サステナブルな水産物調達とは? これからの企業に求められる役割と責任

サステナブルな水産物調達とは? これからの企業に求められる役割と責任

2022年9月7日、WWFジャパンが株式会社シーフードレガシーと共同で、小売業・水産企業・団体や流通販売企業などを対象としたオンラインセミナー「小売企業に求められるサステナブルな水産物調達を考える」を開催しました。

日本の水産は近年、漁業法の改正や「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」(水産物流通適正化法)の成立などにより持続可能な資源管理やIUU(違法・無報告・無規制、Illegal, Unreported and Unregulated)漁業の根絶に向けた取り組みが強化される一方、日本の食卓を彩るサンマなどの大衆魚の漁獲量減少や、産地偽装、虚偽の漁獲報告、外国船による乗組員の人権侵害など、国産・輸入水産物ともにさまざまな問題が噴出しています。

そこで今回は、セミナーの内容をもとに、水産物を取り巻く現状やリスクを改めて紹介するとともに、水産物を取り扱う企業に求められる役割と責任について解説します。

持続可能な水産業と水産物調達における課題

WWFジャパン 前川聡さんによる発表「持続可能な水産業と水産物調達における課題」について振り返ります。

水産資源の現状については、天然の漁業生産量は今後減少すると予測される一方、養殖業は拡大し続けると予測されています。世界の水産資源のおよそ3分の1は枯渇状態で、開発の余地が残されているのは1割もない状態にあります。また、日本周辺の水産資源は半数以上が過剰漁獲、または資源状態が悪いとされています。

さらに、水産業の環境面、社会面の両方の課題として、世界のIUU漁業による漁獲量が日本の漁業生産量の3〜6倍にものぼると推計されており、それらは不当に安価で販売されています。また、日本の主要な輸入国からくる水産物の約3割がIUU漁業由来との推定もあります。

 


©︎WWFジャパン

 

その他にも、漁業では、対象魚種ではないものの混獲された水産物の廃棄や保護すべき野生動物の混獲、ゴーストギアといった問題があり、養殖業でも多くの天然魚を餌として与える必要がある現状(養殖魚の育成には生産する量以上の天然魚を餌として与える必要がある)や水産養殖に使われる抗生物質が薬剤耐性菌の出現を招くことなどが問題となっています。

 


©︎WWFジャパン

 

これらの現状と課題を踏まえ、持続可能な漁業・養殖業とは何かをWWFジャパンが定義します。

持続可能な漁業とは
1. 資源量が良好な状態で維持されている
2. 生態系・環境に悪影響を与えていない
3. 管理する規則、仕組みがあり順守されている

持続可能な養殖業とは
1. 生態系・環境に悪影響を与えていない
2. 種苗の資源量が良好な状態で維持されている
3. 資源調達による生態系攪乱が最小限に抑えられている
4. 管理する規則、仕組みがあり順守されている

そして、生産・原料調達から消費地までの違法・非持続的な水産物と識別可能であること、すなわちトレーサビリティがきちんと整っていることが重要です。

また、サステナブルな水産業に関する取り組みとして、地産地消と食育、未利用魚の利用、完全養殖技術の開発、陸上養殖(閉鎖循環式)についても、それぞれに利点と課題があります。

天然漁業、養殖業ともに環境・社会上の課題を有しており、包括的に改善を進めることが重要です。また、水産物を取り扱う企業が、持続可能な水産物の調達、トレーサビリティの確立、IUU漁業由来の水産物排除に対し取り組みを行うことが重要です。

 

水産マーケットにおける企業の役割と責任

シーフードレガシー 高橋諒によるプレゼン「水産マーケットにおける企業の役割と責任」について解説します。

気候変動や自然資源の汚染、資源の枯渇などの環境問題や、人権侵害や奴隷労働、不正行為(IUU漁業や窃盗)などの社会問題に対して、世界各国では法律や規制を制定、金融分野ではESGインテグレーションやサステナビリティリンクローンを行うなど対応をしています。これらの社会問題は水産業においても無視のできないものであり、対応ができていない企業が市場で炎上した事例もあります。

企業として責任ある調達の方針を策定・表明・実施することで
・認証水産物以外で持続可能性を追求する取り組みを大概的に発信できる
・資源の減少、生物多様性の破壊、人権侵害に加担しているとみなされるリスクを低減できる
・調達方針を持つ海外市場や海外からの顧客に対して販路拡大戦略を立てられる
・非社会性原料をサプライチェーンから排除することで事業継続性の基盤を築くことができる
などといったことが挙げられます。

水産物における持続可能な責任ある調達を積極的に推進している企業の例として、イオン株式会社(持続可能な商品の販売や違法な取引の排除など)、日本生活協同組合連合政策「生協の2030環境・サステナビリティ政策」策定、「コープ商品の2030年目標」の設定と公開など)、セブン&アイ・ホールディングス(トレーサビリティの確保に努め、IUU漁業を排除、過剰漁獲や混獲を避け、持続可能な漁業に取り組む生産者からの調達を拡大など)、ホテル業界(使用する水産物の一部を認証水産物にする)などの取り組みがあります。

 

 

持続可能な責任ある調達の実現には水産エコラベルが一つの手段として活用できますが、どのような課題とメリットがあるのでしょうか?

水産エコラベル商品を使用する際には、下記のような課題とメリットが挙げられます。

水産エコラベル商品を使用する際の課題

・国内水産物については、日本で漁獲される魚の種類と比較すると認証水産物のアイテムが少ない
・輸入水産物については、最終末端での使用数量が少なく、在庫を抱えてしまうためコンテナ単位での輸入ができない
・国内水産物、輸入水産物の共通課題として、認証品だからといって顧客に高く売れない。そのため最終末端が広がらず、プレイヤーが増えない。
・CoC認証を取得している中間流通業者が少なく、アイテムが入手しづらい

水産エコラベル商品を使用するメリット

・エシカル消費を求める顧客へのアプローチ・新規市場への参入ができる
・自社のCSR活動を強化することができる(SDGsへの貢献・統合レポートへの記載)
・持続可能な漁業の取り組みをしている漁業者を購買で支援することができる
・持続可能な水産物とそうでないもの(IUU漁業リスクのあるもの)を区別できる

気候変動や世界的な水産資源の減少などの環境問題や、IUU漁業や人権侵害などの社会問題が顕在化し、水産物を取り巻く環境が大きく変化しています。それに伴い、水産物を取り扱う企業の責任と役割も一層大きくなっています。水産エコラベルを使用する上での目的や価値を正しく整理した上で、持続可能な水産調達の実現に向けた方針の策定やその実行は、水産物を取り扱う企業にとって重大な責務であると考えられます。

 

文:河﨑志乃
デザイン事務所で企業広告の企画・編集などを行なった後、2016年よりフリーランスライター・コピーライター/フードコーディネーター。大手出版社刊行女性誌、飲食専門誌・WEBサイト、医療情報専門WEBサイトなどあらゆる媒体で執筆を行う。

 

 

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