ポスト2020生物多様性枠組による水産業への影響は?

ポスト2020生物多様性枠組による水産業への影響は?

2010年、名古屋で開催された第10回生物多様性条約締約国会議(COP10)​​で、生物多様性の損失に歯止めをかけるため、戦略計画2011-2020、通称「愛知目標」が定められました。そして、今年2022年の秋に中国の昆明で開催される予定の生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)では、世界が生物多様性を保全するため、「愛知目標」後に目指すべき目標「ポスト2020生物多様性枠組(GBF)」が採択される予定です。

COP15は本来は2020年に開催されるはずでしたが、COVID-19のために何度も延期され、ようやく今年開催されることになりました。この間、GBFについては、複数回のリモート会合の後、今年3月のジュネーブおよび6月のナイロビでの対面交渉があり、検討が着実に進んでいます。

今後、GBFが採択されると、水産業にどのような影響があるでしょうか? 議論が継続しているGBFではありますが、その1次ドラフトから読み解いてみたいと思います。

 

食料危機への備えとして持続可能な資源管理がますます重要に

GBFの前の世界目標である「愛知目標」では、目標6および7でそれぞれ天然漁業と養殖について記載されています。それに対し、GBF1次ドラフトでは、行動目標10に水産業に直接関係する用語として「養殖業」が記載されていますが、愛知目標6の天然魚に関する漁業については言及されていません。実は天然魚に関しては「野生の海洋生物」と表現され、陸生・淡水の野生生物と共にGBF行動目標9に記載されています。

また、愛知目標6に記載された「法律に沿った管理・収穫」「回復計画や対策」については、それぞれGBF行動目標5・GBF行動目標4に記載されています。

 

 

このように、GBFの行動目標は、愛知目標6・愛知目標7の記載内容を網羅しているだけでなく、その視点として「人間の食料安全保障のために、生物を持続可能に利用できるように保全・回復する」という特徴を持っています。これは、今のままの陸域・淡水域・海域における野生生物種の食料としての利用と、農業・養殖業などの人の手による生物生産では、今後も増加が見込まれる世界の人口全体を養うことが困難であり、世界の持続可能な発展のために解決すべき課題であるという意識が高まっていることによっています。この観点から、水産業においては「持続可能な資源管理」と「水産資源の生産性向上」への期待が世界中でさらに高まっていくことが予想されます。

 

持続可能な漁業海域の拡大、プラスチック廃棄物の根絶も

GBFには、他にも水産業に間接的に関係する記載があります。以下にいくつかその関連性と共にご紹介します。

 

行動目標3:少なくとも 30 パーセントの陸域及び海域、特に、生物多様性にとって特に重要な地域及びそれが人々へもたらすものが、効果的及び衡平に管理され、生態学的に代表的で、また良好に連結された、保護地域及び OECM のシステムを通して保全され、また、より広範なランドスケープ及びシースケープに統合される。*2

 

これはいわゆる「海洋保護区」について、愛知目標11で11%だった数値目標を、GBFにおいては30%まで拡大しようとするものです。ここで水産業とって重要なのは「海洋保護区」は「禁漁海域」や「漁業規制海域」だけを指すのではなく、「持続可能に水産業を行うよう管理された海域」を含むことです。この目標は、より実効性のある生息地保全の重要性が高まっているという認識に立ち、適切に管理された保全上重要な生息地の管理が拡大すれば、その海域で増えた海洋生物がその外に生息域を拡大し、より広範な海域でそれらを水産資源として持続可能に利用できるようになる、という考えに基づいて設定されています。先ほどご説明したように、食料安全保障のための海洋生物の持続可能な利用と言う観点が益々高まっていますので、水産業が持続可能な海域管理に果たすべき役割への期待は非常に高いと言えます。

 

行動目標7:環境への養分流出を少なくとも半減、農薬の少なくとも3分の2を削減し、またプラスチック廃棄物の流出を根絶すること等により、生物多様性と生態系の機能及び人の健康にとって有害とならない水準まですべての汚染源からの汚染を低減する。*2

 

水産業に関係するのは「プラスチック廃棄物の流失を根絶」です。漁具にはプラスチックが多く使われていますので、これらを廃棄物として海域に流出させないための施策が必要となります。例えば、漁具流失を防止するためのIT技術の活用、プラスチックを使わない漁具の開発と利用といった施策が考えられます。

 

持続可能な水産企業が資金を得る時代に

上記のGBF行動目標に対処するためには、当然ながら資金が必要です。実はGBFには、その資金の導出に関連する行動目標が提案されています。

 

行動目標18:生物多様性にとって有害な奨励措置の転用、目的の変更、改革又は撤廃を公正・衡平に行うことで、最も有害な補助金のすべてを含め、少なくとも年 5,000 億ドル減額し、また、公共及び民間の経済的及び規制的なものを含む奨励措置が生物多様性に対して正もしくはニュートラルなものであることを確保する。*2

行動目標15:各地域から地球規模まで、すべてのビジネス(公的・民間、大・中・小)がそれぞれの生物多様性に対する依存状況及び影響を評価及び報告し、漸進的に負の影響を低減して、少なくともこれを半減し正の影響を増加させ、ビジネスへの生物多様性に関連するリスクを削減し、採取/生産活動、ソーシング/サプライチェーン、使い捨てにおける完全な持続可能性を目指す。*2

 

愛知目標でもビジネスに持続可能な生産と消費への行動が期待されていましたが、これらは以前のコラム「ESG投資で変わる水産業」の流れを汲むものです。3月のジュネーブでの交渉の際には、EUなどのこれらの行動目標と同じ方向性の政策を推進している国だけでなく、「Business for Nature」や「Finance for Biodiversity Pledge」など経済基盤としての生物多様性の保全を求めるビジネスイニシアチブもこれらの目標について「さらに野心度を高めるべき」という主張をしています。すなわち、「より多く漁獲する企業」ではなく「より持続可能な漁獲をする企業」が補助金を、そしてその取組みに関する情報を適切に開示する企業が投資を、それぞれ得ることが可能となるということを指しています。

前述のように食料安全保障の観点から、「持続可能な魚介類」を求める消費者は、先進国を中心としてますます増えていくと考えられます。その期待に応えることは、水産業そのものを持続可能とし、さらに発展していくためにますます重要になっていると言えます。日本の水産業がいち早くこの動きに合わせて進んでいくことに期待しています。

 

*1 環境省 https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/aichi_targets/index_03.html
*2 環境省仮訳 https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/treaty/files/1.0draft_post2020gbf.pdf?fbclid=IwAR3xfUWvJFIRjQYfc3M09wL1YmFuiEm83QVDZ5mPKvD2SmfEawfE-dzaSOIhttp://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/treaty/files/1.0draft_post2020gbf.pdf?fbclid=IwAR3xfUWvJFIRjQYfc3M09wL1YmFuiEm83QVDZ5mPKvD2SmfEawfE-dzaSOI

 

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プロフィール
宮本 育昌 (みやもと やすあき) JINENN 代表
1966年広島県生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科物理学及び応用物理学専攻(修士)を1991年に修了後、電機メーカーにおいて研究職を経てCSR・環境経営に従事。その傍らで1998年サンゴ礁保全、2009年から海洋生態系を中心に生物多様性保全に関わる。2021年3月にJINENNを開業し、企業・研究機関・NGOに対し、生物多様性を中心とした環境・社会課題に関するコンサルティングなどを提供している。

 

 

 

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