持続可能でお客様に喜ばれる魚を育てたい。 地域と共に、水産業の新しい方向をめざす。(後編)

持続可能でお客様に喜ばれる魚を育てたい。 地域と共に、水産業の新しい方向をめざす。(後編)

(前編から)漁師の父を見ながら育ち、持続可能性の重要さに気づいた鈴木さんは、サーモン養殖と出会います。それは大規模養殖を前提とした北欧の養殖手法を使って、アジアをはじめ世界の急増するサーモン需要に応える、養殖ビジネスを成立させる模索の始まりでもありました。

大規模でなくてはサステナブルにできない

──今、日本サーモンファームさんには何人くらいスタッフがいらっしゃいますか?

淡水部と海水部を合わせて19名くらいです。生産量は2021年で1,100トン、2022年には1,600トンを見込んでいます。まずは目標として、5千トンを目指しています。それでも海外に比べれば少ないです。

──そんなに違うんですか?

養殖サーモンの生産量は、日本全体で年間約2万トンです。サーモン養殖で世界最大の養殖業者は、1社で年間40万トン以上育てています。桁が違います。世界で15位の会社でも、年間4万トンです。

最初の頃、向こうでやってる養殖設備の展示会に行って、「何トンつくってるの?」と聞かれて、少し見栄を張って「千トン」と言ったら、「5千トンはやらないと、うちの設備はペイできないな」と鼻で笑われました。

──そうなんですね……そんな中で戦っているのはすごいですね。

やはりこれは、親会社のオカムラ食品工業が、「大規模養殖によって世界のお客様に水産物を届け続ける」という考えを持って、長期的な視点に立ってフォローしてくれるからこそです。また、大規模養殖に挑戦することで、生産のみならず、加工・販売も含めた垂直統合により、安全・安心で安定供給ができることが、非常に大きな付加価値だと思います。

 


世界のサーモン類の生産量(FAO FishStatJを基に作成)。1990年代以降、サーモン類の養殖は大きく伸びているが、それでも全世界、特にアジアで急拡大する需要に追いつかない。養殖をリードしているのは北欧や南米で、中でもノルウェーがトップ

 

──結局、養殖をサステナブルにやるには、規模が必要ということでしょうか? 規模が小さいとサステナブルにはできない?

採算度外視というわけにもいきませんし、小規模では困難を極めることでしょう。なぜなら毎年のように、河川の状態調査、海の底質、生態系調査、水の分析……それを全部外注するだけで相当なコストがかかるからです。また、その分析結果から改善する為にも設備投資が必要です。それに耐えるには売り上げの規模、つまりは生産量が必要です。

 


深浦町の中間養殖場は2つ。ここで稚魚を大きく育てる。約13万haに及ぶ広大な白神山地には、世界最大級の原生的ブナ林があり、保水力に優れ「天然のダム」と言われるこの森が、中間養殖場に届く水の源

 

いつの日か、海が使えなくなったら「ゼロ」

弊社には多様な人が集まっていますが、一人ひとりが持続可能性が重要だと思っています。海水部部長は、自ら定置網を設計・設置できるスキルとノウハウを持っています。いろいろな現場の経験から、管理不足の現場が汚れたり荒れたりするのも知っている。そういう人だからこそ、身に染みて持続可能性が大事だと思っています。現場の人間がみんな、そうした意識を持ってやっています。そんな中で「ASC認証の取得に100万、200万かかる」と言っても、それはやるしかない。異論はありません。

──認証を取得しても日本のマーケットでは評価されない、とよく聞きますが……

評価してくださるお客様も、少しずつ増えてきており、ありがたいことです。ですが、弊社にとって認証取得は当たり前のことで、評価を期待するものではないと割り切っています。

──でも現状として、ASC認証のサーモンを高く買ってくれないということは、認証取得にかかった費用を早期に回収することができませんよね?

もちろん、理解が深まり早期に回収できるに越したことはありません。ですが、有限である海や自然環境を使わせて頂いている立場として、持続可能性こそ第一に考えるべきだと思っています。長期的には、こうした営みが持続可能性につながっていくのではないかと考えています。

 

深浦町の海面養殖場。青森県西津軽郡の深浦町は日本海に面し、かつて北前船の風待ち湊として栄えた。世界自然遺産の白神山地と日本海に囲まれ、豊かな自然が魅力的な町

 

簡単には変わらない日本の風景

──垂直統合型の大規模養殖は、これから日本で広まっていくと思われますか?

