循環式陸上養殖(RAS)
循環式養殖システム(Recirculating Aquaculture Systems、RAS)とは、陸上養殖の方法の一つです。生産されている魚種にはサーモン、チョウザメ、トラフグ、エビ類などがあります。
飼育環境をコントロールしやすく安定供給しやすいこと、排水が比較的少量で、周囲への環境影響が少ないなどの理由から、近年特に注目を集めており、世界中で養殖場の建設が進んでいます。2022年には世界最大のトラウトサーモンのRAS(年間9,000t生産)が*1、日本でもノルウェーのプロキシマーシーフード社が富士山麓で国内最大級のサーモン陸上養殖場を建設しており、2023年から出荷が予定されています(年間6,300t生産予定)*2。
RASは、水温や水流など様々な飼育環境をコントロールするための機器が必要なため(下図参照)、魚の状態や環境変化を監視し、飼育環境の最適化に役立つ、IoTやAIの活用が進められています(スマート養殖)。
循環式陸上養殖の基本と課題」より(提供:(公財)函館地域産業振興財団 吉野博之氏 提供)
循環式陸上養殖には様々なメリットがあります。
・水温など飼育環境を制御することで成長促進、飼料効率がよく、安定生産できる*3
・排出物を利活用できる(例:アクアポニックス)*3
・天然の水を使わず生産できるため、病原体の侵入がなく、感染症の発生を防止できるため、抗生物質を使用しない
・養殖場で飼育されている魚介類の生産時の履歴を残すことができる (トレーサビリティ)
上記以外にも、陸地での仕事のため作業負担が少ないことや、天敵に捕食されない*4、漁業権が不要で参入障壁が低い*4こともメリットとして挙げられます。
一方でデメリットや注意点も存在します。
・設備投資や電気代などランニングコストが高い*5
・災害などで設備機器の故障時に全滅するリスクがある*5
・参入者が増えると環境保全面での管理を徹底できなくなるおそれがある
その他に、養殖可能な魚種が限定的で中には完全養殖が困難な魚種もある*6、安全性を担保する仕組み(認証・検査など)が十分に整っていない*7などのデメリットもあります。
循環式陸上養殖にはサステナビリティの面から注意すべき点がいくつかあります。例えば、養殖場の建設地を選定する際に周辺の生態系へのインパクトを考慮する必要があります。排水に含まれる水質汚濁物質は、生産される魚介類に含まれる物質の数倍にも及びます。自然環境への物質放出を減らすためには、これらの物質を肥料として利用し、農作物や海藻を育てるアクアポニックスを行うことが一つの解決策になります。さらに、養殖場の温度調整や機器の動力となる電気エネルギーは、全体のコストの約4割*7にものぼり、生産時に発生するCO2を考慮した場合、再生エネルギーの利用が必要です。
*1 Firm foundations laid for world’s biggest trout RAS (Fishfarmingexpert, 2022/8/29)
*2 ノルウェー企業が静岡でアトランティックサーモン養殖 陸上循環式、24年に6300トン(みなと新聞、2021/2/9号)
*3 陸上養殖について(株式会社ジャパンアクアテック)
*4 陸上養殖のメリットとデメリット・課題は?(FISH-NETA!〜お魚のネタ帳、2023/7/20)
*5 陸上養殖とは?陸上養殖技術ベンチャー企業まとめ(ソーシャルグッドCatalyst)
*6 サーモンの陸上養殖:現状と課題点(サーモンライフ、2023/6/5)
*7 陸上養殖業の基本!方式・設備・コストを解説(株式会社マツイ、2021/7/21)
監修:東京海洋大学 海洋生物資源学部門 遠藤雅人准教授