老舗天ぷら店が支える、「稼げる漁師」をめざす持続性チャレンジ(前編)

老舗天ぷら店が支える、「稼げる漁師」をめざす持続性チャレンジ(前編)

フィッシュ・アンド・プラネットは2022年設立の、持続可能で社会的責任ある漁業・養殖業への移行を加速させる社会的企業。最初のプロジェクトとして、宮城県石巻十三浜(じゅうさんはま)の若手生産者による、日本初のワカメ・コンブでのASC-MSC海藻(藻類)認証*の取得を、実務および資金面で、老舗天ぷら屋「銀座大新」とともに支援してきました。

このプロジェクトが海のサステナビリティにおいて重要な役割をになう「海藻」に着目したこと、また若手漁業者を中心に多様な主体が連携したグループによる認証取得などの先進性を評価され、第4回「ジャパン・サステナブルシーフード・アワード」(主催:ジャパン・サステナブルシーフード・アワード実行委員会)のリーダーシップ部門でチャンピオンに選出されました。

活動の推進役として取り組んできた、フィッシュ・アンド・プラネット代表取締役の乗藤紘吏さんに、取り組みのきっかけから今後の展望まで、詳しくお聞きしました。

 

*ASC-MSC海藻(藻類)認証
天然漁業を扱うMSCと養殖漁業を扱うASCとが、初の共同策定基準として定めた認証。それまでどちらも対象外としていた海藻(藻類)の、持続可能で環境に配慮した栽培を認証するために策定、2018年3月より運用開始

 

乗藤紘吏(のりとう・ひろし)
江戸時代に東京浅草で鮮魚屋として創業し、その後は銀座(現在は麻布)で天ぷら屋を営んできた、創業190年の「銀座大新」7代目として、持続可能かつ社会的責任のある漁業・養殖業と日本の天ぷら文化の継承に取り組む。東京工業大学卒業後、デューク大学(米国)で環境管理学の修士号を取得。現職以前には大和証券SMBC(現大和証券)の投資銀行部門(東京とニューヨーク)でM&Aアドバイザリー業務に従事、その後越境ECの会社を起業。

 

天ぷら店から考える、持続可能な漁業へ

──まず、フィッシュ・アンド・プラネットの始まったきっかけからうかがえますか?

もともと大学と大学院で環境関係のテーマに取り組んだこともあり、サステナビリティに関わる仕事をしたい気持ちがありました。しかし結婚して妻の実家が営む「銀座大新」を継ぐことになったのが、大きな転機になりました。

「銀座大新」は江戸時代創業の鮮魚店で、2代目からは天ぷら店として銀座で、6代目からは広尾で店をやってきました。今は妻の両親が切り盛りしていて、僕らが7代目になります。

持続可能な漁業には義父も強い関心を持っていて、一次産業は国の豊かさを支えている源だから、とこの活動を全面的に支持してくれています。もちろん天ぷら店として水産物を扱っている中での危機感もあります。

僕は今は天ぷら店の仕事はしていませんが、フィッシュ・アンド・プラネットは「銀座大新」と一体で、新たな課題に挑む、第二創業のようなイメージです。

 

第4回ジャパン・サステナブルシーフード・アワードのトロフィーを受けとって、リーダーシップ部門ファイナリストたちと写真におさまる乗藤さん(左から2番目)

 

生産者の現場から取り組まなければ解決しない

──具体的に、会社を立ち上げて何をしようと考えられたのですか?

漁業の後継者難や水産資源の枯渇といった海の問題について情報収集する中で、飲食店を川下とすると、根本的な問題はやっぱり川上から取り組まないと解決しない、と思うに至りました。

もうずいぶん前から漁師さんたちは、漁業は稼ぎが悪いから「息子には継がせられない」と言っていました。それを変えたい。息子が漁師を継ぎたいと言ったら「いいんじゃないか」と言えるように。

現状は、稼げないから認証の取得も進まず「水産エコラベル」をつけることもできないし、稼げないから「獲れるときにめいっぱい獲ろう」となる。その結果資源が枯渇する。そこを解決しないと始まりません。

──生産者の生活をよくすることから始めなければ、と考えたのですね。

そうです。そして本当に問題を解決するには、当事者としてやらなきゃいけないと思いました。コンサルとして併走するのではなく、認証取得の実務もやり、資金も負担して、自分も在庫を持って、商品化して、売っていく。

リスクもありますが、そうやって関わらなくては本当の解決にコミットすることはできない、と。……だから認証を取って、その後に売っていくのが本番。まだまだこれからです。

 

海と水産物のサステナビリティ問題を解決するには、生産者の現場から取り組まなくてはならないと考えた

 

一度は諦めていた、認証取得

──今回受賞されたワカメ・コンブのASC認証の取り組みですが、石巻の漁師さんたちとはどうやって出会われたのですか?

