シリーズ:チャンピオンに聞くサステナブル・シーフード普及への道- トレーサビリティーシステム構築プロジェクト後編

シリーズ:チャンピオンに聞くサステナブル・シーフード普及への道- トレーサビリティーシステム構築プロジェクト後編

第1回ジャパン・サステナブルシーフード・アワードのコラボレーション部門の初代チャンピオンとなった「「日本初の次世代トレーサビリティーシステム構築プロジェクト」は、テクノロジーを活用したサステナブルな漁業への新しい形を示しました。プロジェクトを牽引している、海光物産の代表取締役社長、大野和彦さんとライトハウスの代表取締役CEOの新藤克貴さんに漁業現場の今やプロジェクトの今後についてお伺いします。

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変わる漁業現場の意識

花岡:漁業現場にいらっしゃる大野さんにお伺いしたいのですが、テクノロジーを使うことに対してどうしてもまだ一歩を踏み出せない、新しいことをなかなか行えない漁師の方も多いかと思います。そういう状況は現場では変わってきているのでしょうか?

大野:別の漁協の方に私たちが漁業者の立場として自分たちの取り組みを話すと身構えられてしまいますが、新藤さん達のようなIoTの技術を持った方々から実装事例を紹介していただくと、イメージが湧いてIoTに対するハードルが下がるように感じます。一緒にできることが良いことなんだと思います。

例えば他の船橋の底引き網の漁業者さんたちが獲った魚は一旦海光物産に預けられますが、自分の魚がこの先どこでどういう人が買って、どういう所で消費されていのかは必ず興味を持ちます。届けた先で自分の魚を「美味しかったね」と言ってくれることは漁師冥利に尽きますし、これほどのことはありません。みなさんのトレーサビリティに対する感覚がこのプロジェクトをきっかけに少しずつ目覚めてきていると思います。

花岡:ありがとうございます。新藤さんにお伺いしたいのですが、営業先として漁業者コミュニティは他のセクターと比べて一見アプローチが難しいのではないかと思うのですがいかがでしょうか?他と比べて可能性に溢れているセクターだと感じることはありますか?

新藤:営業については最初は手探りでしたが、大野さんのような仲の良い漁業者さんやお客さまからご紹介いただいたことで徐々に導入件数も増えていきました。実際、今新規で使っていただいているお客さまの8割以上がご紹介によるものです。要望や使い心地をストレートにフィードバックしてくれる方が多いので製品改善も非常にしやすいですし、海外輸出の将来性もあるのでポテンシャルが高いと思っています。

 


ISANAで大傳丸の漁獲記録が一目でわかるように

トレーサビリティの強化と資源評価の低コストを目指す

花岡:プロジェクトのこれからの展開についてはどのようにお考えですか?

大野:アワードの受賞をきっかけに日本IBMさんからコンタクトいただき、ブロックチェーンシステム「IBM Food Food Trust」を活用したプロジェクトが始まりました。これをきっかけに今回のコロナも踏まえ、非対面型のビジネスモデルへの転換を目指していきたいと思っています。漁業現場では新藤さんたちの漁獲データ入力システムを使い、その先の漁港での水揚げ、加工、出荷、料理店、料理レシピのデータも総合監視の基につないでいきたいです。

花岡:ブロックチェーンを使ったトレーサビリティで「海から食卓へ」という意識を保全やサステナビリティにもつないでいくということですね。素晴らしいですね、ありがとうございます。
新藤さんからもお願いします。

新藤:IBM Food Trustのブロックチェーンの仕組みを活用して漁業現場のトレーサビリティをより社会実装に近づけていくことを目指しています。

そのほかには漁獲データを活用して資源評価やその海域でFIPをするための現状把握や簡易診断ツール、例えば今までの漁獲の操業記録データから大まかな資源評価ができるような仕組みを作ってきたいと思っています。テクノロジーを活用して資源評価にかかるコストや手間を簡易化してより低コスト化できるようにしていければいいなと思っています。

漁業現場で活用されるISANA

想像力と行動力、まずは現場へ

花岡:今回のようなプロジェクトを始める、広げる上では何が重要だと思いますか?

大野:やはり想像力とか行動力です。漁業の現状、魚が小さくなったことの原因を悶々と考えているだけでなく、これから自分たちの海、世界中の共有財産と捉えて将来どうしていきたいのか、あるべき理想の海の姿を特に海で働く者たちに本気で考えてもらいたいですね。

一人では何も動かすことができませんが、まずはやってみることが大事だと思います。自分が正しいことをみなさんが認めてくだされば、必ず賛同したり自分もやってみよう、という方も出てきます。まずは発信したり想像して行動してみる。してみたいことをやってみることじゃないかと思います。

新藤:大野さんのような課題意識を持つ現場の方と私たちのようなテクノロジーを持っているエンジニアやベンチャーがいかにコラボレーションできるかが大きなポイントかと思っています。ひたすら現場に行って漁師さんと話しながら物を作っていくこと。私たちのサービスもそのようにして段々作られてきました。

水産業のテクノロジーはまだバリエーションが少なくIoTを使った工夫ができる余地がまだ沢山あります。興味があればどんどん参入してやってみた方が良いと思います。

花岡:水産庁もスマート水産事業でIoTの導入を進めていますし、漁業とIoTのコラボレーションは今後更に広がりそうですね。最後に、今年のアワードへのエントリーを考えている方々、これから活動を加速させていこうとされている方々に対してメッセージをお願いします。

大野:自分達が取り組むこと、これからこういう風にして行きたいということが少し形になったら、こういったアワードに応募したり、皆さんの前で発表すると良いと思います。どんどん仲間が増えてきます。私も2連覇達成を目指しているので皆さんがライバルです(笑)。

新藤:サステナビリティは基本的に人類の寿命を超えた超長期的な地球規模での便益を目指すものですが、それは人間のモチベーションに依存すると実現が難しい。ですがそういう時にテクノロジーを使えば人類の寿命やモチベーションに制限されずにワークできるような仕組みが作れると思うんです。

そう言った意味でサステナビリティを実現するのであればテクノロジーは絶対必要ですし、そういったテクノロジーを持った方が参入することでサステナビリティを実現できるような仕組みが作られればと思っています。もし今後水産に関係ない方が参入する場合は私たちもサポートするので是非取り組みを始めてみてもらえると嬉しいです。

花岡:心強いですね、ありがとうございます。お二人とも本日は貴重なお話ありがとうございました。

 

*本記事は株式会社シーフードレガシーのブログより転載されたものです。