IUU漁業に歯止めをかけろ!IUU漁業規制と改善例

IUU漁業に歯止めをかけろ!IUU漁業規制と改善例

みなさん、防潮堤などのコンクリート塀に立てられた「密漁禁止」の看板を見たことはありませんか。日本でも、近年取り締まりが強化されている密漁。

これは世界でIUU漁業と呼ばれているものの一種です。IUUとは「Illegal, Unreported, Unregulated」の頭文字をとって作られた造語で、日本語では 「違法・無報告・無規制」を意味し、密漁は違法漁業に入ります。

IUU漁業は各国の水産資源の保全努力や、ルールを守って漁業を行う漁師の生活に大きな経済的損害を及ぼし、その損失は世界中で年間約100~230億ドル*1にもなると言われています。またIUU漁業の影には奴隷労働や人権問題など多くの問題が潜んでおり、直接的な関与はないものの奴隷労働に関わった商品を消費者に販売したとして訴訟が起きるなど、企業も目をつむってはいられない状況になっています。漁業の域を越えて、国際問題に発展するIUU漁業防止のためにどのような取り組みがなされているのでしょうか。

IUU漁業に対するEUの取り組み

水産物の輸入国として先陣を切ってIUU漁業対策を打ち出したのはEU。2010年にEU圏内、またEUへ輸出される水産物に対し、IUU漁業を規制する法律が施行されました。EUは世界一の水産輸入高を誇ります。輸入によりEU圏内にたどり着くIUU漁業由来の水産物の量もとりわけ多く、法律が施行される前の2005年には、IUU漁業による市場の損失は1億ユーロにも及んでいたと言われています*2

2010年に施行されたEUのIUU漁業規制はEU諸国の漁業政策の“3本の柱“の一つであり、三つの原則から成り立っています。

①漁獲証明書スキーム(Catch Certification Scheme)

EU圏内に水産物を輸出する場合は、漁船籍国が正当に漁獲された水産物であることを証明する書類を提出することが求められます。また各国は漁船管理を行っていることを証明するために「旗国通知」を提出しなければなりません。この「旗国通知」が受理された国が発行する漁獲証明書のみが有効とされます。2015年までにこの「旗国通知」がEUにより受理された国は90カ国を越え*2、EU圏内でも有数の輸入高を誇るドイツ、フランス、スペインでは年間40,000~60,000もの漁獲証明書が届きます*2。よって全ての水産物が証明書との照らし合わせや細かい検査をされるわけではなく、商業的に価値の高い魚種やIUU漁業が懸念される海域で漁獲された魚などを中心に抜き打ち検査が行われます。

②非協力的第三カ国(3rd Country Carding Process)

IUU 漁業を防止、抑止及び廃絶するための義務を果たさない国はEU諸国より「非協力的第三カ国」とみなされます。IUU漁業に対する国としての対策が重要視され、非協力的もしくは問題ありと判断されるとその国にはイエローカードが与えられ、公表されます。イエローカードを受けた多くの国は自国の水産業に対する信用を損なうことを防ぐため、規制の見直し、及び強化を行います。期限内に規制の見直しが適切に行われない場合はレッドカードとなり、EUへの輸出が禁じられます。どちらのカードも問題点や課題が改善された場合にはグリーンカードとなり、非協力的第三カ国のリストから除名されます。

③EU圏内での罰則(Penalties for EU Nationals and Operators)

EU圏内の国、もしくはビジネスが何らかの形でIUU漁業に加担した場合、厳しい罰則が課せられます。最大でIUU漁業に関連して得た儲けの5倍、再度摘発された場合は8倍と厳しい内容になっています*2

このIUU漁業規制はEU圏内だけでなく、EUへの輸出を大きな産業とする世界の国々にまで影響を与えました。IUU漁業に対する懸念が広がる中、消費者への積極的な情報開示や認証付き水産物の販売を拡大するなど、マーケット間でも販売する責任を重要視する動きが広まっています。

対応を迫られる輸出国

続いて、EUの厳しい規制への対応に追われる輸出国をクローズアップします。

IUU漁業規制の影響を受けた多くの国は発展途上の国々です。これらの国にとって水産物の輸出は重要な輸出産業であり、EUから「非協力的第三カ国」とみなされることは海外からの信用を失うこと、最悪の場合EUへの輸出が禁じられることとなり、経済へのダメージは計り知れません。2020年現在、EUによりイエローカードに指定されている国は8カ国、輸出禁止を意味するレッドカードの国はカンボジア、コモロ諸島、セントビンセント及びグレナディーン諸島の3カ国となっています*3。現在ではEUからの警告を受けている国は減少傾向にありますが、過去には多くの国が問題を指摘され対応を余儀なくされました。ここではその事例を紹介します。

ベリーズ

2012年11月イエローカード→2013年11月レッドカード→2014年12月グリーンカード(除名)*3

中央アメリカ北東部にあるベリーズは、旗国として自国の漁船の管理が機能しておらず、国際的な義務を守れていないとして2012年にイエローカードを受けました。国の船籍登録は民営化されており、悪質な事業者が厳しい管理を避けるためにベリーズを旗国として使用していたことがEUの調査で明らかになりました。その後さらに政府による対応が遅れ、2013年11月にEUへの輸出禁止を意味するレッドカードが与えられました。これを重く受け止めた政府は船籍登録を再度国有化し、IUU漁業に携わった漁船を取り除き、より厳格な規則を制定しました。結果、2014年12月に違法漁業国リストから除名されEUへの輸出が再開しています。

