持続可能な調達が社会的に求められ、企業は自社のサプライチェーンを見直し始めています。そこで、環境社会的配慮を深めつつ持続可能な資源利用と認証エコラベルを活用したビジネスのあり方について考察するため、講座「サステナブル・ラベル認証講座」が一般社団法人日本サステナブル・ラベル協会(JSL)によりオンライン開催されました。
4月22日は第1回ということで「SDGs と持続可能な調達、認証をどう選択するか~ 導入編」をテーマとしました(共催:公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)、株式会社シーフードレガシー)。今回のブログはウェビナーのダイジェストをお送りします。
ポテトチップスを食べるとオランウータンの個体数が減る。このように今、私たちの普段の生活からは見えない場所で生物多様性が急速に失われています。陸では例えばパーム油生産のために熱帯雨林が、海では天然漁業生産量が減少しており、地球の生産力は1970年代から限界を超え続けています。
こうした事態に歯止めをかけるために進められているのが持続可能な水産業です。持続可能な水産業は管理する規則や仕組みをもち順守していなければなりませんが、ここで注意しなければならないのはその規則や仕組みが科学的な情報に基づいて策定されたものかどうかです。水産エコラベルの認証制度では科学的な根拠に基づいて審査を行うため、その点が保証されているだけでなく審査のプロセスも公開されているため透明性も確保されています。また、サプライチェーンのトレーサビリティも確立されています。このように、認証は事業者や消費者が環境、社会上のリスクを知る手がかりとなります。
世界には衣食住に関わる様々な認証がありますが、どの認証も持続可能な責任ある調達、サプライチェーンにおける環境社会的配慮、また経済や管理システム等ガバナンスのバランスが取れているかどうかが重要となり、サプライチェーン全体がつながることで初めて機能します。認証取得のための審査は第三者機関により行われますが、この第三者機関もASI(Accreditation Services International)という認定機関により認定されなければ審査が行えません。審査組織だけでなく認証を運営するスキームオーナーも認証の根拠を国際的なベンチマークやガイドライン等と照合し、透明性・信頼性を確保しつつ常にブラッシュアップすることが求められています。
こうした認証は、SDGsの目標、特に12番(つくる責任 つかう責任)やそれ以外の複数の目標とも深く関わっています。
イオンは小売業者として消費者向けイベントや販促活動などを展開していますが、調達方針についても取り組みを進めています。
2014年2月には「イオン持続可能な調達原則」を策定し、自然資源の違法な取引・採取・漁獲の排除や生物多様性保全などに関する目標を設定しました。その後2017年には、より定量的な目標を盛り込んだ「持続可能な2020年目標」を設定しました。水産物については「2020年までにイオン(株)連結対象の総合スーパーやスーパーマーケット企業でMSC、ASCの流通・加工認証(CoC)を100%取得」、「主要な全魚種で持続可能な裏付けのあるプライベートブランドを提供」、「MSC、ASC認証比率20%以上とする」ことを掲げ日々奮闘しています。全世界に店舗を展開するイオンにとって取り扱う認証は世界基準でなければなりませんが、その過程で問題が多々発生します。その対策として認証取得者向け研修などの内部支援や、日本特有の課題などをスキームオーナーに報告し、解決策を提案するなど積極的に関係機関へのインプットを行っています。
水産エコラベル認証制度は、1990年代に世界中の海で横行していた無秩序で無責任な漁業を改善するために1995年に国連が採択した、FAOの「責任ある漁業の行動規範」をきっかけに始まりました。しかしこの行動規範には法的拘束力がなかったため、流通している水産物が本当に適切に漁獲されたものかどうかは判断できませんでした。そこでサプライチェーンの透明性、信頼性を確保するためにWWFとユニリーバが設立したのがMSCでした。(1999年に独立)
その後水産エコラベル認証が乱立したため、その認証が生態系や資源の持続性に配慮しているかを判断するため2005年にFAOは「海洋漁業からの漁獲物と水産物のエコラベルのためのガイドライン」(2009年改訂)を、2011年には「養殖認証に関する技術的ガイドライン」を策定し、これが今日の認証制度を形作るものとなりました。
現在、SDGsの達成やESG投資・経営への関心、そして増え続ける人口に対する食料確保の必要性もあり、特に欧米では水産物の調達改善が進んでいます。調達改善のポイントは目的の明確化です。目的が明確になれば自ずとそれを達成するのに適した認証も見えてきますし、目標数値と時間軸も設定しやすくなります。目標をスムーズに達成するには事業計画に上手く組み込み、認証団体やステークホルダーと対話しながら進めていくと良いでしょう。
パーム油は食品、化粧品などに広く用いられています。しかしその最大生産国であるインドネシアではこの30年間で自然林の55%がパーム油、紙、パルプなどの原料生産を目的としたプランテーション開発のために消失しています。パーム油を生産するためにはその原料であるアブラヤシを植林しなければなりませんが、そのために天然林や炭素を多く含む泥炭湿地林の伐採や人為的な火災も多発しています。それにより生物多様性が失われ、燃焼により発生する温室効果ガス(GHG)で地球温暖化が助長され、煙害(ヘイズ)も起こります。また、農園で人権労働問題も多く指摘されています。
これらの問題は生産国側にのみ原因があるのではなく、近年ではそれを使う消費国側にも責任が問われ、日本企業もコミットメントやガイドラインを策定し公開するようになってきましたが、今後はより多くの企業による積極的な方針策定・情報公開が求められます。
この後、スピーカーによるパネルディスカッションと質疑応答が行われました。
実際に調達方針を策定しているイオンの椛島氏は、最終目標は色々な組織からのインプットと実現可能性のバランスを見て策定したが、バックキャストの考え方で毎年調整、議論しながら進めていると話しました。
また、パーム油を他の油に切り替えた時のリスクは?という質問に対し、南氏はパーム油は他の油の原料植物(セイヨウアブラナ、大豆など)と比べると単位面積当たりの生産効率が良いため、他原料に切り替えるとより多くの土地が必要となり森林破壊に繋がり得ると指摘。使わないのではなく持続的に利用する考え方を話しました。
認証取得製品は環境への不可が全くないことを示すものではありませんし、改訂や追加などがあり変化していくものです。したがって、調達方針も決めたら終わりではなく、選ぶ認証を賢く組み合わせ、その認証の変化にも柔軟に対応することがポイントとなりそうです。
なお、シーフードレガシーでは認証の最適な組み合わせなど、一社一社にあった調達方針をお客様と一緒に作らせていただいております。ご興味ある方はいつでもinfo@seafoodlegacy.comまでご連絡ください。