Seafood Summit 2019 参加レポート-7 コラボレーションで実現するサステナビリティ

Seafood Summit 2019 参加レポート-7 コラボレーションで実現するサステナビリティ

水産業は世界中で約6,000万人の人々が従事し、年間3,620億米ドル相当の価値を生み出しているとされています。さらに世界銀行は、漁業が持続可能な方法で管理された場合、毎年さらに830億米ドルの価値が生まれていくとも試算されています。つまり、水産業の持続可能性は経済的にな有益性をもつのです。
経済と持続可能性は表裏一体です。今、その持続可能性をコラボレーションによって実現しようとする機運が高まっています。

サステナビリティは新たな機会を創出する
ESG (Environmental, Social, and Governance)投資額は2018年時点で世界全体で30兆6,830億米ドル、日本でも2016年時点では4,740億米ドルから2018年にはその約4.6倍の2兆1,800億米ドル*1 にまで急速に拡大しています。その中でも海洋環境の保全や持続可能な漁業の支援など投資目的を特定して発行される債券「ブルーボンド」の注目が高まりつつあります。近年投資家の間ではグリーンボンドと並び、従来の投資よりも需要が高まっており、世界屈指の水産加工会社であるThai Unionもブルーボンドに興味を示しています。

WWF USのシニアプログラムマネージャーのLucy Holmes氏も、リスクを正しく理解すればサステナビリティは機会になるとし、ブルーボンドの可能性に期待を寄せました。さらに、企業ができるリスク対策として水産物認証と漁業・養殖漁業改善プロジェクト(FIP/AIP)により生産された製品の調達やその支援・参加、川下から川上までのトレーサビリティの確立、ガバナンスに対する適切な提言などを挙げました。
サステナビリティへの投資はリスクが低くリターンも少ないため、取引を活発化させるためには今後金融業界との密なコラボレーションが求められるようになるかもしれません。

業界、多国間でのコラボレーション
異業種だけでなく多国間でのコラボレーションも生まれています。インドネシア、ミャンマー、タイ、フィリピン、ベトナムではアジアの水産業界における環境、社会、そしてトレーサビリティの問題解決を行うための協働プラットフォーム、Asian Seafood Improvement Collaborative (ASIC)が立ち上がりました。この組織は生産者団体、加工業者、環境NGO、地域の認証団体から構成されており、販売先も確保されているため小規模生産者が参加しやすいような体制が取られています。水産物の持続可能性を示す一つの方法であるレーティングの中で特に知られているのがSeafood Watchですが、ASICはこれを下敷きに小規模漁業者にも対応した形で独自のプロトコルを策定しています。Seafood Watchは小売企業やレストランなどで持続可能な水産物を調達する目安として主にアメリカでよく知られているため、ASICの基準で「持続可能」と認められれば*アメリカなどでの販路拡大が期待されます。しかしタイにある1万以上のエビの養殖場のほとんどはASICの基準を満たしていません。ASICへの参加、あるいは持続可能な養殖漁業を行うモチベーションとなるインセンティブを生み出すには、消費者やシェフが持続可能な水産物を求める割合が比較的高い欧米への輸出に頼らず、自国での購買力を高めることが必要です。仮に生産力が弱く巨大なニーズに追いつかない場合は川上と川下だけではなくその中間である輸出入業者も一緒にサプライチェーン全体を強化していく必要があります。

エビの消費量世界第5位*2 である日本はこの中間と川下を担っています。前回ブログでもご紹介したJCCUのように独自で支援を行ったり、ASICの支援を行ったりなど様々な形で協力できる可能性があるかもしれません。また、このセッションのスピーカーからは、行政からの支援も必要であり、ASICのようなプラットフォームにより連携することはほとんどない漁業者同士のつながりが生まれ、行政との対話もしやすくなったということです。議論のための場としてのこうしたプラットフォームの形成支援ももしかしたら一つの支援の形なのかもしれません。

コラボレーションの秘訣
では効果的にコラボレーションをするにはどうすべきなのでしょう?
特に、今回のブログやサミットでも多く紹介された全く性質の違う企業とのNGOとのコラボレーションは一見困難なように見えます。しかし、NGOでも問題提起型、企業支援型など様々なスタイルや文化があるため、まずは互いに期待することを対話によって見出すことが違いが歩みよる一歩となります。そしていざ協働が始まったら、企業はNGOを「critical friend(批評家的な友人)」と見て積極的に課題を話し、NGOがそれに対し率直なフィードバックをする、そして企業はその後の改善の結果ではなくプロセスをNGOと話してまた方向性を決める・・というように並走していけるような関係が理想的です。実際に水産物の調達改善のためにNGOとコラボレーションしたウォルマートのTrevyr Lester氏は、コラボレーションにより取り組みの優先順位を適切に定め、課題達成に集中できるようになった、また異なる視点を得られたことでより正しい方向に進めるようになったと話しました。

ではNGO側はどうすべきなのでしょう?同氏は透明性の確保が大切だと語っています。つまり、実際の改善のための取り組みにすべきこと、かかる時間を明確に示すことです。そうすることで企業側も無駄なく内部のキャパシティを確保できるようになり、顧客に対して計画的に改善経過や結果を伝えられるようになります。
異なる立場が理解し合うのには時間がかかるかもしれません。しかし、異なる立場同士が協働するkらこそ独創的なアイデアが生まれ、これまでなかった手法が生み出せるようになるかもしれません。NGOと企業という組み合わせ以外にも、生産者とNGO、生産者とビジネスなど水産業界には様々なステークホルダーが存在します。
日本の水産業界は縦割りが強く、またサプライチェーンも既存取引先との関係が強固に作り上げられています。サステナブル・シーフードという比較的新しいジャンルを新たに商品として流通させるには既存の取引先が協力して少しずつでもニーズを作っていく、そしてそこに生産者、そして消費者を巻き込んでいくことで横串を通すのが今の日本のビジネスの形態でできることかもしれません。消費者が欲しい時にサステナブルな商品を買えるような環境を作り出すことが業界がサステナブルになっていく、地味かもしれませんが確実な手法なのではないでしょうか。

*ASICの基準は緑、黄色、グレーより構成される。緑は生息地や生態系への影響が少ない手法で漁獲・養殖されており適切な管理がなされている。黄色は買っても良いが漁法や養殖手法に要注意、灰色はまずは黄色を目指す段階を示す。
*1 2018 Global Sustainable Investment Review (Global Sustainable Investment Alliance, 2018)
http://www.gsi-alliance.org/wp-content/uploads/2019/03/GSIR_Review2018.3.28.pdf?utm_source=The+IIG+Community&utm_campaign=60a39c9e1c-EMAIL_CAMPAIGN_11_30_2018_11_56_COPY_01&utm_medium=email&utm_term=0_4b03177e81-60a39c9e1c-71997937
*2 http://www.fao.org/3/ca4185en/ca4185en.pdf

 

(文:山岡未季)