海と共に生きるノルウェーが目指す高収益なサステナブル・シーフード(後編)

海と共に生きるノルウェーが目指す高収益なサステナブル・シーフード(後編)

人口550万人のノルウェーでは水産物のほとんどが輸出されます。2021年の水産物輸出量は310万トン、輸出額は約1兆5425億円で過去最高を記録し、ノルウェーは世界第2位の水産物輸出国として成長を続けています。日本向けも、2021年の輸出量は10万9000トン(前年比4%増)、輸出額は580億円(前年比8%増)で過去最高を更新しました。

ノルウェー漁業省の公共企業であるノルウェー水産物審議会(NSC)の日本・韓国担当ディレクターとして東京に駐在するヨハン・クアルハイムさんにノルウェー産シーフードにかける思いを伺いました。(前編を読む

ノルウェー産シーフードというブランド

――Seafood from Norwayのラベルは店頭でよく目立ちますね。

ノルウェー産シーフードの目印です。つまり、ノルウェー政府当局が管理している水産物だということです。

 

Seafood from Norwayのロゴのついた商品(写真提供:ノルウェー水産物審議会)

 

――ノルウェー産シーフードはどのようにサステナビリティを確保しているのでしょうか。

漁業者が漁獲割当に従っているか、検査官がチェックしています。また、水揚げの計画から船で働く人々の労働環境まで、多くの管理システムがあります。

MSC認証やASC認証など、環境に配慮した認証制度がいろいろあり、バイヤーにとっては、そういった認証商品によって、サステナブル・シーフードを調達するのは良いことでしょう。でも、消費者にとっては、まるでエコラベルのジャングルですよね。ややこしくて迷子になるかもしれません。だから、エコラベルもいいけれど、ノルウェー産の魚がいかに厳格に管理された漁業によるものか、知っていただければと思います。

――ノルウェー政府当局による漁業の管理はそれほど厳しいということですか。

そうです。環境エコラベルや認証制度の上で不正行為があれば、認証を失うリスクがありますが、ノルウェーの漁業で不正を行うと、漁業者は処罰されるのです。

たとえば、昨年の夏、小さな魚を数匹、海に戻した漁師が沿岸警備隊に見つかって裁判にかけられました。ノルウェーでは一旦獲った魚を海に戻すことは許されず、必ず水揚げして報告しなければなりません。1987年に定められた規則が、今でも厳格に守られているのです。

 

水産業界が団結して輸出を促進

―― 2021年のノルウェーの水産物輸出は過去最高を記録しました。どうやって輸出を促進してこられたのでしょうか。

ノルウェーの輸出が成功しているのは、水産業界が団結して進めてきたからだと思います。NSCは勝手にシーフードを売り込んでいるわけではなく、ノルウェーの漁業者や養殖業者の支持を得たノルウェー水産業界の代表として、業界と連携して、ノルウェー産シーフードの市場開拓、需要強化に取り組んでいるのです。

 

ノルウェー北部 ロフォーテン諸島の漁港ヘニングスヴァー(写真提供:ノルウェー水産物審議会)

 

―― NSCでの現在の業務を簡単に教えてください。

NSCのミッションは、世界の市場でノルウェー産シーフードの認知と価値を高めることです。そのための活動が3つあります。

まず、コミュニケーションですね。日本や韓国の輸入業者やバイヤーに、ノルウェーの最新情報を伝え、逆に、ノルウェーの漁業者や養殖業者に日本や韓国で今何が起きているのかを伝えます。

それから、マーケティング、つまり、小売業者がノルウェー産シーフードの販売を促進できるようにする活動です。

そして、3つ目は市場分析です。日本と韓国の市場を理解するために、できるだけ多くの統計データを収集して分析し、ノルウェーに情報を伝える必要があります。中には日本の貿易業界でさえ持っていないデータもあり、日本の水産物消費についての深い洞察や違った角度からの見方も提供しています。

 

ノルウェー産サーモンとノルウェー産サバの普及の次は

―― ノルウェー産サーモン(養殖のアトランティックサーモン)が長い年月をかけて日本で寿司ネタになったのも、違った角度からの見方があったからですか。

その通りです。ノルウェー人がやって来て提案しなければ、寿司に生のサケなんて、あり得なかったでしょうね。

―― ノルウェー産サバ(天然のタイセイヨウサバ)の場合は、日本への普及はいつ頃始まったのでしょうか。

いつ始まったか……私の実家は曽祖父の代から外国に魚を売る商売をやっていました。子どもの頃、日本の冷凍漁船がやって来てクロマグロを買っていたのを覚えています。1970年代はノルウェー沿岸域でもマグロ漁が盛んだったのです。しかし、マグロで満載にできるとは限らず、「何かほかの魚はないか」と尋ねた船長もいました。

