サステナブル・シーフード用語集

FIP

FIPとは、Fishery Improvement Project(漁業改善プロジェクト)の略語で、MSCなどの認証取得や漁業に由来する環境課題の解決を目指して、関係する多様なステークホルダーによる取り組みを指します。FIPに取り組むことで、民間の力を活用して、持続可能性に向けた前向きな変化を促すことができます。サプライヤーや小売業者、食品サービス業者も、供給元のFIPに参加したり、FIPによる製品を購入することで、環境的・社会的課題の解決をめざす漁業の取り組みを支援することができます。

注意しておきたいのは、FIPは認証の一形態ではなく、「漁業における問題を解決するプロセス」を指しているという点です。そのため、FIPにはMSC・ASC認証などのような特定のロゴマークは存在しません。仮にFIPによって生産された水産物でも、まだ持続可能な漁業に向けた取り組みの途中であるため、商品に何らかの表示がされるわけではありません。

このFIPには、実施する漁業が関係する特定の環境問題の解決を目指す「Basic(簡易)」と、漁業の持続可能性をさらに高めるためにMSCの規格に沿って幅広い環境問題の解決を目指す「Comprehensive(包括的)」の2種類が存在しています。
プロジェクトを始める前にまず、MSC認証の予備審査を受けて現状把握を行い、MSC認証で定める原則の項目を満たしていない部分を改善していきますが、この時に一部の課題の解決のみ目指す場合はbasic、MSCの漁業認証規格全てを網羅した改善を行う場合はcomprehensiveとなります。いずれの場合も、最長5年間で作業計画に従って改善完了しなくてはなりません。

Conservation Alliance for Seafood Solutionsのガイドラインによれば、FIPは以下の6段階で進められます。

 

FIPの進捗状況は6ヶ月ごとに、米NGOのSustainable Fisheries Partnership(SFP)が開発した評価ツールを用いて、米NGO FishChoiceが適切かどうかの確認を行い、その結果を世界中のFIPの進捗状況が一目で分かる「FisheryProgress」にて公表しています。日本からFIPの自己申告内容チェックを受ける場合は、掲載条件を満たした上でウェブサイトに登録し、その後は進捗状況を英訳し、証拠書類などを提出することで第三者の確認を待つという手順を踏みます。

FIPは水産サプライチェーンにおいても重要性が認知されており、北米最大手のウォルマートをはじめとする小売企業の調達方針にも優先的に取り扱う製品として含まれています。こうした企業は長期的な視野でサステナブル・シーフードの調達を目指すことから、認証付きのものに限らず、将来認証を取得するであろうFIPを行う生産者や地域を直接支援したり、製品の販売先となったりすることで自身の調達目標の達成とともに、生産現場の改善活動の継続や目標達成を支援しています。

また近年は企業がCSR経営に意識が向くようになったため、経営倫理的な側面からもFIPが重視されています。最近では、ニッスイなどの製造・加工企業でもFIPが注目されるようになりました。(※1)

ちなみに、近年サステナブル・シーフードはレスポンシビリティへの配慮も加わり、社会面の課題解決(特に人権など)も求められるようになってきました。そのためFIPの改善項目にもその要素が追加されることが今年決まりました。(独自の方針
以下に日本における事例もいくつかご紹介いたします。

気仙沼ヨシキリザメ・メカジキ延縄漁業改善プロジェクト
主な内容:ヨシキリザメの漁獲・管理について関係者への働きかけ、管理確認方法の改善
参加者:株式会社UMITO Partners、気仙沼遠洋漁業協同組合、宮城県かつお・まぐろ漁業組合、岩手大学 農学部 資源経済・政策と数理資源管理研究室

広島カキ漁業改善プロジェクト
主な内容:カキの生産による絶滅危惧種や周囲の生態系への影響を把握するためのモニタリングの実施、科学者との協働体制の構築、漁獲情報や生態系の影響に関する情報収集の精度向上
参加者:倉橋島海産株式会社、株式会社UMITO Partners、日本生活協同組合連合会、Ocean Outcomes

※1 ニッスイグループ取扱水産物の資源状態調査(第2回)結果(2021年09月22日)、【課題と今後の対応】②参照

 

【主な参考】
株式会社シーフードレガシー「持続可能な漁業プロジェクト」
ニッスイ 「ニッスイグループ取扱水産物の資源状態調査(第2回)結果」
株式会社 UMITO Partners 「Note」
Conservation Alliance for Seafood Solutions “Guidelines for Supporting Fishery Improvement Projects”
Sustainable Fisheries Partnership (SFP) “FIP Evaluation Program”
WWF “Fishery Improvement Projects (FIP) Online Training”

 

 

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あ行

違法漁業防止寄港国措置協定 (PSMA)

か行

改正漁業法 海洋保護区 グリーバンス・メカニズム 現代奴隷 ゴーストギア 混獲

さ行

サステナブル・シーフード サステナブルファイナンス 循環式陸上養殖 人権デューディリジェンス 水産エコラベルのガイドライン 水産流通適正化法 責任ある漁業のための行動規範 絶滅危惧種

た行

調達方針 トレーサビリティ

は行

プラネタリーバウンダリー ブルー・エコノミー ブルーカーボン

ま行

未利用魚 モントレー・フレームワーク

ら行

陸上養殖

A

AIP ASC認証

B

BAP認証 BSP認証

C

CoC認証

F

FIP

G

GDST Global Fishing Watch GLOBALG.A.P.総合農場認証 GSSI(世界水産物持続可能性イニシアチブ)

I

ILO漁業労働条約(第188号) IQ(個別割当方式) IUU(違法・無報告・無規制、Illegal, Unreported and Unregulated)漁業

M

MEL認証 MSC認証

S

SeaBOS SeafoodWatch

T

TAC(漁獲可能量制度) TNFD

V

VMS