マグロ・カツオ類、MSC認証停止の危機をどう乗り越える?

マグロ・カツオ類、MSC認証停止の危機をどう乗り越える?

2021年11月29日から12月8日にかけて、WCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)の第18回年次会合が開催され、カツオは2022年12月まで、キハダマグロとメバチマグロは2024年まで漁獲方策の交渉が延期されることが決定しました。

この決定により、現在市場に流通しているマグロ・カツオのMSC認証製品数が、大幅に減少する可能性がでてきました(2022年2月25日時点)。いったい何が起きているのでしょうか?

 

なぜ議論は延期されたのか?

世界のカツオ、マグロ類資源は、海域や魚種ごとに5つの地域漁業管理機関(RFMOs)によって管理されており、それぞれの管轄する魚種を漁獲する沿岸国や遠洋漁業国がルールづくりに参加しています。その一つであるWCPFCは、日本の沿岸も含む中西部太平洋のマグロ、カツオ、カジキ類など、公海を超えて長距離移動する、高度回遊性魚類の資源を対象としています。

各RFMOは、資源が持続可能になるように管理するための枠組みである漁獲方策を年次会合で協議し、それに基づいて漁獲量、技術(禁漁区、禁漁期の設定)*1などの具体的な措置を決定し、加盟国による実施を管理しています。

この漁獲方策は、持続可能な資源管理の基盤ですが、スケジュール通りに合意に至ることが難しく、これまでもあまり議論が進展しませんでした。その主な原因は、事前の管理目標決めです。

漁獲方策はまず、事前に加盟国が合意するさまざまな管理目標(例:資源が枯渇状態にある場合は早期に回復させる)に基づいて、科学者がコンピュータでシナリオ(例:毎年の漁獲可能量)別に、気の遠くなるような回数シミュレーションし、その結果をもとにRFMO内で決定されます。しかし、使用するデータの信頼性や科学の不確実性、漁業の実態、水産業に関する政治的な背景*1にばらつきがあるため、管理目標が加盟国間でまとまりにくいのです。

 

世界最大のマグロ・カツオ類漁場でMSC認証停止の可能性

では、ここでMSC認証の原則について見てみましょう。

MSC認証は3つある原則が全て満たされていることで取得できますが、漁獲方策については原則1.2.1で、漁獲制御ルールについては原則1.2.2として以下のように定められています*2
・原則1.2.1 信頼性の高い、予防的な漁獲方策が講じられている
・原則1.2.2 明確に定義された、効果的な漁獲制御ルール(HCR)が存在する

つまり、WCPFCのような国際機関による漁獲方策が決まらなければ、その漁業現場の地域や国で適切に管理が行われていても原則1.2.1、1.2.2を満たせないことになり、認証の継続が難しくなってしまうのです。

MSC漁業認証を取得した中西部太平洋のカツオ、キハダマグロ、メバチマグロ漁業は、全てが2022年末までに漁獲方策と漁獲制御ルールが採択されることを条件に認証を受けています。今回の交渉延期の結果により、カツオなどの熱帯マグロ類でMSC漁業認証を取得した全ての漁業は、この条件をクリアできないことが決まり、認証の一時停止期限である2023年6月を迎える危険性が出てきました。認証の一時停止は、漁獲方策に関する条件がクリアされるまで継続されます。

 

もし認証停止になったら…?

認証が停止になった場合、日本だけでなく世界全体のマグロ・カツオ市場への影響は避けられません。

中西部太平洋は、世界のマグロ・カツオ類漁獲量の半分以上が漁獲される地域です*3。さらに、世界で漁獲されるマグロ・カツオ類の54%がMSC認証を取得しており*4、そのうち85%はこの地域で漁獲されています*3。特に、カツオは78%を占めています*4。さらに、MSC認証製品のマグロやカツオ製品の量は、過去5年間で4万トンから11万トンまで増加しています。

マーケット目線では一見不安定な事態に思われますが、こうした適切な措置をとることで、「持続可能性を担保する」というMSC認証の信頼が保たれ、認証つき製品を購入する企業や一般消費者はグリーンウオッシュから守られています。

しかし一方で、適切な認証制度の運用のためには漁業認証に直接関わる漁業者や各国代表団だけではなく、認証を取得したマグロ・カツオ類を扱う全ての企業が対応を余儀なくされます。例えばMSC認証、または認証取得を目指す「漁業改善プロジェクト(FIP)」を調達目標や調達方針に組み込む小売企業や流通企業は、認証が停止されれば、調達目標の達成が難しくなり、代替案を検討せざるを得なくなるでしょう。

日本においても、中西部太平洋でカツオ・マグロ漁業の認証を取得した漁業者や企業は、大きな岐路に立たされる可能性があります。

 

 

企業ができること

こうした事態に備えて企業ができることは、MSCプログラムの参加者として、その意見を明確にして声を挙げることです。
今回のWCPFCの会合では、マグロ・カツオ類の主要な消費地である日本の企業やNGOからも、漁獲方策の決定を求める要望書が提出されました。また、日本だけでなく、Walmart、Costcoなど世界の大手小売17社を含む112の企業やNGOからも、同内容の声明が発表されました。このように、世界中で持続可能なマグロ・カツオ類を調達したい多くのマーケットプレイヤーが認証継続を求める声を業界全体に広げていけば、国益を超えた国際的な要望として会合に声を届けられるのです。

また、もし認証が一時停止になったとしても、認証回復を求める動きを継続することが重要です。例えば、2019年3月、タイセイヨウサバ(ノルウェーサバ)のMSC認証が一時停止されましたが、日本生協連は、その回復に向けて海外の生協や企業と共同で「タイセイヨウサバの長期的持続可能性の保護に関する声明」を発表し、漁獲国や漁業者への働きかけを行っています*5

次の会合が開かれるのは2022年12月です。水産資源や水産業の真のサステナビリティのためにカツオ・マグロ類の恩恵に預かる全ての人々が団結することが求められています。

 

*1 平成28年度水産白書(水産庁、2016年)より
*2 MSC漁業認証規格 第2.01版(MSC、2018年)
*3 プレスリリース「中西部太平洋マグロ・カツオ類漁業のMSC漁業認証が継続の危機に」(MSCジャパン、2021年)
*4 Annual Report 2020-2021(MSC、2021年)
*5 コープのエシカル(日本生活協同組合連合会、2020年)