MSC漁業認証規格改定のポイント

MSC漁業認証規格改定のポイント

202210月、持続可能な漁業に関する「MSC漁業認証」の基盤となるMSC漁業認証規格が改定されました。約4年にわたる調査・分析やステークホルダーとの協議を経て行われた改定のポイントはどこにあるのでしょうか。MSCジャパン、漁業担当マネージャーの高橋 麻美​​さんに寄稿いただきました。

MSC(海洋管理協議会)とは

MSCは、将来の世代まで水産資源を残していくために、認証制度と水産エコラベルを通じて、持続可能で適切に管理された漁業の普及に努める国際的な非営利団体です。本部をロンドンとし1997年に設立され、2022年で25年という節目の年を迎えました。現在は約20カ国に事務所をおいて世界中で活動しています。MSC認証を取得した漁業は世界で500件を超え、世界の天然漁業による漁獲量の約15%が認証漁業によって漁獲されています(20223月末時点)。MSC「海のエコラベル」の付いた水産品は、2021年度には世界62カ国で20,000品目以上、日本では500品目以上が販売されました。

漁業認証規格改定のプロセス

MSC認証制度の根幹とも言えるMSC漁業認証規格は、世界で広く認知されており、FAO(国連食糧農業機関)とISEAL(国際社会環境認定表示連合)双方の要求事項を満たした世界で唯一の漁業認証プログラムでもあります。1998年に初版が発行されてから一貫しているのは、最新かつ確実な科学的根拠を反映した規格であることです。漁業の方法や科学的知見は進歩を続け、また、最近は気候変動や海洋ゴミの問題など、漁業を取り巻く大きな課題も顕在化しています。こうした状況の変化に応じて漁業管理における最善の方法も変わるため、MSC漁業認証規格は定期的に内容の見直しを行っています。

今回行われた改定プロセスは2018年に開始され、ステークホルダーとの協議、専門家とのワークショップ、調査・分析、パブリックレビュー(意見公募)を経て、世界46カ国から275の組織が参加し、600件を超える意見が提出されました。この中には日本のステークホルダーからの意見も含まれています。MSCではこれらの意見を検討し、さらに模擬審査や評議員会の助言を受けて202210月に新しい漁業認証規格(第3.0版)を発行しました。

改定の主なポイント

新しい漁業認証規格には、社会的な要望の高まりやこれまでの規格運用で見えてきた課題から、絶滅危惧種・保護種(ETP種)保護の強化や、シャークフィニング(サメのヒレ切り)防止の徹底、ゴーストギア(流出漁具)の対策など、多岐にわたる変更が加わり、MSC25年の歴史の中で最も包括的な改定となりました。

絶滅危惧種・保護種(ETP種)への影響の最小化

認証漁業には操業によるETP種への影響を最小限にすることが求められています。今回の改定では審査の際にETP種として扱う生物の分類方法をより、予防的かつ一貫性のある方法に変更しました。これまで国によって指定されている保護種が異なると、審査時にETP種として評価する生物種にばらつきが生じていましたが、改定によって資源状態や繁殖の特性など、その種の脆弱性に応じてETP種かどうかを判断することになり、審査の一貫性が向上する見込みです。

また、漁業がETP種の回復にどのような影響を及ぼすのかを明確に評価するため、漁業が導入するETP種の管理措置に一定の目標値を定めることが追加されました。

シャークフィニング防止強化

サメのヒレを切り、魚体など残りの部位を海に廃棄する行為「シャークフィニング」は残酷な行為として国際社会で非難されており、MSC漁業認証規格ではこれまでにもシャークフィニングを防止するための要求事項が設定されていました。今回の改定では、サメのヒレ切り防止のための方策の導入とその履行確認の根拠の提示を追加し、これを認証取得のための最低限のラインにおきました。この変更は、MSC認証取得漁業がシャークフィニングを行っていないことを徹底するためのものです。

ゴーストギア対応も厳格に

海に流出または廃棄された漁具は「ゴーストギア」と呼ばれ、海洋生物が絡まったり、海ゴミの原因にもなります。MSC認証漁業はこれまでにも、操業による生態系や生息域への影響を評価する一環として、漁具流出の防止対策を確認されていましたが、こうした課題に対応するため、新しい規格では、漁具の流出とその影響を評価するための要求事項が新設されました。これには、漁具の流出や漁具への絡まりの記録提出、漁具のタグ付けや回収作業の実施、海洋生態系への影響を軽減するための漁具の改良が含まれます。

ゴーストギアとは(詳細はこちら

審査における情報の正確性と信頼性の向上

審査時に申請者から提出される情報の正確性と信頼性を評価するための枠組みが新たに導入されました。特にモニタリングが難しい公海で操業する漁業の漁獲や、ETP種との遭遇に関する情報収集には一定程度電子モニタリングや船上オブザーバーを活用するなど、高いレベルの客観性が求められます。

この枠組みによって審査員が確認する情報の種類と質が統一され、審査の一貫性や信頼性が向上することが期待されます。

またがり資源に対する漁獲戦略に関する条件

マグロ・カツオ類をはじめとする複数の管轄を越えて長距離移動する高度回遊性魚類(またがり資源)の資源評価や漁獲戦略の策定は、主に地域漁業管理機関(RFMO)で行われていますが、多国間での協議、全会一致での採択を必要とするため、概して複雑で長期化する傾向があります。

これまでMSCでは、審査の際に漁獲戦略が持続可能なレベルに満たないと評価され、条件付き認証になった漁業には、漁業ごとに漁獲戦略策定に向けた行動計画と達成期日が設定されていましたが、新規格では、漁業ごとではなく資源ごとに一律の行動計画と期日が設定されるようになりました。

同じ資源を対象とする全ての漁業が足並みをそろえることで、RFMOにおける漁獲戦略の策定の促進に大きな影響を与えることが期待されます。また、気候変動などの不確実性に対応するため、漁獲戦略の内容も科学な論証に基づいた予防的な戦略が求められることになります。

新しい規格への移行スケジュール

20235月以降に新規でMSC漁業認証の審査に入る漁業は、漁業認証規格第3.0版の使用が必須となります。それ以前に認証を取得した漁業や審査に入っている漁業については、202511月までは更新審査時に現行の規格(第2.01版)か新規格を選ぶことができます。いずれの漁業も202811月時点では第3.0版への移行を完了する必要があります。

消費者にも伝えて欲しい

今回のMSC漁業認証規格の改定ポイントの中にはまだ馴染みのない言葉があるかもしれません。しかし、これらの改定は漁業を取り巻く課題や世界中のステークホルダーの意見を検討した結果であり、持続可能な漁業をリードする国際認証であり続けるための、世界のマーケットからの要望とも言えます。

MSC認証とエコラベルのプログラムは、適切に管理された持続可能な漁業であることを消費者に対して証明する仕組みです。その証明が一貫した審査や科学的根拠に裏打ちされた信頼に足るものであることをご紹介しました。マーケット関係の方々が持続可能な水産物を提供する際に、こうした背景も消費者に向けたメッセージとして活用していただけましたら幸いです。

参考リンク 新しいMSC漁業認証規格の発行により漁業の持続可能性を促進 | Marine Stewardship Council

 

 

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