給食会社だからこそできるサステナブル・シーフードの橋渡し(後編)

給食会社だからこそできるサステナブル・シーフードの橋渡し(後編)

「“食”から日本の未来を支えます」というスローガンを掲げる給食事業者のエームサービスは、昨今の働き方改革や人材不足への対応、地球環境への配慮など、ニーズがより多様化・深化する現代社会において、自社の事業活動が及ぼす影響の大きさを認識の上、持続可能な社会に貢献していくために、2018年12月に「持続可能性に配慮した基本方針」を策定しました。
給食事業者として日本初のCoC認証取得以来、認証事務局としてエームサービス社内外へのSDGs促進・支援を行っている吉岡さんに、給食会社ならではのサステナブル・シーフード推進への思いを伺いました。

 

企業のネットワークでムーブメントを広げる努力

――  CoC認証を取得する事業者は以前よりも増えているのですか。

物流会社では、当社だけではなく量販店などからの要望も相まって、CoC認証を取得された企業もあると聞いています。

MSCASC認証商品の規格の要求事項として、CoC認証を取得している事業者からしか調達できないので、既存のサプライヤーで認証商品の取り扱いがあれば手配してもらっているところと、あとは、認証商品の情報発信をしている企業に当社からご相談申し上げて新たに取引をさせていただいたケースもあります。

 

―― 「社員食堂(以下、社食)でサステナブル・シーフードを導入している会社や導入を考えている会社が集まる企業ネットワークを立ち上げたい」というパナソニック(以下、パナ社)の喜納厚介さんの発言がありました。そういった動きは進んでいるのでしょうか。

喜納さんの発信力のおかげで、当社も4年間で数十件、「我が社の社食でもできないか」とか「CoC認証を取得したいのだが」といった問い合わせをいただいています。

当社としても、サステナブル・シーフード提供のように、社員食堂を通して利用者の意識や行動の変容につながる、環境配慮に関する取り組みは、現況の社会ニーズやクライアントニーズへの対応としても重要視すべき施策と捉えていますので、今後も継続していきます。

 

社員食堂は”食”を通じて社員の意識や行動の変容を促す場にもなっている。(写真提供:エームサービス)

 

最終的にはサステナブル・シーフードが当たり前になるように、前向きにやっていくしかありませんが、まだまだ認証商品の流通量が少ないという現実があり、川上から川下まで共通の課題ですので、幅広い企業のネットワークは有効だと個人的には考えております。

 

―― メーカーに対して社食向けのサステナブル・シーフードの食材をもっと増やしてほしいという要望を出すようなこともあるのですか。

要望を出させていただくこともありますが、製造ロットって「何トン」の世界なので、一つの魚種で言えば、当社の年間使用量ぐらいになってしまうんですよ。SDGsへの取り組みという社会環境側面だけでなく経済的側面も伴わないと、メーカー側としてはなかなか難しいのが現実です。

これに関しては、選んで買ってくれる人たちを増やしていくしかないと思いますね。量販店や生協で、エコラベルの商品をどんどん増やしている中で、一般消費者にどれだけ認知されているのか、知りたいところでもあります。

 

社食での発信が先か、消費者の認知が先か

―― 結局、一般消費者がエコラベルの付いた商品を選ぶようにならないと、社食でのサステナブル・シーフードの提供は、経済的側面が伴わないということでしょうか。

社食という空間で、利用者の意識や行動の変容を促すことには大きな意義を感じており、そのスタンスは変わりません。
ただ、社食で提供されているサステナブル・シーフードは、まだまだ少ないんです。だから、そこは“鶏が先か、卵が先か”ですよね。消費者に選んでもらって知ってもらって、じゃあ社食でもやろうということになるのか、社食で見たからスーパーでも選ぶのか。

でも、そこは発信の仕方で、水産資源の実情とか、なんでエコラベルが付いているものがサステナブルなのか?という本質を理解してもらう必要があるのかなと思います。

生産者の人たちと話していたときに、「吉岡さん、なんで今、遠洋漁業やってるか知ってる?」と聞かれたんです。「どうしてですか?」と言ったら、「近海で好きなもんを食べたいだけ食べて、要らないもんポイポイ捨てたら、魚がいなくなっちゃったんだよね」と昔の話になり、「だからさ、俺らはそれやってきたから、やっぱりエコラベルで適切な管理しなきゃいけないと思うんだよね」という今の思いを伺いました。

一方で、「ところで、MSCとMEL(※)ってどっちが儲かるの?」と聞かれたりもします。環境のこともわかるけど、ビジネスもやらなきゃということです。

結局、事業継続しながら水産資源も管理していく、そのバランスの難しさ。いくら我々が水産資源の実情を知って、給食会社としてサステナブル・シーフードの活動を進めても、買ってくれる人たちの認識のギャップを埋めていかないと選んでもらえない。「これだけ魚を食べる国なのに」という話になると思うんですけどね。
 

(※)日本発の水産エコラベル認証制度マリン・エコラベル・ジャパンの略称。

 