ガーナ

2013年11月イエローカード→2015年10月グリーンカード(除名)*3

西アフリカに位置するガーナは、年間1億2,800万ユーロ相当の水産物をEUへ輸出していたのですが、2013年にIUU漁業の抑制を怠っているとみなされ、イエローカードが与えられました。以降2年間、EU委員会の協力のもと強固な漁業管理計画を採用し法的枠組みの強化に取り組みました。また輸出される水産物のトレーサビリティー向上を目的とした委員会を立ち上げたことも評価され、2015年にグリーンカードとなりました。

タイ

2015年4月イエローカード→2019年1月グリーンカード(除名)*3

世界第三の水産輸出国であるタイは長年、IUU漁業のみならず人権問題についても欧米からの指摘を受けてきました。EUとタイはこれらの問題を改善するために2011年より断続的に協議を行ってきましたが、タイ政府の対応が不十分とみなされ、2015年にイエローカードとなりました*4

これを受け、タイ政府は28の港に厳重なチェック体制を設け、およそ25,500隻でバックグラウンドチェックを行い*5、漁業者には漁船の登録を求めるなど対策に乗り出しました。また違法漁業対策司令センターを設け、使用漁具の登録や船舶位置監視システム(VMS)の搭載を義務付ける新規制を策定しました。さらに、国際労働機関(ILO)漁業労働条約(第188号)に批准するなど、奴隷労働や人権問題にも真剣に取り組んできました。

タイのIUU漁業対策は行政だけでなく、輸入国のステークホルダーも多く関わっています。2014年、世界中の大手小売、卸業者、NGOなどが一体となり「Seafood Task Force」を結成、タイの水産サプライチェーンからIUU漁業や奴隷問題に関与した水産物を廃絶するための活動を始めました。この業界主導の活動ではトレーサビリティーの強化やFIP(漁業改善プロジェクト)などを通して、タイからの持続可能で安心安全な供給を確保することを目的としています。

これらの政府、業界によるタイ漁業の改善が評価され、2019年にグリーンカードとなりました。

韓国

2013年11月イエローカード→2015年4月グリーンカード(除名)*3

西アフリカ沖での洋上転載への加担や漁船を追跡するための機材の搭載を義務付けていない、などIUU漁業の規制に非協力的として韓国は2013年11月にイエローカードとなりました。これを受け、2014年にはIUU漁業に関する法律を強化、VMSの搭載義務、監視センターの設置、ログブック(漁業履歴)の電子化など漁船の情報を24時間モニタリングできる体制を整えました。また洋上転載やIUU漁業が懸念されていた西アフリカ沖のでの遠洋漁業に関しては漁業に関するライセンスが民間化されている国との取引を中止するなど、透明性の確保に取り組みました。この取り組みが評価され、2015年4月には違法漁業国予備軍のリストから除名されました*6

台湾

2015年10月イエローカード→2019年6月グリーンカード(除名)*3

違法なマグロ漁やフカヒレの輸送を摘発され、イエローカードとなった台湾。EUと台湾は2012年より断続的な協議の場を設けたにもかからわず、IUU漁業の規制に非協力的とみなされてしまいました。

これを受け、台湾は罰則を設けるなど規制の強化を行います。この新しい基準は2017年の1月から施行されており、台湾漁船の約80%に当たるすべての遠洋漁業船にVMSの搭載義務が課され、海上での動きを24時間監視するシステムを作りました*7。2017年3月にはフィリピンのEEZ圏内で違法な漁をしたとして台湾籍の漁船を摘発し罰金を課すなど、IUU漁業に対する、国としての厳しい姿勢を示してきました*8

他にも漁業に関する法律枠組みの改革、水産物のトレーサビリティー機能の改善など、漁業に対する取り組みが認められ、2019年にグリーンカードとなりました。

関係機関の連携が必至

世界中で水産物の需要が高まる中、IUU漁業や水産物を取り巻く人権問題に対する関心は高まりつつあります。水産物の持続可能で安心安全な供給は民間の活動とそれをバックアップする行政の規制が噛み合ってこそ成り立つものです。輸入大国であるEUやアメリカがリードをとり規制を策定し、その規制の影響を受ける輸出国や業界がNGOなどの専門機関の力を借り、バランスを取りながら対応していくことがIUU漁業撲滅への近道かもしれません。

 

*1 Illegal, Unreported and Unregulated (IUU) fishing
http://www.fao.org/iuu-fishing/en/

*2 The EU IUU Regulation Building on success EU progress in the global fight against illegal fishing.
https://ejfoundation.org/resources/downloads/IUU_report_01-02-16_web.pdf

*3 http://www.iuuwatch.eu/map-of-eu-carding-decisions/

*4The EU yellow card is a wake-up call before trade sanctions
https://www.scbeic.com/en/detail/product/1437

*5 THAILAND’S PROGRESS IN COMBATING IUU FISHING
https://www.thaiembassy.sg/announcements/thailand%E2%80%99s-progress-in-combating-iuu-fishing

*6 EU removes South Korea from list of those failing to combat pirate fishing
https://bit.ly/3iqYwLl

*7 EU red card threat moves Taiwan to act on fleet’s illegal fishing
https://bit.ly/33nUy1O

*8 FIRST TAIWANESE FISHING BOAT FINED BY NEW FISHERIES ACT
https://www.youtube.com/watch?v=H250BMp-Img

 

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