日本で食べられている水産物のおよそ4割が輸入品*1です。
ある論文によると、実は輸入水産物のうちおよそ3割がIUU漁業によるものと言われています*2。IUU漁業とは違法・無報告・無規制(Illegal, Unreported, Unregulated) 漁業のことで、経済、生態系、人権などの面で問題視されています。たとえば、後ほどご紹介するスルメイカの場合、IUU漁業が国内のイカ産業の収益に年間約15~29%(240億~460億円)の損失を与えているとする試算もあります*3。
IUU漁業の撲滅は、SDGsの目標14(海の豊かさを守ろう)の中のターゲット*4にも明記されており、IUU漁業を防止しようと世界が動きはじめていますが、実態をつかみにくいのが問題です。
そこで、今回は最新のテクノロジーを使ってその解明を進めているのがグローバル・フィッシング・ウォッチ(Global Fishing Watch、GFW)をご紹介します。
GFWは洋上での船の行動の透明性を高めることで、各国が海をより適切に管理するため、Googleなどによって設立されました。世界各国の研究機関もデータ提供を行っており、日本からは水産教育・研究開発機構も参加しています。
しかし、広い海の上の船の動きをどうやって把握するのでしょうか。そこで活躍するのが、光学画像、夜間画像、レーダー画像といった最新技術です。GFWはこれらの技術を駆使し、IUU漁業を見つけ出します。
IUU漁業を見つける時のポイントは二つ。一つは漁法、もう一つは船の動きです。
漁法については、高精細な画像で船上の様子を把握し、登録されている漁法とは異なる漁法をしていないか推定します。
船の動きは船から発信される位置情報によって見分けています。船は位置を知らせるために、航行中はAIS(船舶自動識別装置, Automatic Identification System)*5とよばれるものを起動させることが義務付けられています。このAISの信号が突然切れる、排他的経済水域(EEZ)を超えて操業しているなど怪しい動きを把握することでIUU漁業をみつけだしています。
これらの技術を使い、GFWは2020年7月、中国船籍の漁船が2017年から2018年の間に、北朝鮮海域で、日本と韓国を合わせた漁獲量に相当する16万トン(約470億円相当)のスルメイカを漁獲していたことを突き止め、論文で発表しました。
著者のジョイフーン・パーク(Jaeyoon Park)氏によると、これは中国の遠洋漁業の約1/3の規模で、一国が他の国での海域で行う違法漁業としては過去最大だったそうです*6。
その後、2019年は過去2年間とほぼ同様の規模で行われ*7、2020年は新型コロナウイルスの感染拡大のためか操業数は減少しましたが*8、日本のスルメイカの漁獲量は2000年ごろから減少傾向にあり、2019年は2020年の15%ほどとなっています*9。
日本は国内で消費するイカの多くを輸入に頼っており、その最大の供給国は中国です。日本の漁業を脅かすIUU漁業で獲られたイカが日本市場に大量に入り込み、消費者が知らぬうちに消費している可能性が考えられます。
そこで、日本でもIUU漁業による水産物の市場への流入を防ぐため、2020年12月に「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」が定められました。この法律は指定された対象魚種を日本で流通させるには、国産においても輸入においても、その魚種が法律を守って獲られたことを証明する証明書をつけなければならない、とするものです。
水産庁ではまず、国産のものはアワビやナマコ、輸入水産物はスルメイカなどを対象候補として念頭におきながら、現在政省令作りが進められています。日本に拠点を持つ6つの市民組織によるプラットフォームであるIUU漁業対策フォーラムや、日本以外の東アジアを拠点にする複数のNGOなどが、水産庁のこの動きを歓迎すると共に、対象種を順次拡大してリスクのある全ての魚種を対象にすることなどを求める共同声明を出しています。
また、2021年2月には世界の大手水産民間企業150社超が所属する5つの国際主要組織が、IUU漁業の撲滅を目的とする水際対策の強化やトレーサビリティ体制の強化を求める声明も発表しました。
世界各国で公平な資源管理を行うためにも、こうしたテクノロジーを活用した漁業の可視化を進めることは喫緊の課題と言えるでしょう。
IUU漁業についてもっと詳しく知りたい方はこちら:「4つのステップでわかりやすく解説!!「IUU漁業」について知っていますか?」(GR Japan株式会社)
「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」についてもっと詳しく知りたい方はこちら:https://www.jfa.maff.go.jp/j/kakou/tekiseika.html(水産庁のページに飛びます)