世界全体の13-31%*1、日本の輸入水産物の24-36%*2を占めると言われているIUU(Illegal、 Unreported、 Unregulated、違法・無報告・無規制)漁業。IUU漁業は水産資源を枯渇させるだけではなく、近年は労働者を低賃金かつ低賃金かつ、不衛生で安全でない環境で働かせるなど人権面でも深刻な問題の温床にもなっていると指摘されています。また、法規制を守っている漁業者に対して経済的な損失を与えており、持続可能な水産業の発展を妨げるという側面もあります。
このIUU漁業を撲滅していくために、水産物の流通マーケットだけではなく、投資の力を活用しようという動きが生まれつつあります。イギリスの非営利金融シンクタンク、プラネット・トラッカー(Planet Tracker)は2021年12月、金融機関向けに水産企業のIUUリスクを見積もるためのツール「IUU漁業リスク検出ツールキット(IUU Fishing Detection Toolkit)(こちら)を発表しました。プラネット・トラッカーによると、IUU漁業の69%は商業漁業によるため、上場水産企業の評価を行う場合はIUUのリスク分析が重要としています。
なお、このツールは金融業界向けではありますが、水産企業はもちろん、流通小売、飲食業界の方々にとっても実際に扱っている水産物のIUU漁業情報やリスクを把握するために役立ちます。流通小売、飲食関連企業の方々にとっては具体的なサプライチェーンに対する調査を開始する前の準備として、調達先となる水産会社や水産物製品とIUU問題とのかかわりやリスクを広く知る機会にもなるでしょう。
たとえ、サプライチェーンを通じたものであっても、IUU漁業への関与は評判・調達リスクにもなることは、昨今の新疆ウイグル地区での人権問題に関連する繊維業界などの対応をみれば明らかです。企業が原料の調達や投資を通じたIUU漁業や人権問題への加担リスクを回避するためにはまずは、投資先、取引先の水産企業のIUU漁業リスク分析が重要です。
前置きが長くなりましたが、早速「IUU漁業リスク検出ツールキット」についてご紹介します。検出ツールはウェブサイトとして公開されており、だれでも無料で使うことができます。質問は全部で30項目程度(手続き的な質問を除く)。調べたい企業名を入れると、以下のような質問を聞かれます。
その会社は
IUU問題で非難をされたことがありますか
水産業に関係する犯罪で告発されたことがありますか
船上の奴隷労働や人身売買の申し立てはありますか
漁獲している魚種の報告について透明性が確保されていますか
漁獲量を報告していますか
IUUリスクの高い漁具を使用していますか
IUUリスクの高い国で漁業を行っていますか
漁業管理規格がない国で操業していますか
こうした質問に対し、ウェブサイトで調べたり、知っている情報をもとに答えていくと最後にIUUのリスクスコアが表示されるという仕組みです。わからない場合はパスすることもできます。
調べるための参考リンクも紹介されているのでどう回答したらいいかわからない場合もリンクを頼りに答えを探すことができます。最重要項目、さらに深く知りたい方のための項目に分かれているため、最低限知りたいレベルに止めておくことも可能です。
IUU漁業の撲滅はSDGs目標14のターゲットの一つでもあります。また、IUUへの関与はビジネス上のリスクでもあります。リスクの内容や程度を明らかにしながら、回避・低減していくための方策を実行することがSDGsの達成、企業のサステナビリティ向上につながります。
*1 Agnew et al. Estimating the Worldwide Extent of Illegal Fishing. PLoS One. 2009; 4(2): e4570.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0004570
*2 P. Ganapathiraju et al. Estimates of illegal and unreported seafood imports to Japan. Marine Policy. 2019.108: 103439.
https://doi.org/10.1016/j.marpol.2019.02.011