
2021年3月、宮城県・気仙沼でヨシキリザメとメカジキの延縄漁業を対象とする日本初の漁業改善プロジェクト(Fishery Improvemrnt Project、以下FIP)が始まりました。FIPは持続可能な漁業の実現に向けてMSC認証などを取得できるレベルにまで漁業を改善する国際的な取り組みです。
今回対象となるメカジキは知っていても、ヨシキリザメは聞いたことがない、という方が多いかもしれません。でも実は、おでんやおつまみに便利なはんぺん、そしてフカヒレスープの原料としても使われています。
宮城県・気仙沼はこのヨシキリザメの日本一の生産地で、世界的に見てもトップクラスの生産量を誇ります。しかも気仙沼は、世界でも有数の、昔から高度な利用加工を行っており、ひれはフカヒレに、肉ははんぺんなどの原材料に、中骨やサメ軟骨はサプリメントに、と余すところなく活用されています*1。
気仙沼はヨシキリザメだけではなく、メカジキの生産量も全国一位で、2019年には全国の約3,033トンのうちの73%にあたる約2,221トンが水揚げされています*2。
FIPは1種の魚種を対象とすることが多いのですが、この2種はどちらも主要な漁獲対象種で、表層に生育しているため同じ延縄漁業で漁獲されています。そのため、今回のFIPでは両方が対象となっています。
国内トップの生産量を誇る気仙沼のヨシキリザメ、メカジキ漁業ですが、2011年の東日本大震災により壊滅的な被害を受けました。特に、ヨシキリザメは加工会社が原料の入手が難しくなった間に別の原料に切り替えてしまったため、マーケットが縮小してしまいました*3。
さらに、かねてよりサメの延縄漁業による混獲は、国際的な課題として環境保全団体等から指摘されてきましたが、2010年代頃から特に、漁業者がサメのヒレだけ切りとって魚体は海に棄てる「シャークフィニング」が大きく取り沙汰されるようになり、世界的にシャークフィニングを禁止する措置が取られていきました。
また、フカヒレが高価格で取引されるため一部の延縄漁業が「混獲」という名の元で過剰に漁獲してきたこともあり、サメ58種のうち17種は、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストに記載されるほど資源が減少しています*4。例えばサメの一種、ヨゴレはこの60年で98%減少しており、国際的に保護すべきサメ種として扱われています*5。
しかし気仙沼では、ヨシキリザメを「混獲」ではなく、主要な漁獲対象とした漁業を行っており、主な漁場である北部太平洋に分布するものの資源状態は、枯渇状態でも過剰漁獲状態でもありません*6。さらに、ヒレを切り取らずに全ての魚体をそのまま水揚げすることで、フィニングが行われないよう管理されています。
また、メカジキもヨシキリザメ同様、北部太平洋のものの資源状態は、枯渇状態でも過剰漁獲状態でもありません*7。今回のFIPは、国際的にサメ資源の減少が危惧されている中でも気仙沼のヨシキリザメ・メカジキ漁は持続可能に行われていることを、MSC認証を取得することで国際的に示す挑戦的プロジェクトなのです。
少し時間はかかりますが、5年後には持続可能な漁業を行っていることを正々堂々と世界に示すことができるこのFIPを、メカジキやヨシキリザメを扱う企業、そして普段からはんぺんやメカジキなどを食べる日本全国の消費者で応援していきたいですね。
気仙沼ヨシキリザメ・メカジキ延縄FIPの詳細はこちら https://seafoodlegacy.com/project/kesennumafip_jp/