宇宙開発の視点から地球の海を見つめ、新たな技術で水産養殖を変える(前編)

宇宙開発の視点から地球の海を見つめ、新たな技術で水産養殖を変える(前編)

最先端のテクノロジーを駆使し、未来へ向けて水産養殖を変えようとしているウミトロン株式会社。「持続可能な水産養殖を地球に実装する」を社のミッションとして掲げ、水産養殖をコンピュータ化するさまざまなサービスを展開しています。

このウミトロン株式会社の代表取締役である藤原 謙さんは、かつて宇宙航空研究開発機構(JAXA)で人工衛星の研究開発を行っていたエンジニア。そのほかのメンバーも最先端の画像処理やデータ解析の分野などで活躍してきた異色の顔ぶれです。

一見、水産養殖とは縁遠い分野のスペシャリスト集団であるウミトロンが目指しているものとは。藤原さんにウミトロン設立の経緯やミッションに込めた思い、日本の水産養殖の課題などについて伺います。

 

藤原 謙(ふじわら けん)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)にて人工衛星の研究開発に従事した後、三井物産株式会社にて衛星を活用した農業ベンチャーへの新規事業投資及び事業開発支援を実施。2016年4月、ウミトロン株式会社を設立。東京工業大学大学院 修士(工学)、University of California, Berkeley 修士 (MBA)。
https://umitron.com/ja/

 

JAXAから水産養殖へ。宇宙開発の技術を食の分野で活用する

——宇宙航空研究開発機構(JAXA)で研究開発を行なったのち、三井物産で農業ベンチャーの事業開発支援をされていますが、宇宙開発から農業に興味を持たれたのはなぜですか。

JAXAで開発した先端技術が、民間分野でどのように役に立てられるか、ということに強く興味を持ったのがきっかけです。宇宙から得られる人工衛星データを使って何か新しい取り組みをしたいと思い、当時ご縁のあった農業ベンチャーの事業開発支援を行いました。

具体的には、衛星を使って作物の生育状況を観測し、肥料や農薬散布を最適化することで、作物の生育を良くしたり、無駄な肥料を使わないようにする技術を開発しました。

 


宇宙航空研究開発機構(JAXA)では人工衛星の研究開発を行っていた

 

——その後、水産養殖に興味を持ったのはなぜですか。

人工衛星をはじめとする宇宙開発の技術を、農業だけでなく他の分野でも活用できないか、試してみたいと思ったのです。農業分野で新しいテクノロジーを活用しようという会社はいくつも出てきていましたので、もっと新しい分野で技術の可能性を追いかけてみたい、新しいことに挑戦したいと考えました。

私は大分県出身で、子どもの頃から瀬戸内海で遊んで育ちましたので、海には親しみがありました。海に関わる仕事ならばライフワークとしても楽しみながらやれそうだと思いました。そして2016年4月、水産養殖の現場で先端技術を使った取り組みを行うため、三井物産で同僚だった山田雅彦、画像処理と機械学習を専門とする岡本拓磨を共同創業者としてスタートしたのがウミトロンです。

宇宙に浮かぶ「水の惑星」に、持続可能な食料を

——ウミトロンが掲げるミッション「持続可能な水産養殖を地球に実装する」に込めた思いをお聞かせください。

JAXAで宇宙開発の仕事をしていましたので、人工衛星から観測した地球のイメージが私の頭の中に強くあります。宇宙から地球を見ると、表面の7割を水に覆われた「水の惑星」が、周囲の環境から断絶され、真っ暗な空間で孤独に浮かんでいるように見えます。この孤独な青い地球の上で、80億人近くの人間が暮らし、そのほかのあらゆる生物の命が育まれているのです。

そんな地球の食料生産を担うものとして、水産養殖に大きな可能性を感じたのがウミトロンの原点のひとつです。

私は「宇宙船地球号」という言葉が好きなのですが、宇宙の中で孤立した宇宙船地球号で生きる人や生物が今後も宇宙の旅を続けられるように、閉鎖された環境の中で持続可能な食料生産を実装したいという思いでこのミッションを掲げました。

