2021年10月12日、第3回「ジャパン・サステナブルシーフード・アワード」のコラボレーション部門で、「高知と宮崎の近海かつお一本釣り漁業によるMSC漁業認証取得」がチャンピオンに選ばれました。受賞した「近海かつお一本釣り漁業国際認証取得準備協議会」は、高知かつお漁協(高知県)と南郷漁協(宮崎県)に所属する、近海かつお一本釣り漁船18隻によって、2019年11月に発足した団体です。
MSC認証(※)の取得は金額的な負担が大きく、個人事業者が多い日本では費用がハードルになることが多々ありました。このプロジェクトでは複数の県と漁協にまたがり、小規模な漁業が合同で審査を受けることで、個々の費用負担を抑えることに成功。また生鮮カツオとしては日本初の事例であり、一本釣りによる魚のクオリティともつながることから、市場へのインパクトが期待されています。
今回はこのプロジェクトにスポットを当て、中心となった中田勝淑さん(高知かつお漁協組合長、有限会社日昇社長、近海かつお一本釣り漁業国際認証取得準備協議会会長)、江藤久義さん(日南市南郷漁協組合長、近海かつお一本釣り漁業国際認証取得準備協議会副会長)、鈴木允さん(近海かつお一本釣り漁業国際認証取得準備協議会事務局長)にお話をうかがいました。
──受賞おめでとうございます。このような新しい形で認証をめざされたきっかけと、経緯をうかがえますか?
江藤久義さん(以下敬称略)ありがとうございます。高知の中田さんから、いっしょにMSC認証を取得しようと誘っていただいたのは一昨年でしたか。
僕らの南郷漁協ではちょうど、多くの船が子どもたちの世代にバトンタッチしていたこともあり、将来へ向けての先行投資というつもりで参加しました。
鈴木允さん(以下敬称略)実はカツオ一本釣りのみなさんは、以前から伝統的な漁法に誇りを持って活動を続けられてきました。宮崎の「日南かつお一本釣り漁業」は今年の2月、農林水産省の日本農業遺産に認定されているし(記事)、高知では「高知カツオ県民会議」(公式サイト)があって、「カツオ県」として県全体を巻き込んで盛り上げています。MSC認証も、そういう「カツオ」そして「一本釣り」を誇る土壌があった上でのことです。
今回の最初のきっかけも、2017年11月の「高知カツオ県民会議」のシンポジウムにうかがって、中田さんに紹介されたことでした。当時私はMSCにいて、そこからグループでMSCに申請してみませんか、というお話になって。全国のカツオ一本釣り漁船は、高知、宮崎、三重、静岡で現在40数隻あります。最初はその全体で認証を取れたら……という考えでした。
鈴木 MSCは本審査の前に予備審査があって、そこで取得の見込みや課題がわかります。そこでまず個々の船主さんに負担をかけない形で予備審査を受けて、2019年の春冬には全体で認証が取れそうだという結果が出ました。
そこであらためて「ここからは自己負担になるけど、本審査に参加しますか?」と呼びかけたところ、「様子を見たい」という人も出てきた。そこまでは「全国近海かつお・まぐろ漁業協会」という全国組織が窓口でしたが、これではまとめ役はできない……ということになって、話自体がいったん止まりかけたんです。
それはあまりに惜しいので、私がMSCを辞め、独立して事務局を引き受けて、新しい団体を作って本審査に臨むことになりました。その頃、高知の中田さんと他の船主さん3人と、先ほど江藤さんがおっしゃったように南郷漁協さんを訪ねたんです。
中田勝淑さん(以下敬称略)「高知としてはやりたい。いっしょにやりませんか」とお願いにうかがいました。
鈴木 南郷漁協さんは「10年前に別の認証を取ったけど、結局役立てられなかった。MSCも、うまくいくかどうかわからないけど、やってみよう」と応えてくださって。それで高知の6隻、宮崎の12隻、計18隻で本審査に臨むことになりました。
──本審査は順調に進みましたか?
鈴木 MSCの認証は時間がかかるんですよ。2019年の11月から必要なデータを集め始めました。漁獲データはもちろん、餌のデータも。一本釣りでは針に餌はつけませんが、釣る前にカツオを集めて、興奮させるために撒き餌をまきます。その餌のカタクチイワシとマイワシを、いつ、どこから、どのくらい購入したか。それから漁業規制や法律の情報、資源評価報告書、国際管理の枠組みについても、公開されている情報を集めて提出しました。
その後、本当なら審査員が来日して現場視察もしますが、去年はコロナでオンライン審査でした。審査員からは漁協だけでなく、水産資源研究所の研究員、水産庁、環境NGOに対してもインタビューがあって、2021年6月に無事、認証を取得できました。
冷凍庫のある遠洋船のカツオ一本釣りで、MSCを取った前例があったので、基本的な審査内容は似ていますが、今回、一番ひっかかったのは撒き餌のカタクチイワシでした。日本の水揚げからすれば少ない量ですが、太平洋のカタクチイワシは資源状態がよくないので、悪影響がないかを問われて。
──高知と宮崎の違いなどはありましたか?
