気候変動が水産業に与える影響

気候変動が水産業に与える影響

国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が閉幕しました。1.5度未満をめざすという国際的な合意には至ったものの、脱石炭については段階的削減にとどまるなど課題も残りました。COP26の合意に基づく世界各国の取り組み状況では、今世紀末までに2.4度まで上昇してしまうという試算もあり、人類・生物が危機的な状況にあることには変わりありません※1

気候変動による影響はすでに漁業者からも懸念されるまで悪化しており、最近では「気候危機」という表現を耳にすることも多くなりました。では気候変動は海にどのような変化をもたらすのでしょうか。

海は、人の経済活動や生活に由来する過剰な熱の約9割、二酸化炭素の年間放出量の約3割を吸収しており、気候変動の緩和に大きな役割を果たしています※2。しかし、その結果、海は海水温の上昇と海水の酸性化という主に二つの問題に直面しています。

●海水温の上昇

気象庁によると、世界の海面水温は100年あたりで0.56度の推移で上昇しています。

年平均海面水温(全球平均)の平年差の推移
各年の値を黒い実線、5年移動平均値を青い実線、長期変化傾向を赤い実線で示します。
平年値は1981〜2010年の30年平均値です。
出典:気象庁ホームページ

 

日本近海における、約100年あたりの海域平均海面水温(年平均)の上昇率は、+1.16℃。これは世界平均(+0.56℃)の約2倍のスピードで、日本の気温の上昇率(+1.26℃)とほぼ同じです。

海水温が上昇した場合、水産業にはどのような影響があるのでしょうか。​​まず一つには、獲れる魚種の変化があります。たとえば、すでにこれまで千葉や茨城が北限だったブリが北海道で獲れるようになったり、瀬戸内海や東シナ海が主な産地だったサワラが日本海でも水揚げされるようになってきています。海水温の上昇にともない、海洋生物はそれぞれ適温の場所へと北上したり、回遊ルートを変更していると言われています。しかし、単に獲れる魚が変わるだけではありません。たとえばサケの場合、2050年にはオホーツク海の大部分がサケにとっては高温となってしまい、日本周辺のサケの回遊ルートは消失するという予測もあります※3。つまり近い将来、日本でサケが獲れなくなるかもしれないのです。

海水温の上昇は稚魚の隠れ場となったり、餌場となる藻場が著しく消失する「磯焼け」も引き起こします。磯焼けの原因には海水温の上昇だけではなく、アイゴ(魚)やウニなどによる食害もありますが、海水温の上昇が拍車をかけています。藻場の減少はアワビやイセエビ、サザエなどの生息域減少につながるため、水産業に与える影響も深刻です。

 


出典:Webサイト『地球温暖化と農林水産業』運営事務局

海水温の上昇はノリやワカメ、ホタテガイやカキなどの養殖にも影響をおよぼします。たとえば鳴門ワカメで有名な徳島県では、15,000トンあった生産量が2016年には5,900トンとほぼ4割まで減少。生産者の高齢化といった要因もあるものの、ワカメの漁場となる紀伊水道の年平均水温はここ40年間で約1.5℃上昇するなど、気候変動の影響はすでに顕著となっています※3

 

●酸性化

気候変動が海に与えるもう一つの影響は酸性化です。海水は平均で8.1pHの弱アルカリですが、大気中の二酸化炭素を吸収することにより酸性化が進んでいます。1990年から2020年の間で1年あたり平均21億トン※4の炭素を吸収しており、2020年の吸収量は29億トン炭素と1990年以降最大となりました​​。吸収量は10年単位で増加傾向にあり、海面のpHは、産業革命前に比べてすでに0.1程度低下しています。さらに、今世紀末までに0.065から0.31低下する​​と予測されています(IPCC, 2013​)。

海水が酸性化した場合、海洋生物にどのような影響があるのでしょうか。

酸性化が進むと、炭酸カルシウムの形成が難しくなり、炭酸カルシウムで骨格や殻をつくるホタテやアサリなどの貝類、カニやエビなどの甲殻類、サンゴ、プランクトンの成長に悪影響をおよぼします。特に稚貝への影響は大きく、十分に殻がつくれないと外敵に食べられやすくなったり、うまく餌を獲れないなどの問題が生じます。また、これらをエサとする生物の生存の危機にも直結しています。

 

●水産業の未来にもかかわる問題

このように、海の中はすでに海水温の上昇により、熱中症のような状況が生じており、そこに酸性化が追い討ちをかけていると推測されています。しかし、海洋生物の北上には限界があり、海を生息・生育域とする生物にとっては危機的な状況です。

今回ご紹介した二つの問題以外にも、気候変動による海中の酸素不足や潮の流れの変化、貝や魚の毒化といった問題も専門家から指摘されています。IPCCは、このままでは気候変動の影響により今世紀末には世界の漁獲量は最大で約24%減少すると予測しています※5。すでに、乱獲により持続可能な漁業への転換が大きな課題となっている水産業には大きな打撃です。

水産業の存続にもかかわる気候変動問題。水産業の未来のためにも気候変動を緩和させるための取り組みを水産業界でも急速に加速させていくことが重要です。

 

 

※1 Glasgow’s one degree 2030 credibility gap: net zero’s lip service to climate action​​
https://climateactiontracker.org/press/Glasgows-one-degree-2030-credibility-gap-net-zeros-lip-service-to-climate-action/

※2 「変化する気候下での海洋・雪氷圏に関するIPCC特別報告書」(2019)

※3 気候変動適応情報プラットフォーム,高水温耐性品種の開発で「鳴門わかめ」ブランドを守る(2021年11月時点)  https://adaptation-platform.nies.go.jp/articles/case_study/vol1_tokushima.html

※4 炭素の重さに換算した二酸化炭素の量

※5 変化する気候下での海洋・雪氷圏に関するIPCC特別報告書(2019)

(参考)
気象庁 海の健康診断表
https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/shindan/index.html
気象庁 海洋酸性化の知識
https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/db/mar_env/knowledge/oa/oa_index.html
水産庁  海洋環境の変化と水産資源との関連
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h29_h/trend/1/t1_1_2_3.html
「温暖化で日本の海に何が起こるのか」山本智之著 講談社

 

 

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