漁師たちが県を超えてつながった 一本釣りの生カツオを持続可能に(後編)

(前編から)昔からある近海カツオ一本釣り。日本の食を支える伝統文化としての誇りを持って活動していますが、漁船の数は最盛期から大幅に減っています。環境にやさしく品質の高い魚を獲れる漁法を将来につなぐために、県を越えての連携が生まれました。(前編を読む)

 

認証取得のハードル

──今回MSC認証を取得された中で、最大のハードルは何でしたか?

中田 僕らとして大変だったのは、仲間にMSCをわかってもらうことです。「MSCって何だ?もうかるんか?」と聞かれて「もうからないかもしれないけど、将来のためにはやらなければ」という説明をしても、なかなかわかってもらえません。

先ほどのお話のように、近海カツオ一本釣り船が全船、MSCの予備審査に合格しても、費用面などの問題もあり、全員が本審査を受けたいと希望したわけではありませんでした。新しいことに挑戦するにはリスクもありますし、お金もかかるから、勇気もいります。そんな状況でも南郷漁協さんに協力して頂きました。何より、若い船主さんたちの声に押されてやったようなものです。私も「中田さん、これをやらんといかんですよ」と若手から言われました。

僕らもMSCのことをすべて理解しているわけではありません。MSCも、僕ら漁師にもわかりやすく、現場に伝わるようにしてほしい。それに認証魚を流通させるには、仲買人さんの理解も必要です。

──難しいですね。関係者が多くて、なかなか同じ理解や温度感にはならない……。

中田 難しいです。お金のこともやはり大きい。今までMSCを真っ先に取れていたのは、主にもうかっているところじゃないでしょうか。我々はギリギリでやっている船主さんばかりなので、厳しいです。

グループでの認証取得が力になる

──今回は連帯することで、一人あたりの負荷を減らす効果があったとのお話もありました。

鈴木 そう思います。今回も本審査に一千万かかっていますが、1隻の船でその額はとても払えません。グループになることで1隻あたり数十万まで下げられた。2桁の違いは大きいと思います。本当はもっと多くの船が参加できれば、もっと下げられたのですが……今後はもっと船の数を増やしていきたいと思います。

中田 私も今後は、近海カツオ一本釣り船をやっている三重県、静岡県、それと高知県と宮崎県でもまだ参加していない船を含めて、全船を誘っていきたいと思っています。近海カツオ一本釣り船全船がMSCを取得するようになったら。CoC認証を取得する流通関係者も増えてくると期待しています。

江藤 僕としては、MSC生カツオの魚価が少しでも上がってほしいですね。そうすれば自分の周りの人にも呼びかけられるし、もっと参加してくれると思います。

 

今回、参加した船は全18隻。それぞれの船で操業するので、県を越えて互いに顔を合わせることは少ない。入港した船頭さんに、MSCのパネルを掲げてもらって撮影した記念写真は、18隻中10隻まで揃った

 

漁船から消費者まで、とぎれなく届けるために

中田 MSCの漁業認証を取るのはいいけど、流通も問題なんです。漁業だけが認証を取っても、認証のついた魚を流通することはできません。今回は鈴木さんが、仲買人のところへもずいぶん足を運んでくれましたが……。

鈴木 そうなんです。消費者に届くまでに関わる全員が認証(CoC認証※)を取らないと、MSC認証のマークをつけて販売できません。今回、新たにCoC認証を取ってくれたレストランもありますが、直接消費者と接するスーパーやレストランが認証を取ってくれても、その手前の流通が取っていないのでチェーンがつながらない……という状態が、6月にMSC認証を取ってからずっと続いていました。

それがやっと、今月つながったんです! 気仙沼の仲買で大手が数社、CoC認証を取ってくれました。まだ全体に対する割合は少ないけれど、それなりのボリュームです。

今回は「コラボレーション部門」でアワードをいただきましたが、本当のコラボレーションはこれからです。アワードであちこちの記事にも載せてもらって、知名度も上がってきました。これから漁業と仲買のコラボレーション、そしてレストランやスーパーにも、パートナーを増やしていくのが次のステップです。
 
 

※CoC認証は、製造・加工・流通のすべての過程で、水産物が適切に管理され、非認証原料が混入したり、ラベルが偽装されたりしていないことを担保する。流通の途中にCoC認証のない事業者が入ると、それ以降は認証製品として扱えなくなる

 

一本釣りとカツオの文化にスポットを

──次のステップでも、いろいろと取り組むことがありますね。

鈴木 流通のパートナーもですが、消費者とのつながりもこれからです。サステナブルな漁業であるということだけでなく、カツオの一本釣りの実際の姿を伝えたい。

現状では「高知や宮崎の一本釣りのカツオ」と言っても、一般の消費者にはピンと来ないんですよ。なぜかというとスーパーの刺身カツオは、水揚港が勝浦なら「千葉産」、気仙沼なら「宮城産」と表示されるからです。

「土佐の一本釣り」は知られているけど、それが店頭のお刺身と結びつかないんです。千葉や宮城は水揚港で「実は高知や宮崎の船が、黒潮に乗ったカツオを追って、船で寝泊まりしながら釣っている」とわかれば「すごい!」と思うけど、現状ではそのストーリーが見えない。

カツオって、刺身だけでなく鰹節の原料でもあり、お出汁のもとで、和食の根幹だと思います。カツオが獲れなくなったら──漁師さんがいなくなっても、カツオがいなくなっても──日本人の食生活が変わってしまいます。

 

季節を伝える刺身から、日本食の要となる鰹節まで、カツオは日本の食を支えてきた

 

普通に食べる魚を、サステナブル認証品に

──これをきっかけに、MSC自体のイメージも変わりそうに思えます。

鈴木 そう、MSC認証がもっと身近になるかもしれませんよね。今までは持続可能な水産品、国際認証のあるものを選ぼうと思ったら、どうしても海外の魚ばかりになってしまう、と言われていました。今回は、昔からある日本の漁業でもMSCを取れるんだ、という例を示すことができました。

中田 今は少し減っていますが、以前は鮮魚として売られるカツオの8~9割が近海一本釣りでした。これをきっかけに生のカツオがどんどんMSCを取得していけたら、その量はすごい。そこが今までのMSC認証品とは違うと思います。日本全国で普通に食卓に上っているカツオにMSCがつく、ということです。普通に食べているものに、持続可能だとわかる認証のマークがついていく、これはその第一歩です。

 

 

近海かつお一本釣り漁業国際認証取得準備協議会
高知かつお漁協(高知県)所属の6隻と南郷漁協(宮崎県)所属の12隻、計18隻の近海かつお一本釣り漁船によって、2019年11月に発足。2020年7月よりMSCの本審査を受け、2021年6月にMSC認証取得。

 

取材・執筆:井原 恵子
総合デザイン事務所等にて、2002年までデザインリサーチおよびコンセプトスタディを担当。2008年よりinfield designにてデザインリサーチにたずさわり、またフリーランスでデザイン関連の記事執筆、翻訳を手がける。

 

 

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