わかりません。日本が今かかえている構造的な問題が、水産業にも当てはまるかもしれません。弊社には今までの仕組みを変えるほどの力はありませんが、持続可能な養殖を実行することで新たな水産業の提案はできるのではないかと思っています。

──幼い頃にお父様の背中を見て、憧れていた漁業の風景と比べて、今はどうですか?

あまり変わっていないのかもしれません。この30~40年間で日本の水産業は、様々な努力をしてきましたが、現実には海外との差がこれだけ広がってしまったことは、事実として受け入れなければならないかと思います。

──新しい水産業をめざして、活動や発信を広げようとしている人たちもいます。新しい水産をつくろうとする仲間を増やすにはどうしたらいいでしょう?

私にはわかりません……。我々としては、まずは自分たちで一生懸命やっていくしかないと思っています。経験と実績を重ねていけば、どこかで気づいてもらえ、仲間が増えてくる。そこまで続けていくことが重要かと思います。

 

今別町の中間養殖場は2021年完成で、場内で水を循環して活用する。海面養殖場から近い立地も、輸送面で環境に配慮したもの。今後は現状の約6倍まで規模拡大を予定している

 

リーズナブルで美味しい魚をつくるのが自分たちの役割

──日本サーモンファームさんのサーモンは、どこで食べられますか?

弊社の「青森サーモン」は、都内では魚力(水産物の小売・卸売などを手掛ける企業)様が、試験養殖の段階の最初から扱ってくださっています。2018年から、生で出荷できる4~6月には、スシロー様でも「青森サーモン」の名前で出していただきました。イオン様でもASC認証のサーモンとして販売いただいています。その他、全国各地に「青森サーモン」を出荷しています。

──名前がついていると見つけやすいですね。今後はブランディングなども考えられますか?

水産物のブランディングで成功するのは非常に難しいことだと思います。弊社はそれよりもまず、美味いものをできる限り安く、たくさん作って販売していく、そちらに力を入れたいと思っております。
ベトナムでも、ノルウェーのサーモンは何のブランドもなくても売れます。それはリーズナブルだからではないでしょうか。リーズナブルとは、安いというだけでなく、味と値段のバランスがとれていてコストパフォーマンスがよい、ということです。「この価格で美味しい」というのがサーモンです。だからこそ世界中で売れている。

 

日本サーモンファームで育てた魚は、「青森サーモン」などの名前で全国に出荷される。4~6月は生サーモンも

 

行動し、実績を重ねた先に変化を期待する

──鈴木さんたちも、実際の行動で、魚をつくっていくことが役割だと。

そうです。私たちが得意なのは、言葉であれこれ言うよりも、サーモンをつくること。行動して良いサーモンをリーズナブルに生産し、持続可能な養殖を拡大していくことです。その先で、どこかで潮目が変わるでしょう。

実績を重ねて4年になりますが、たくさんの方々が協力・応援してくれています。地元を中心とした若手が次々と弊社の門をたたき、様々な分野のプロが同志になってくれています。本当に有り難いことです。

──パイオニアにひかれて人が集まるのでしょうか。

私がパイオニアかどうかはわかりませんが、弊社が新しい養殖事業を立ち上げていることは確かです。日本では今まで挑戦できていなかったことを、ひとつひとつ、答えのない課題に取り組みながら克服し、自ら事業を拡大できることに私は魅力を感じています。

──今は青森県ですが、今後他県へも広げていくお考えは?

はい、考えはあります。しかしながら、現在の青森県深浦町、今別町、外ヶ浜町だけでも、海面養殖で1万トン規模を生産できる区画漁業権が免許されているので、今すぐにというわけではありません。2022年の目標生産量は1,600トン、当面は県内の生産規模拡大を中心に検討しているところです。

地元の自治体に協力していただいていることも大きいです。単に「ここでやらせていただく」だけではなく、さまざまな問題を一緒になって解決していく関係です。漁協も、私たちのような者を受け入れて、応援してくださっています。
ですから本当に、関わっている大勢の方々と共に進めている事業です。まだほんの一歩を踏み出したばかりですが、色々な人に助けてもらいながら一緒に進めていければと思います。

 

現在はまだ年間千トン台だが、海面養殖場は今後1万トンまで生産能力のあるいけすを設置できる漁業権を確保している

 

 

鈴木 宏介
千葉県勝浦市出身、東京水産大学(現東京海洋大学)卒。株式会社オカムラ食品工業に入社、デンマーク、ベトナム等海外事業にてサーモン養殖、加工、飲食業に携わる。2016年より青森県にてトラウトサーモン事業起ち上げに参加。2017年日本サーモンファーム株式会社設立、2020年より代表取締役社長。

 

 

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