サステナブル・シーフードの選択肢を増やす

―― 社食で提供するサステナブル・シーフードは、エコラベルが付いた認証商品でなければいけないのでしょうか。

MSC・ASCといったグローバルな認証のサステナブル・シーフードを選んでもらえる企業に対しては、選択肢の一つとして用意させていただいているのですが、そのほかに、BAPのようにエンドユーザーが契約を結ぶだけで、全拠点で使用できるエコラベルもあります。

日本だけに目を向けると、パナ社は福島の復興支援プロジェクトとして、福島の水産物の提供を始めました。「住み続けられるまちづくりを」というSDGs目標11の課題解決につながり、これも、サステナビリティへの貢献です。

 

2022年1月より、エームサービスは、パナ社が取り組む、福島県の農畜水産品の提供を、受託運営する同社本社(大阪門真市)と大阪ビジネスパーク(大阪市中央区)拠点の社員食堂で開始した。(写真提供:パナソニック)

 

今までは、MSC・ASC認証商品については認証運用でコストが発生するということで、提供を断念された企業もありました。せっかくの思いがそこで途絶えてしまうわけです。

これからは認証商品に限らず、サステナブル・シーフードの提供につなげられるように、お客様の選択肢を整備することが一つの課題だと思っています。

 

―― コロナ禍の影響で企業の社食の今後はまだ見えない部分がありますが、一方で、学校や病院の給食事業はいかがでしょうか。

学校は、MSC・ASC認証商品というよりは地場の経済を応援する“地産地消”の提案を求められることが多いですね。実はそれがSDGsの取り組みであるという側面の影響評価をしてストーリーを考えていくといったことも進めていかなければと思っています。

 

エームサービスは学生食堂の受託運営も手がけている。(写真提供:エームサービス)

 

病院の場合、企業系の社食と違って、カロリーや栄養成分など全部のメニューが事前に決まっているので、それに合う規格の食材が求められ、さらにハードルが高くなりますが、実際、病院系のクライアントからも、MSC・ASCの認証商品のお問い合わせを何件も受けています。

「一度試してみたい」と言われた時に、「じゃあCoC認証の取得を」という話になると、ちょっとそれはハードルが高いですよね。その辺はMSCに何度かお話しています。「クライアントに実際に試してもらう上で認証制度がネックになってるから、何かいいやり方を考えて欲しい」と。

 

産地と社食の思いを橋渡ししてカタチにする

―― 吉岡さんご自身がサステナブル・シーフードに関心を持つようになられたのは、仕事を通してですか。

私は、学生時代はバイオテクノロジー専攻でした。前職で米の品質管理の経験があったので、食品全般の品質管理は面白そうだと思ってエームサービスに入社し、その時点ではサステナビリティに関心があったわけではありません。
きっかけは、CoC認証を取ってパナ社の喜納さんと出会ったことですね。パワーも知識量もすごい人で、まともにお話できるようになるために、こちらとしてもずいぶん勉強しました。本当に鍛えていただいたと言うか、喜納さんの熱意を感じるとこちらも頑張らなきゃっていう気持ちになりますからね。

 

―― 給食会社でのご自身の仕事で、やりがいを感じておられるところをお聞かせください。

やはり、食材の生産者と提供して使う側と選んでもらう側が同じベクトルを向く必要があって、そこで初めてビジネスとして成り立つのかなと思っているので、その橋渡しができるべきだろうなと思っています。

たとえば、宮城の戸倉のカキですね。パナ社が東日本大震災の復興支援していた養殖のカキがASC認証を取得しました。CoC認証を取っている企業さんと当社で「やりましょうか」ということになり、当社の既存のお取り引き先もCoC認証を取得して、社食でカキフライを提供できたのです。パナ社の社員さんたちに食べてもらった時、良いサイクルとして成り立ったなという実感がありました。

 

日本で初めてASC認証を取得した宮城県漁業協同組合志津川支所の戸倉出張所が手掛ける養殖のカキを使った「戸倉っこカキフライ」をパナ社の社食で提供した時のポスター(写真提供:パナソニック)

 

当社は拠点が全国にあり自治体とのお付き合いもあるので、認証商品に限らず、社会・環境課題解決につながる食材についても、こちらから積極的に取り組んでいく必要があるのかなと。

社食が情報発信の場として有用だと思う中で、何ができるかを考えて、形にして、何らかの反応をいただけたときに、「あ!ほかの人たちも興味持ってくれたんだな。やってよかったな」と思えます。

生産者や産地の人たちの思いが利用者の人たちにつながること、そして、それがビジネスとして形になること、この二つがやりがいですね。

 

 

吉岡 正登 (よしおか まさと)
1977年京都府生まれ。大学では生化学を専攻。食品商社での勤務を経てエームサービス株式会社に入社。同社では品質管理および食材の購買業務に従事し、MSC・ASC・CoC認証に係る取り組みを推進。2018年に給食事業者として初めてとなる認証を取得。現在は環境マネジメント室に所属し、認証事務局として社内外へのSDGs促進・支援を行っている。

 

取材・執筆:井内千穂
中小企業金融公庫(現・日本政策金融公庫)、英字新聞社ジャパンタイムズ勤務を経て、2016年よりフリーランス。2016年〜2019年、法政大学「英字新聞制作企画」講師。主に文化と技術に関する記事を英語と日本語で執筆。

 

 

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