足掛け5年 中国のアサリ漁で念願のMSC認証取得 企業とNGOの協働で(前編)

足掛け5年 中国のアサリ漁で念願のMSC認証取得 企業とNGOの協働で(前編)

中国大陸と朝鮮半島に囲まれた黄海は、多様な生物が生息し豊かな生態系をつくっています。沿岸地域には20,000km²にもなる広大な干潟があり、世界に9つある渡り鳥の移動ルートのひとつ「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ」にも含まれ、多くの渡り鳥が訪れる重要な中継地となっています。

その中でも鴨緑江(おうりょくこう)河口域の湿地帯は、世界的にも有数なあさりの畜養生産地でもあり、WWF ジャパンが同地域の生物多様性の保全活動に取り組み、ニチレイフレッシュは現地でアサリの加工を行う丹東泰宏(たんとうたいこう)食品有限公司に資源や環境に配慮した「持続可能な水産物」の調達を求めてきました。

こうした背景から、丹東泰宏食品有限公司、ニチレイフレッシュ、WWF チャイナと WWF ジャパンは2016年から漁業改善プロジェクトに取り組み、2021年9月に、アサリ漁でMSC認証を取得しました。この認証取得はアサリ漁としては中国で初めてのもので、黄海や鴨緑江河口域の環境保全の礎になると考えられています。

今回、MSC認証の取得に向けて協働したニチレイフレッシュ 國田英紀さん、WWFジャパン 吉田 誠さん、元WWFジャパンで現在シーフードレガシー COOの山内愛子が、中国のアサリ事情やMSC認証取得に挑戦するまでの経緯を振り返ります。

 

國田英紀(くにた ひでのり)
北海道大学水産学部漁業学科卒業。株式会社ニチレイに入社。水産加工品の販売、量販店向けの生鮮加工品流通の業務に従事したあと本社にて海外加工担当となり中国・東南アジアでの加工業務を取り進める。2006年より株式会社ニチレイフレッシュ・貝類の担当となりアサリ、かき、刺身貝製品、シーフードミックスにて貝類の製品開発および製品の販売普及に務める。
吉田 誠(よしだ まこと)
WWFジャパン海洋水産グループ所属。南米、東南アジア、中国などで、日本が輸入・消費している水産物(シーフード)の持続可能な生産と、現地の自然保護活動のコーディネートを担当。海外のWWFスタッフとも協力し、多くの生物が息づく海の自然と、漁業・養殖業、流通、消費のサプライチェーンを結んだ視点で活動に取り組む。
山内愛子(やまうち あいこ)
東京水産大学資源管理学科卒業。東京海洋大学大学院博士課程修了。海洋科学博士。日本の沿岸漁業における資源管理型漁業や共同経営事例などを研究した後、WWFジャパン自然保護室に入局。持続可能な漁業・水産物の推進をテーマに国内外の行政機関や研究者、企業関係者と協働のもと水産資源および海洋保全活動を展開。2019年にシーフードレガシーに入社。国内NGO等の連携である「IUU漁業対策フォーラム」のコーディネーターを務める。

 

トラブル続きで日本の輸入業者を悩ませる中国アサリ

山内:
今年4月にスペインのバルセロナで開催された水産見本市「シーフード・エキスポ・グローバル 2022」に行ってきました。そこで鴨緑江河口域のアサリ漁業が中国で初めてMSC認証を取得したことが紹介されていて、今回の取得は日本と中国の枠を超え、国際的にも重要なニュースなのだということを実感しました。國田さんが中国のアサリに関わった経緯をお聞かせください。

國田:
ニチレイフレッシュは2003年からアサリの取り扱いを始め、2006年から私がその担当になりました。ですが2007年頃、日本に輸入するための中国産アサリから貝毒※が大量に検出されるというトラブルが起きました。当時は中国の輸出業者もアサリの産地のトレーサビリティを確立しておらず、日本の輸入業者は大混乱に陥りました。私も中国のどの産地が問題なのか追跡する方法に悩み、中国のCIQ(輸出入検験検疫局)の課長にアポイントを取ったのです。

 

*貝毒・・主に二枚貝(アサリ、カキなど)が毒を持った植物プランクトンを餌として食べることで体内に毒を蓄積させる現象のこと。

 

中国の公務員は外国の一般人とは会えないということでしたが少し工夫をして話を聞いたところ、貝毒の原因は大洋河の産地だということがわかり、その産地を外すことで安全な中国アサリを輸入することができました。

このトラブルで中国産アサリのトレーサビリティの重要性を認識し調査などを続けるうちに、WWFジャパンとの交流が始まったのです。私たちが中国産アサリについて調べていたことと、当時のWWFジャパンの海洋グループリーダーが調べていたことが近く、その頃から共感を持ちはじめていました。

そしてニチレイフレッシュのモデル工場である水産加工会社、丹東泰宏食品有限公司(以下、泰宏食品)にWWFジャパンの安村氏が訪れ、泰宏食品もアサリのMSC認証取得に興味を持つようになったのです。

アサリ漁が行われている遼寧省・鴨緑江河口域の干潟

 