「実装」は、テクノロジーの世界でよく使われる言葉です。ウミトロンのサービスは最終的にテクノロジーを活用したもので、テクノロジーを活用しなければ次の世代に進めないと考えていることから「実装する」という言葉を使っています。

 


2019年8月に開催されたジャパン・インターナショナルシーフードショーの展示会場にて

水産養殖は研究開発に対する投資が不足している

——持続可能な水産養殖を地球に実装するにあたり、まず日本の水産養殖が抱える最大の課題は何だと思われますか。

水産養殖にはさまざまな課題があり、ウミトロンも取り組みを行なっていますが、最大の課題は研究開発に対する投資が不足していることだと思います。

水産養殖の世界に飛び込み技術開発とサービス展開をしていく中で、この業界は既存のバリューチェーンの中にいる人たちだけでは解決できない問題がたくさん残されていると感じています。

食料生産は生き物を扱いますので生産に時間がかかります。ですが、時間と労力をかけて生産しても、例えばマダイはマダイというカテゴリーから出ることができず、全く新しい革新的なものを生み出すのは難しい。ですので、爆発的な人気を得て大きなお金が集まるということはありません。

研究開発投資が潤沢な宇宙開発分野にいたためについ比較してしまうのかもしれませんが、食料生産は他の産業に比べて、生産者がつくったものでお金を集めて、それで新たな技術開発に再投資していくというサイクルをつくることができていないと感じています。

食料生産のバリューチェーンの中で、唯一消費者側に近い小売業は早くお金が集まりますが、蓄積された資金は店舗展開やマーケティングに使われることが多く、生産現場の研究開発に再投資される事例はまだ珍しいと思います。

生産現場に再投資が行われるサイクルをつくらなければ、生産現場の自助努力だけでなんとかしなければならないという状況から抜け出せません。どうしたら食料生産、特に水産養殖の研究開発に再投資されるような形に変えられるか、というのが、私が最も大きな課題として感じているところです。

——水産養殖の課題を、ウミトロンではどのようにして解決しようとしているのでしょうか。

研究開発に投資がされていないという課題をただ提示するだけでは、前に進むことはできません。そこでウミトロンが現在行なっているのは、今まで水産養殖に接点のなかった人材、技術、企業、資金を導入することです。

ウミトロンのメンバーも、最先端の画像処理の開発をしていたメンバーや、最先端のデータ解析をしていたメンバーなど、高い能力がありつつもこれまで水産養殖に全く接点のなかったメンバーがほとんどです。皆、自身のスキルを使って誰もやったことのない課題に取り組みたいというモチベーションがあり、水産業界で何ができるかということを一緒に考えながら業務にあたっています。

 


今まで水産養殖に接点のなかった分野の精鋭が集まるウミトロン

 

共同創業者の岡本拓磨に、なぜ私と一緒にウミトロンをはじめようと思ったのかと聞いた時も、「水産養殖の課題はどうやって解決するのか、方法が全くわからなかったから」と答えていました。

岡本もIT業界での経験が長く、たいていのサービスのアイデアを聞くとどうやってつくればいいかわかるそうですが、水産養殖の話を聞いたときにはどうやってサービスをつくればよいのか全くわからなかったそうです。それが彼にとってのモチベーションになっているようです。

そういったメンバーが集まってくれていることが、ウミトロンの強みだと思っています。

また今年、ENEOSホールディングス、QB第二号投資事業有限責任組合、東洋製罐グループをはじめ、商工中金などの金融機関からの借入枠を含めて総計12.2億円の資金調達を実施しました。2018年の資金調達12.2億円と合わせて、総計24.4億円の調達となります。これをもとにサービスの事業基盤強化はもちろんのこと、海外事業展開の加速、出資元のパートナー企業との連携強化を進めていきます。

 

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取材・執筆:河﨑志乃
デザイン事務所で企業広告の企画・編集などを行なった後、2016年よりフリーランスライター・コピーライター/フードコーディネーター。大手出版社刊行女性誌、飲食専門誌・WEBサイト、医療情報専門WEBサイトなどあらゆる媒体で執筆を行う。

 

 

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