鈴木 漁自体は同じ漁場で行うので、違いはありません。基本的には、近海のカツオ漁は毎年2月に始まり、2・3月は伊豆諸島や小笠原、宮崎の船は南西諸島で操業します。その後カツオがだんだん北上して、4・5月は千葉の勝浦で水揚げ。6月中旬から7月以降は三陸沖で獲って、気仙沼に水揚げします。これが戻りガツオの季節まで続きます。
なぜ勝浦と気仙沼かというと、カツオの目利きができる仲買人がいるからです。そしてここが操業の拠点にもなります。餌の仕入れと、操業中は船に泊まり込みなので、水や食料の補給もいるし、体調を崩したら医者にもかからないといけない。そういう漁船の世話をしてくれる、船宿さんがあるんです。そのたびに高知や宮崎まで戻れませんから。
──ずっと帰れないんですね! どのくらい船上にいるんですか?
中田 高知には、2月から11月までは戻ってきません。その間はほとんど船の中です。江藤さんはどうですか?
江藤 僕のところは、2月はじめは小笠原、沖縄だけど、小笠原で遠い場所だと1回で往復10日かかります。1回の漁はだいたい数日前後ですけど、宮崎まではなかなか戻れません。
──漁に出てみて、魚がいなかったらどうするんですか?
江藤 いなければ帰れんです。それに去年魚がいた同じ場所へ行っても、いるとはかぎりません。餌がなくなるまでとか、油(燃料)がなくなるまで魚を探します。高知さん、三重さん、静岡さんと散らばっている船の間で、情報交換しながら漁場を探します。
──他県の船とも、情報交換があるんですか?
江藤 昔はありませんでしたけど、今は近海一本釣りをやっている4県で「カツオ船グループ」という無線のグループを作っています。操業中は3時間に1回くらい交信して、魚のいるところを知らせ合い、見つかればそこへ走ります。今は船が減っていることもあって、そういう関係になっています。
中田 高知でも、最盛期には100隻前後のカツオ船があって、高知県独自の無線グループを作っていましたが、今は他県と共通のグループで情報交換をしています。
──近海一本釣りの風景も変わってきているんですね。
江藤 宮崎ではかなり変わってます。僕の若い頃は、宮崎のカツオ漁は鮮魚ではなく鰹節製造用で、漁場も水揚港も違いました。でも先輩の一人が高知の人に誘われて、三陸まで北上して操業を始め、僕たちはそのあとに続いて、教わりながら鮮魚を始めたんです。
使っている船も違いました。僕らの知っている沖縄あたりは島が多いので嵐が来たら島陰に避難できるけど、三陸は海へ出たら島がないので、小さい鉄船だったときは怖かったですよ。でも高知の人たちを見習って、その後プラスチック(FRP)船を使うようになりました。最初は高知のお下がりの船をゆずってもらいました。
──そんなご縁があったんですね。高知では変化は?
中田 高知は昔から鮮魚用の一本釣りをやっていたので、釣り方は昔から変わらず、ただ船が大きくなったのと漁場が少し変わったくらい。「土佐の一本釣り」というマンガがありましたが、本当にあのままです。宮崎の方たちがすごいのは、自分たちで新しいやり方を取り入れ、開拓して、着実に経営しているところです。今となっては船の数も高知より多い。
江藤 僕たちがここまで来れたのは、高知の人に教わったからですよ。三陸まで上り始めた頃は、まわりの船頭さんは高知の人ばかりでした。その頃はお互いの無線暗号が違っていたので、コーヒーの空き瓶にその日の情報を入れて船の上から流してもらって、それをたぐり寄せて共有したりしてました。
近海かつお一本釣り漁業国際認証取得準備協議会
高知かつお漁協(高知県)所属の6隻と南郷漁協(宮崎県)所属の12隻、計18隻の近海かつお一本釣り漁船によって、2019年11月に発足。2020年7月よりMSCの本審査を受け、2021年6月にMSC認証取得。
取材・執筆:井原 恵子
総合デザイン事務所等にて、2002年までデザインリサーチおよびコンセプトスタディを担当。2008年よりinfield designにてデザインリサーチにたずさわり、またフリーランスでデザイン関連の記事執筆、翻訳を手がける。