SDGsが掲げる目標の達成期限である2030年まで10年を切りました。サステナブル・シーフードの推進にもかかわる、SDGs目標14「海の豊かさを守る」に関する世界、そして日本の取り組みの進捗は進んでいるのでしょうか。
2021年7月に、ドイツ最大の財団であるベルテルスマン財団とSDGsの推進機関である持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)が発表した、「SDG Index and Dashboards Report」から読み解いてみましょう。
同報告書は、各国の国連持続可能な開発目標(SDGs)達成状況を分析した報告書で民間組織によるSDGsの分析として毎年発行され、世界的に高い信頼を得ています。というのもSDSNの発起人は潘 基文(パン・ギムン)前国連事務総長であり、また、国連統計委員会(UNSC)が承認したSDGs指標を判断の根拠として活用し、包括的かつ専門性の高い分析を行っているためです。
では早速、目標14について、世界の達成状況をみてみましょう。
以下の図をみてみると、達成した国は一つもなく、多くは「主要な課題が残っている」ことが一眼でわかります。
では、日本はどうでしょうか。
まずは総合評価結果をご紹介します。日本の国別評価スコアは79.8で、世界ランキングは18位。スコアは2000年以降、一番高い数値となりましたが、結果はご覧の通り、達成状況を維持している(緑色)と評価された目標は3つしかなく、多くの課題が残されています。
(見方)
ロゴの色
赤:主要な課題が残っている
オレンジ:重要な課題が残っている
黄色:課題が残っている
緑:目標を達成
目標14についても赤色、つまり「主要な課題が残っている」という評価となっており、さらに詳しく17全ての目標の達成状況をみると、目標14は17の目標の中でも達成度が一番低い状況で、やっと50%を達成したたにすぎません。
では、目標14について、日本ではいったい何が遅れているののでしょうか。
もう少し詳しくみてみましょう。下記は、目標14に関する評価指標と日本の評価結果の詳細です。
1.生物多様性上重要な海域のうち保護されている面積の平均割合
評価 64.8% / 2019年比 横ばい / 赤
2000年の評価48.94からは向上しているのですが、保護区の設定という面で日本の海洋保護政策は依然として不十分と評価されているようです。
2.Ocean Health Indexの水質汚染度
評価 59.4% / 2020年比 下落 / 赤
Ocean Health Indexは海の健康度を科学的に分析するNGOで、Clean Waters scoreは国の管轄下にある海域の海水が化学物質、富栄養化、人間の病原体、ごみによってどの程度汚染されているかを測定しています。この項目は2000年以降、60%前後を推移しており、改善がみられません。
3.全漁獲量の内、過剰漁獲または枯渇した系群が全漁獲量に占める割合
評価 70.8% / 2014年比 下落 / 赤
この項目は2000年の評価が51.93だったのですが、その後、2008年に46.15と低下しつつも挽回しています。ただ、資源管理政策の不十分さが赤=主要課題が残っていると判断されているのかもしれません。この点は、2018年に改定された漁業法(詳しくはこちら)の成果が期待されるところです。
4.底曳網漁による漁獲量の割合
評価 20.4% / 2016年比 改善傾向 / 黄
底曳網漁業は、海底環境を破壊してしまうリスクがあることから、国際的には特に注目されている漁業種類です。この項目は若干改善傾向にありますが、過去には22.89(2002年)と高い数値だった年もあります。ここでは底曳網漁業が取り上げられていますが、海洋環境に負荷を与えない、環境に配慮した漁法への転換が必要です。
5.海上投棄されている漁獲の割合
評価 9.5% / 2016年比 参照する情報なし / 黄
漁業をする際に漁獲されるのは、欲しいものだけとは限りません。サメや海鳥などの生物や、商品価値がない魚なども多く漁獲されます。こうした漁獲したのにいらない生物は、持ち帰らずに海上で投棄されます。投棄される生物は、海に戻されても死んでしまうケースが多いとされています。そのため、獲るべき物だけが漁具にかかる、また間違ってかかってしまった場合は適切に生存可能な方法で放流することが必要です。また、こうした問題を解決するためのモニタリングの強化などが望まれます。
日本の状況は2016年以降、参照するデータがないため、課題があるという評価に止まっています。日本は世界で第8位の漁業生産国ですが、一方で1位、2位の中国、インドネシアは4.8%、4.3%と生産量に対して日本よりも低い数字でした。廃棄の原因を突き止めて改善する必要がありそうです。
6.輸入に伴う海洋生物への脅威(100万人あたり)
評価 1.0 / 2018年比 参照する情報なし / 赤
輸入に伴う海洋生物への脅威、とは海洋生態系をおびやかすような水産物の輸入を意味します。元情報を提供している論文は、世界の生物種の3割は国際的な貿易によって危機にさらされていると警告しています※1。たとえば、パーム油が使われた製品を輸入することによって、熱帯雨林の破壊につながってしまう、といった例があります。
日本の水産物市場は多くが輸入水産物でまかなわれています。そのため、日本近海だけではなく、海外の海域で生息する魚や海洋生物への責任も問われます。例えば、輸入している水産物の資源状態は大丈夫か、また混獲など海の生態系に影響を与える漁獲方法で獲られた水産物でないかなど、しっかり確認することが必要です。
この項目について、2018年以降、日本の取り組み状況を参照するデータがないため、「主要な課題がある」という評価に止まっています。日本でも、2020年に「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律(水産流通適正化法)」が成立し、輸入する水産物がIUU由来でないかなど確認できる法的枠組みができました。リスクのある輸入水産物を水際で防ぐこうした仕組みも重要な対策となっています。
今回のレポートで、目標14については、どの国も目標を達成すべく、取り組みを推進していることがわかってきました。中でも日本は最も進捗の遅い「主要な課題が残っている」と評価されていますが、まずは「課題が残っている」レベルを目指し、最終的には「達成」することが世界的な水産消費国として責任を果たすためにも必要です。
そのためにまずできることは、今いる場所の実態を適切に把握するためにデータを正確に、定期的に集め、評価する仕組みをつくることでしょう。海洋保護区にしても、資源管理にしても効果を発揮するためには根拠となるデータが必要です。正しいデータの管理は生産現場、企業、政府が一丸となって取り組まないと実現しません。
漁業法が改正され、IUU(違法・無報告・無規制)漁業撲滅に向けて流通適正化法が施行されるなど、日本の水産業政策は大きく変わり始めていますが、実施の確保のための具体的な実施はまだこれからです。その意味では、今後の評価は、日本がいかに政策に掲げた課題解決に向けて実効性のある行動をとるかにかかっているといえるでしょう。
※1 International trade drives biodiversity threats in developing nations,M. Lenzen, D. Moran, K. Kanemoto, B. Foran, L. Lobefaro & A. Geschke, Nature volume 486, pages109–112 (2012)
https://www.nature.com/articles/nature11145
<日本の目標14に関する詳細な評価の見方>
https://dashboards.sdgindex.org/profiles/japan
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