらうために名付けました。フォロワーも増えつつあり、認知につながっていると思います。

SNSではアホウドリに親しみを持ってもらえるよう、写真も多数配信(Stephanie Prince )

 

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鈴木 康子(すずき やすこ)
日本の動物病院で獣医師として勤務した後渡米し、ワシントン州立大学、ミネソタ大学の獣医学部で野生動物医学の研修を行う。さらにカリフォルニア大学 デービス校、オレゴン州立大学で海鳥の研究に従事し、修士号、博士号を取得。2018年に帰国しバードライフ・インターナショナルに所属。
バードライフ・インターナショナル:https://tokyo.birdlife.org
メールアドレス:yasuko.suzuki@birdlife.org

 

取材・執筆:河﨑志乃
デザイン事務所で企業広告の企画・編集などを行なった後、2016年よりフリーランスライター・コピーライター/フードコーディネーター。大手出版社刊行女性誌、飲食専門誌・WEB、医療情報専門サイトなどあらゆる媒体で執筆を行う。