祖父は、「サバならありますよ」と答えました。「普通はほかの魚のエサにするものですが。サバでよければもちろん買っていただけます」と。その船長はサバも積んで帰りました。いろいろある話の一つです。

 

日本でもお馴染みのノルウェー産サバ(写真提供:ノルウェー水産物審議会)

 

ノルウェー人はサバの価値を日本人から学んだと認めざるをえません。日本人は魚の価値がわかっていて、価値あるものには喜んでお金を払います。価値あるものを獲るように、ノルウェー人を鍛えてくれたようなものです。国際的な資源管理のもとで回復した品質の良いクロマグロがノルウェーでも獲れるようになってきています。

―― 日本市場での今後の目標を教えてください。

まず、サーモンとサバの輸出を引き続き維持します。日本はノルウェーにとってアジア最大のサーモン市場です。歴史的にノルウェーのサーモン養殖業者にとって、日本に輸出できるということは品質が良い証でした。日本では生食用がほとんどで驚いたのですが、いろいろな焼き方でも味わってもらいたいです。肉の「レア」「ミディアム」「ウェルダン」のようにね。

 

生食でもグリルでも楽しめるノルウェー産サーモン(写真提供:ノルウェー水産物審議会)

 

そして、ノルウェー産サバに関しては、日本は間違いなく世界最大のマーケットです。みなさんが食べている美味しいサバがノルウェー産だという認知度を上げたいですね。そうすれば、ノルウェー産のほかの魚も買ってくれるようになるでしょう。

 

海のために生き、海によって生かされている

―― NSCでの仕事は二度目ですね。どのようなご縁があったのですか。

私は沿岸部の小さな町で生まれ育ち、実家は漁師から魚を買って外国に輸出するのが商売でした。魚がなければどうやって暮らしていけたでしょう。私は船酔いしやすくて漁師には向いていませんでしたが、ノルウェーの水産業界全体のために働くのが夢でした。

実は、19歳で高校を卒業してすぐ、NSCの事務所に電話をかけました。海外駐在の仕事はないかと。

―― 19歳の時ですか!

電話に出た女性は答えました。「まず教育が必要よ。仕事の経験も。それからまた電話ちょうだいね」と。

私は学業を終えてから小さな水産会社に就職しました。今では上場企業に成長したレロイです。そこで9年間、ノルウェーの漁業者から魚を買ってヨーロッパの顧客に販売する営業とマーケティングの仕事を経験しました。

2007年にNSCパリ事務所のディレクター職に応募しました。そして、19歳で電話してから17年後に夢が叶ったのです。フランスとイギリスの市場を担当し、公私ともに充実したパリ生活でしたね。

帰国後も水産業界でさまざまな仕事をしましたが、また外国に行きたいねと家族も言っていた頃、NSCに日本のポストがあったのです。そこで、また応募して東京に赴任したというわけです。

―― 水産業界で仕事を続けてこられたモチベーションをお聞かせください。

ノルウェーは産油国で、最大の輸出品は石油とガスです。2番目が水産物。将来のどこかの時点で石油もガスもなくなるか、少なくとも今より減るでしょう。それでも私たちは何かで生きていかなければなりません。

 

ノルウェーの海岸線は漁業や養殖に最適(写真提供:ノルウェー水産物審議会)

 

ノルウェーの長い海岸線は漁業や養殖に最適で、人々は海のために生き、海によって生かされています。私はただ、その海岸線に家々の灯りが点いていてほしいのです。そして私たちが、おそらく世界で最もサステナブルかつ健康的なタンパク質を食べ続けられるようにしたいのです。

ノルウェー産シーフードを世界中でもっと有名にする。そうすれば、私たちはノルウェーの地で幸せに暮らし続けられる。それが私のパッションです。

 

漁業に支えられてきたノルウェー沿岸部の漁村(写真提供:ノルウェー水産物審議会)

 

 

ヨハン・クアルハイム
1971年ノルウェー・モロイ生まれ。ノルウェーのThe Norwegian College of Fishery Scienceで水産学の修士号、パリのENPCで国際ビジネスのMBAを取得。ノルウェー大手水産会社での勤務のほか、2007-2013年にはノルウェー水産物審議会パリ事務所にてイギリス・フランス市場担当、2019-2020年には世界最大級のシーフードビジネス会議「北大西洋シーフードフォーラム」のマネージングディレクターなど、ノルウェーおよび世界の水産業界にて様々な役職を歴任。2020年12月より現職。

 

取材・執筆:井内千穂
中小企業金融公庫(現・日本政策金融公庫)、英字新聞社ジャパンタイムズ勤務を経て、2016年よりフリーランス。2016年〜2019年、法政大学「英字新聞制作企画」講師。主に文化と技術に関する記事を英語と日本語で執筆。