ASCジャパンの方の紹介で、宮城県で水産業の変革をめざして活動している一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンの代表で、ご自身もワカメ漁師の阿部勝太さんと出会ったのが始まりでした。2020年の9月です。

実は阿部さん自身も、その数年前からASCの取得を考えながら、費用に見合う効果が期待できない、と諦めていたそうです。もっと高く売っていけるなら話は違うが、と。そこで、それならいっしょにやりましょう、ということになりました。

国際的な水産エコラベル認証を取った水産物は、日本国内なら、たとえば大手量販店で買ってくれるところもあります。しかしそれだけでは、生産現場にかかる認証取得の労力と費用をまかなえません。さらに国際認証は、取得後に維持していくコストもかかります。漁業を稼げる、魅力ある職業にするところまでつなげるには、それだけでは足りないのです。

──なぜワカメ・コンブで認証取得しようと思われたのですか。

それは国際競争力です。ワカメ・コンブは日本・中国・韓国で生産していますが、中でも三陸産はずばぬけて美味しい。外洋で養殖するので、波にもまれて肉厚に育ち、シャキシャキしているんです。

海藻は食の資源として世界的にはまだまだ未開拓で、価格競争力もあるし、欧米のベジタリアン、ヴィーガンブームへの期待もあります。カキやサーモンは欧米でも生産していて、認証品もたくさんあります。ワカメ・コンブのASC認証は、韓国が世界初、うちのワカメは世界2例目、コンブは世界3例目です。まだまだ国際市場での可能性があると思っています。

 

三陸産のワカメ・コンブは、味では他のどこのものにもひけをとらない。アメリカ西海岸のコストコで「海草サラダ」がヒットするなど、国際市場の可能性も大きいと考えた

 

若手生産者たちとの出会い

──すると、阿部さんが大きな推進力になってくれたのですね。

そうです。現場の漁師グループ19人(2法人を含む)をまとめているのも阿部さんです。メンバーは30、40代の人ばかりで、阿部さんの幼なじみです。

阿部さんはもともと、生産者でありながら自分で販売もしたり、漁業の6次産業化をみずから実行していました。でも他の18人は普通の漁師さんです。「認証って何?」「フィッシュ・アンド・プラネットって誰?」「本当に買ってくれるの?」……今まで漁協に売るしかなかったので、疑心暗鬼になるのも無理はありません。

ただ、メンバーが若い世代ばかりだったことは幸いでした。若いから、先のことを考えます。漁師が減って、海水温が上昇して、魚が減って……という将来への問題意識があります。でも、何をどうすればいいのかわからないのです。

 

認証の取得は、石巻十三浜でワカメ・コンブの養殖をいとなむ若手生産者たちのグループにとっても新しい挑戦だった

 

有志グループでのASC認証取得へ

──その状況に対して、突破口になりたいと考えたのですね。

そうです。阿部さん自身ももともと、認証は取りたいと思いながら、周囲で認証を取った人たちから費用対効果を上げる難しさを聞いたり、また自身でも難しさを感じて、躊躇していた。

でもサステナブル・シーフードの動きは、生産者から率先してやらなければ始まらない、と阿部さんも考えていて、そこは僕とも同じでした。そして認証は、いちばんの確実な付加価値になる、収益に直結する方法だと思っていました。

──グループで取得されたとのことですが……。

認証は企業や漁協など、組織で取るのが一般的で、やりやすい方法です。今回も漁協の十三浜支所に相談しましたが、漁協としてはやらないというので「じゃあ自分たちでやろう」。

ASCでは、2019年から有志グループによる認証取得のスキームを始めています。最初の取得例はインドネシアのエビ養殖でした。私たちは世界2例目になります。

多くの漁業や養殖の現場で、小規模や家族経営の生産者がなかなか認証を取れない、その結果、サステナビリティの取り組みを諦めがちになっていることは、世界的にも問題になっています。ASCの側としても必要を感じて「有志グループ」で認証を取得できるようにしたものの、組織での取得と比べると格段に複雑で大変です。それが、なかなかグループ認証が進まない課題につながっています。

 

後編では、認証取得のための具体的な取り組み、その中で乗り越えなくてはならなかったハードルや課題について、そして取得後の販売計画、またフィッシュ・アンド・プラネットとしての今後の目標について語っていただきます。

 

取材・執筆:井原 恵子
総合デザイン事務所等にて、2002年までデザインリサーチおよびコンセプトスタディを担当。2008年よりinfield designにてデザインリサーチにたずさわり、またフリーランスでデザイン関連の記事執筆、翻訳を手がける。

 

 

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