トラブルの調査を通じてWWFへの信頼を深める

吉田:
当時WWFは、泰宏食品のある遼寧省の鴨緑江河口域が渡り鳥の飛来地として重要であると認識し、渡り鳥・底生生物・沿岸漁業のつながりに関する調査を通じた、沿岸湿地生態系の保全プロジェクトを進めていました。

今回のアサリのMSC認証取得も元をたどると、黄海が生物多様性保全上、世界でも重要な地域のひとつだと認識し、2002年に保全活動を開始したところから始まっています。黄海の沿岸の中でも特に保全価値の高い重要な地域を23カ所選定し、その中のひとつがアサリの漁場にもなっている鴨緑江河口域だったのです。

國田:
その後、2011年にも中国産アサリの事件が起きました。一部の中国産アサリから農薬が検出されたのです。しかしニチレイフレッシュは、社内の研究所が私の輸入する中国産アサリの残留農薬検査を年間に何度も行っていて、農薬は検出されていないというデータを保有しており、トレーサビリティを確立していましたので、この事件の中でも安全性をいち早く証明することができました。

そしてこの事件の背景を調べてみると、ナマコの養殖場が原因だということがわかりました。ナマコの採取の際に藻が邪魔になるため除草剤を使用していて、近隣のアサリに影響していたのです。そのことを他に突き止めたのはWWFチャイナの海洋担当だけで、WWFチャイナにも高い調査能力があるのだということがわかりました。

山内:
アサリは調達する際の難しさがあるようですが、ニチレイフレッシュもその度に粘り強く調査して安全保証をしてきたわけですね。取引先に安全保証をする際は、調査で得られたデータを一緒に提出するのですか。

國田:
常にお客様に提出するわけではありませんが、お客様から求められたときに安全を保証するデータを提示できるよう、会社として品質保証部が定期的にデータを収集し準備をしています。

山内:
中国でトレーサビリティの調査をするのはやはり難しいですか。

國田:
外国人が中国で調査をするのは難しいですね。MSC認証取得の際にもひとつの壁になったのですが、外国人が調査しようとすると、情報がなかなか取得できないことがあります。ナマコの事件の時も、問題の起きた日本の当事者の水産会社やニチレイフレッシュの調査チームが地元の農薬の販売店に直接行くと口を閉ざしてしまって聞き取りができませんでした。代わりに弊社の大連駐在員事務所の所長が行くと詳しく話してくれました。それで原因がわかったのですよ。

山内:
現地スタッフがいたからこそ問題を解決できてきたわけですね。

國田:
駐在事務所のスタッフ、ニチレイフレッシュから泰宏食品に派遣されていた技術顧問、泰宏食品が中心となって、皆で乗り越えてきました。

 

ニチレイフレッシュのモデル工場である水産加工会社、丹東泰宏食品有限公司

 

山内:
その体制ができた頃に、MSC認証取得の話が出てきたのでしょうか。

國田:
2015年5月に、WWFジャパンが「黄海の環境保全と中国における持続可能な水産市場の今」と題して東京海洋大学で開催した中国水産セミナーにお招きいただきました。そこではMSCを最終目標にしたプレゼンテーションも行われて、泰宏食品とともにアサリのMSC認証取得をめざすことになりました。その頃、山内さんがWWFジャパンの担当者としていらっしゃいましたね。

山内:
はい。その頃から私がWWFジャパンの安村の後任としてコーディネートをさせていただくことになりました。そして、この中国水産セミナーではWWFチャイナの海洋担当も発表を行いました。

 

MSC認証で付加価値をもたらし、こだわりの食材へ

國田:
WWFチャイナの海洋担当が発表していた時に小さな事件がありましたね。発表の途中で中国人の参加者が「ところで日本の輸入業者は中国のアサリを大切に管理して売ってくれているのか」と質問をしたのです。その時、同じ席上にいた遼寧省海洋水産科学研究院の教授が間に割って入って、「失礼なことを言うな! ここにいるニチレイフレッシュのように中国のアサリを大切だと認識して輸入販売している会社もあるんだ」とコメントしてくれました。

その時に、アサリに対して正しい思いを持って流通させることが大事なんだと、改めて認識したことを覚えています。

 

WWFが2015年に東京海洋大学で開催した中国水産セミナー

 

アサリは泥の中に撒いて1年半から2年ほど蓄養するので、異物が入ったり砂を含んだりして、販売していく中でも比較的お客様からのお申し出が多い商材です。ですが、貝毒や残留化合物などのトラブルがあっても、ニチレイフレッシュの中でリスクのあるアサリの取り扱いをやめようという声はあまりありませんでした。しっかり安全の裏付けをとってそれを付加価値とし、「こだわり素材」として売っていこうという方針だったのです。

そういった社の判断もあり、MSC認証取得に繋がりました。コロナの状況にもよりますが、2022年11月にMSC認証取得のアサリとして改めて発表する予定です。

山内:
では引き続き、今回のMSC認証取得の道のりについて伺います。

 

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取材・執筆:河﨑志乃
デザイン事務所で企業広告の企画・編集などを行なった後、2016年よりフリーランスライター・コピーライター/フードコーディネーター。大手出版社刊行女性誌、飲食専門誌・WEBサイト、医療情報専門WEBサイトなどあらゆる媒体で執筆を行う。

 

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